珈琲と言葉のチカラ
「コーヒーという飲み物は立派だね。
大したもんだと私は思うよ。
幸せなときにブラックで飲めば、
幸せを噛みしめることができるし、
心が騒ついているときに
砂糖とミルクに入れれは、
元気を少し取り戻すことができる。
こんなありがたい飲み物は他にないよ」
「珈琲屋の人々」(池永陽、双葉文庫)は、
主人公の珈琲屋店主である宗田行介と、
来店客との心の交流を描いた短編小説集。
冒頭の台詞は、シリーズ3冊目の
「珈琲屋の人々〜宝物を探しに」で、
行介が服役していたときの元刑務官、初名の言葉。
この日、初老の初名は自らが背負った過ちを
行介に打ち明けようと来店し、囁いたのだ。
緊急事態宣言が解除になろうがなるまいが
感染防止マインドは不動。
そしてこの解除にかかわらず、
珈琲を飲みながら小説を読む時間が僕の至福。珈琲ミルで豆を挽き、ゆったり淹れる。
珈琲好きと言えば、
僕はやはり映画俳優の高倉健さんを思う。
かつて中井貴一さんが
BS朝日の「ザ・インタビュー」で、
高倉健さんとの思い出を語っている録画を
先週、観返した。
中井さんが39歳のとき、
中国での映画撮影のロケで、
現地のスタッフと折り合えず
悶々とし、もう日本に引き返そうと
荷造りをしていたとき、
日本から高倉健さんが電話をしてきた。
中井さんは健さんに事情を打ち明けた。
もう我慢できず、帰国しようと。
健さんは言った。
「そこになにをするために行ったのか?
途中で投げ出して帰ってくるほど
みっともないことはないぞ。
絶対、自分のためになると思えよ。
日本に帰ってきて、次に会えるのを
楽しみにしてるから。」
中井さんはこれらの言葉で、
すっかり思い留まり
現地でのどんな理不尽なことも、
「まあ、いいんじゃねぇ」と
楽勝でその後の4ヶ月のロケを終えた。
僕はこのエピソードに感動し、
また珈琲を飲みたくなる。
何かと不安で不安定な時代、
思い通りにいかないことが多い。
でも健さんが好きだった珈琲を飲めば、
中井さんのように
「まあ、いいんじゃねぇ」と、
諦観と達観をフックに
上を向いて、前に進める。
珈琲と言葉の力は不思議だ。