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「あなた」

♫「もしも 私が家を建てたなら
小さな家を建てたでしょう
大きな窓と小さなドアーと
部屋には古い暖炉があるのよ
真赤なバラと白いパンジー
子犬の横には、あなた あなた
あなたがいて欲しい
」♪
小坂明子「あなた」

1973年の作品というから、
あれから50年近い歳月が流れてる。

あの頃、小学校4年生で
小さな公団で暮らしていた。
楽しみはテレビくらい。
ラジオに夢中になるのは
中学に入ってから。

当時のテレビは
各局ともに歌謡曲の番組を
大看板として揃えていた。
そして年末のレコード大賞、
歌謡大賞、紅白歌合戦は
それはもう本当に
国民行事の最たるもの。
これらのイベントのために
その一年の歌謡業界は
廻っていたと言えるくらい。

ところで、小学生だった僕は
この「あなた」を聴いて、
なんて綺麗なメロディなのだろう、
と心を大きく揺さぶられた。

冒頭にある歌詞にも夢を抱いた。

しかし、このあとの歌詞の展開に
寂寥の気持ちで心が大きく沈んだ。

♫「それが私の夢だったのよ
いとしいあなたは 今どこに」♪

なんだ、彼はいないのか。
別れてしまった、失恋歌かと。

あの頃からだ。
「哀愁」という言葉を聴覚で捉え、
美しいメロディほど哀しさを帯びるものと
勝手に解釈するようになったのは。

この歌はこのあとこう続く。

♫「ブルーのじゅうたん敷きつめて
楽しく笑って暮すのよ
家の外では 坊やが遊び
坊やの横には あなた あなた
あなたが居て欲しい
それが二人の望みだったのよ
いとしいあなたは 今どこに」♪

でもこの「あなた」は、
不思議な力を持っている。
このあとの畳み掛けと
ラストフレーズが秀逸。

ここで、小坂さんは
力を振り絞って絶叫するよう。

♫「そして 私はレースを編むのよ

わたしの横には、

わたしの横には、

あなた 、

あなた、

あなたが、

居て欲しい」♪


最後は希望で終わる。


僕は今、映画「風と共に去りぬ」の
ラストシーンを思い出している。
レット(クラーク・ゲーブル)が去り、
失意のスカーレット(ビビアン・リー)は
毅然と強く言う

「After all, tomorrow is another day.
(明日に希望を託して)」

小学4年生の僕が出会ったあの歌は、
哀愁があるほどに
希望高なる名バラードであった。

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