残雪や澄んだ風吹く
何年か前、駅から自宅まで
深夜タクシーに乗ったときのこと。
数日前に降った雪が
まだ路傍に残っているのを見て
タクシーの運転手さんが僕に言った
「この辺りは空気が澄んでいるから
まだ雪が残っているんでしょう」
その雪の後の数日間は
晴天が続き、車道には雪の跡はない。
だけど僕の自宅近くの歩道には
まだ鮮やかな白が残っていた。
空気の清らかさと雪解けが
どう関係しているか、
横浜のこの奥地の空気がきれいか、
僕は知らないし、調べもしなかった。
運転手さんのその言葉が
僕の心に沁み入り、納得したのだ。
今週木曜の午後、
僕は在宅勤務で仕事に没頭し
夕刻に職場の仲間から電話で聞くまで
白きひらひらが降っていることを
全く知らなかった。
その夜、窓の外、
一面が綿で覆われていた。
そして金曜の午前5時半から、
30分間、駅まで銀盤を前かがみで
注意深く歩き、会社に向かった。
だけどその日の夕刻、
東京のオフィスから駅周辺を見下ろすと、白い部分は溶けて黒に変わっていた。
昨日の土曜朝8時買い物に出たとき
路傍に雪が残っていた。
少し黒ずんで固まっているもの、
アイスバーンになっているもの。
七草粥の頃が過ぎ、1月の静謐。
食品スーパーの屋上から望んだ
富士山頂の白に、
白い雲がかかっていた。
僕には清らかに見えた。
「残雪や澄んだ風吹き町新た」弥七