見出し画像

2.成年後見制度の問題に関する一考察 政府・行政の説明不足と国民(人間の本質)の問題 行政の説明やパンフレットが判例や法律と異なる編

はじめに

本題の問題は、掲題の通りだ。成年後見制度の説明は実際の法律や判例と異なる事が書かれている。
個々の弁護士や司法書士の事務所のサイトが事実と異なる事を書くのは、まぁある程度仕方のない事だろう、しかし、省庁や地方自治体などの公的機関が事実と異なる・つまり嘘をつくのはかなり問題ではないだろうか?
これに関しては、「0.成年後見制度の問題に関する一考察 前書き」でも軽く触れた通りである。

成年後見制度の法律について

まずは、成年後見制度の関連法をみていきたい。PDFは上記リンクから成年後見の事務に関する法律を抜粋した物。

また、成年後見人の事務において主に重要となるのは以下の法律だろう。

(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
(財産の管理及び代表)
第八百五十九条 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
2 第八百二十四条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。

お気づきの方もいるかも知れませんが、特段上記に掲げた事を行わなかった事による罰則は無い。
また、ここで重要になるのが法解釈と判例である。
事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない』
ここでは、どの程度、どれぐらいの頻度などは全く書いてはいない。これは、大陸法の場合事細かく書いてあるが、日本の法体系の場合あくまで法文を作成しそれをどの様に解釈するかは自由であり、判例の積み重ねによって確立していく訳である。
つまり、「生活の状況に配慮」する間隔はどの様にでも解釈可能である。例えば、ひと月に1回親族や介護職員に聞いても良いわけであり、20年に一回親族や介護職員に確認しても良いわけである。
また、「心身の状態」に関しても程度について明文化されていない。例えば、毎月きちんと介護職員や病院に状況を確認して病気や怪我などの状態を確認しても良いわけであるし、手足が不自由になったとしても寝たきり状態になったとしてもそれは配慮(報告)すべき状態ではないと解釈する事も可能である。
成年後見人は年に1度後見事務報告書を家裁に提出する事になっているが、上記の法解釈の為、その事務報告書や家裁への連絡の内容もどこまで『成年被後見人の意思を尊重』『心身の状態及び生活の状況に配慮』するか明らかでない。
今回は民法編では無いのでここまでに留めておくが、この予備知識を持った上でそれぞれの省庁や地方自治体の資料などを見ていく。

各省庁や地方自治体の説明

①厚生労働省のサイト


この部分ですが、上記の通り法律には何一つ必ずやるとは書いていない。したがって、ここは『利用契約の締結や医療費の支払などを行ったりします』ただし、必ず後見人が締結や支払いをするとは限りません
が正しい表現だろう。

ここは、引っ掛けである。実際には、以下の法律を知らない弁護士が名古屋家庭裁判所から選任された。

  • 障害者基本法(後見事務全般において)

  • 身体障害者福祉法(障害者手帳の行政手続きに関して)

  • 精神保健福祉法(同上)

  • 障害者総合支援法(障害者医療証、特別障害者手当等)

  • 予防接種法(予防接種の件に関して)

  • 弁護士法(人権意識、教養に関して)

しかし、これは「弁護士・司法書士等団体の問題」「家裁独自の問題」の記事で詳しく書くが、必ずしも成年後見の知識や実務の能力がある専門職が選任されるとは限らないからである。

いや、弁護士なら法律の知識があるのでは?と思われる方もいると思いますが、ここが落とし穴で、医者と同じく弁護士にもそれぞれの専門が分かれるのだ。
つまり、オーソドックスな基礎知識は皆さん司法試験などを通してあると思われるがそれぞれの専門性は人によって異なる。
分かりやすい例として以下の記事を上げる。

橋本弁護士はあくまで(広義の)商法関連が専門であり、基本は企業の顧問弁護士等が主な業務である。
プライドがくすぐられたのかも知れませんが、消費者問題や宗教関連の事件を専門とする紀藤弁護士に論戦を仕掛けても全く歯が立たないのは自明の理である。

そう、つまり弁護士や司法書士とはいえ、必ずしも成年後見の事務を行うのに必要な知識を持っているは限らないのである。
つまり、医師だからといって心臓などの高度な外科手術を、精神科や心療内科に依頼しても対応できる訳がないのであるが、残念ながら司法界(家裁)ではそれがまかり通っているのが問題の一因である。

さて、今回は家庭裁判所編でも弁護士・司法書士会問題でも無いため、ここまでにとどめて次にいく。

本人の意思確認であるが、実際には本人の意思を確認しない成年後見人は多い。その証拠として、松江地裁平成26年(ワ)第191号がある。
本事件は、後見人が就職した当初(平成13年)こそ年に1回本人の状態を実際に会って確認しているが、平成20年7月以降*(?)は後見終了した平成26年までの間、本人に会うことも無く施設関係者による聞き取りのみだった。
※判決文に明記されていない為不明
その間の平成21年には、被後見人は胃ろうを増設している。
しかし、本事件の元後見人は家裁に対して体調の変化を一切報告しておらず、胃ろうの増設も家裁に報告していなかった。

また、別の事件の名古屋家裁令和4年(家)第32576号でも、後見人は被後見人が令和2年に四肢不全麻痺なったにも関わらず、下記の通り貢献事務報告書の健康状態の変化に特に無いにチェックを打ち、申立人は身上監護に関して意欲を欠いている、正確な報告をしないのは後見人としての能力が欠けているのを理由として解任を申立た。
また、後見人は後見事務開始時は面会した可能性があるが、一見資料によると1度も被後見人と直接面談したことはない。
しかし、名古屋家裁は財務の管理状況等に関して報告しているため、後見人としての適格性を疑わせる点が無いとして解任事由が無いとした。
身上監護に関しても被後見人の利益を害するような不適切な後見事務を行ったとは認められないとして、解任事由は無いとした。
(話が噛み合っていない様に見えるが、事実としてその様な審判が出ているので仕方ない)

また、上の審判文の通り年金手続を約5年に渡りしていませんでしたが、裁判所は手続をしなかったとしても解任事由は無いとの事だ。
つまり、裏返せば年金手続をしなくても良いと解釈する事も出来る。
よって判例からすれば、上記厚労省のサイトは判例とは異なる。

上記の下線の部分も、上記2点の判例通り健康状態や暮らしぶりに関して報告しなくても良いと、松江地裁や名古屋家裁の吉田真紀裁判官が審判しているため後見人は報告しなくても良い。

前回の『1.成年後見制度の問題に関する一考察 法律上の問題 民事訴訟法31条』で述べた通り、被後見人が受けた財産等の損失の訴訟は後見人しか訴訟できず、損害賠償請求を起こすためには後見人を解任する必要がある。
つまり『成年後見人』は損害賠償請求を受けるなど民事責任を問われる事はない。あくまで、元後見人が問われる可能性はある。
よって、この部分に関しては完全に嘘である。

②最高裁判所作成の成年後見成年後見に関するパンフレット

さて、厚生労働省はこの辺りにして、次は家庭裁判所が作成した資料を見ていこう。

概ね今まで指摘した点と変わりは無いが、6.Q2 Aに関してはある判例から引用しよう。

出典:旬報社 賃金と社会保障 No.1707より、松江地裁平成26年(ワ)第191号事件

裁判所のパンフレットには「成年後見人は、就任後速やかに、面談などを通じてご本人の生活の状況や今後の生活上の希望等を確認します。また、銀行等へ必要な届出を行い、後見等事務の方針を立てた後、財産目録及び収支予定表を作成し、家庭裁判所に提出します」と書かれているが、実際には11ヶ月まで松江家裁は許容している。
許容していないのではと思われるかも知れないが、民法853条に「成年後見人は後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、一箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。」とあり、家裁裁判官が伸長した訳であり、もし後見人に問題があれば民法846条にて裁判官の職権で解任可能である。
就任後速やかとは、一般的な感覚であればこの民法853条の通り1ヶ月以内と捉えられるだろうが、実際には11ヶ月は許容している訳であり、このパンフレットは読んだ人に対して誤解を与える物だと思われる。
また、このパンフレットを作成した最高裁広報課に問い合わせた所、以下の様な回答があった。
意訳:最高裁広報課が作成した物だが、書いてある内容に関しては説明出来ない

※生声注意

またこの判例は以下の様に判決が出ている。

出典:旬報社 賃金と社会保障 No.1707より、松江地裁平成26年(ワ)第191号事件

つまり、被後見人に損害が無ければ後見事務報告書に関して正確に報告しなくても良いとも取れる判決である。

③名古屋市成年後見あんしんセンターのパンフレット

次は名古屋市が発行した、名古屋市成年後見あんしんセンターのパンフレットを見てみる。

支援者(後見人等)が必ず「本人のために活動する」とは限らないとか、「生活や健康に配慮し安心した生活が送れるように必要な介護や医療契約」を結ぶとは限らないのは既出なので、赤線の部分を指摘していこう。
この点は、名古屋市成年後見あんしんセンターの職員も認めているが、赤線部分は断言しているのは間違いである。
正確には以下が正しい。

  1. 身元保証に関しても身元保証全ての身元保証が出来ない訳では無い

  2. 医療同意に関しては全ての医療同意が出来ない訳では無い

1に関しては、以下の6個に大別した上で、③と⑤、⑥に関しては可能である。

新潟大学上山 秦教授 専門職後見人と身上監護(第3版)より引用

上記の内①②は民法の条文と反するため、不可能である。
③の支払代行事務に関しては、被後見人の費用の支払いは当然後見人の事務であるから身元保証は可能である。
④の引取に関しては、生者の身体の引取は扶養義務ではない為不可能だが、転院先の契約は後見人の仕事であるため当然身元保証は可能である。また、死者に関してはまた別の事務になる。
⑤の病態の急変などによる緊急連絡先の引受けは可能である。見守り義務の観点から被後見人の緊急時の対応として好ましいものであるが、これが長時間に渡る場合過重負担になると考えられるため、線引が難しい。
⑥に関しては次の医療同意権にて説明するため、ここでは省く。
これらに関しては、今回は民法編ではないため詳細について省かせて頂く。(引用:上記出版物より)

医療同意権に関しては、乱雑に全ての医療同意権が無いとする説明が多いが、正確にはこれは各法によって異なる。
まず、精神障害者の場合と、それ以外で分ける必要がある。精神障害者の場合は精神保健福祉法が関わってくるため、他の被後見人と法律が異なる。
精神保健福祉法において、後見人は第1順位の保護者になる(精神保健福祉法20条)。よって医療保護入院に関する同意権者になる(同33条1項)。
おわかりの通りもうこの時点で、パンフレットと異なる事が分かる(認知症と精神障害に関しては、本記事の本題ではないため省略する)。

次に、精神障害者以外の被後見人と医療同意権について、大前提として以下の事を覚えておいて頂きたい。

そもそも本人以外の医療同意行為に関して明文化された法律は無い

よって、家族が同意できると専門職後見人やパンフレット等で解説されていることがあると思うが、そもそもこの同意書自体に法的効力は無い。
実は医療機関が責任逃れの為に書かせているだけで、そもそも意味のない書類である。
新井教授の調査により以下の様な問題あるケースも見受けられる。
・医療側がともかく誰でも良いから同意してくれといい、友人や福祉関係者、付き添って来たヘルパーに同意を求めてきた例(前述の通り、法的効力はない無駄紙)
・同意の問題を厳密に受け止めて、同意がない以上止む終えないとして医療行為をやめた例
(筆者談:医療関係者はバカなのか?その様な意味のない同意書を作成する前に分からないなら分からないで、きちんと弁護士等専門家に聞くべきであり、専門家が意味のない同意書を作成したのであれば、その費用を損害賠償請求で取り返せばいい話である。自身の責任逃れを優先し、患者のために仕事をしない医師は医師として社会的な資格が無いと筆者は断言する)

その上で後見と医療同意権について、考察していく。
これは予防接種とそれ以外に分ける必要がある。予防接種は予防接種法が参照される。よって、予防接種以外の医療同意権について考えていく。
まず、医療同意がそもそもどの様な問題があるかというと、本人以外(被後見人)の人によって医的侵襲行為が実施される問題がある。簡単に言えば、本人以外の人によって身体が弄くられるということだ。
当たり前だが、何人も勝手に身体を弄られる権利は無い。しかし、この後見の場合は別である。つまり、後見の場合は認知症や重度な知的障害など、全く判断能力が無い場合が考えられる。その場合、医師が本人に説明を行い医療行為を行う事に関して判断する事は難しい。その為、本人以外の第三者が判断する必要が出てくる。
その場合、いくつかの医療行為に関してパターンを分けて考える必要がある。

  1. 医的侵襲行為の無い医療行為(検診等)

  2. 日常生活の中で通常生じうる、疾病・怪我(風邪・骨折・歯痛)

  3. 医的侵襲行為の大きい、重大な治療行為

  4. 延命治療等、本人の意思によって変わる医療行為

この内、1に関しては認められて当然とする学説が多い(新井・上山・床谷・能見等先生方各説)。何故ならば、そもそも実務においても医療や介護契約を締結する際に、上記の検診等に関してはサービス(契約)に含まれている事が殆どであり、医療同意権が無いと主張する後見人も実際には締結(≒同意)している場合が殆どである。つまり、専門職後見人らが意識しているかしていないかともかく、後見人らの主張と行動が矛盾している。
2に関しては、賛否分かれる。前述の通り、風邪の治療などは契約に含まれている場合が殆どであり前述の通り、後見人は知らず知らずの内に同意している場合が多々ある。
また、骨折や歯痛は被後見人の健康状態が良好な場合は、被後見人のQOL向上の為に当然受けたほうが良い医療行為であり肯定説もある。
3に関しては、賛否分かれるが、今回は医療同意権問題では無いので詳細は省く。基本的に否定派が多い。
4に関しては、本人の意思が重要になる医療行為であるから、基本的には認められず、肯定説は筆者の知る範囲で見たことがない。
出典:新井誠教授 成年後見と医療行為より

今回は医療同意権についての問題ではないので、ここまで留めておくが、既出の通り医療同意権を否定している弁護士や司法書士も、平然と介護や医療施設の契約締結時に医的侵襲行為の無い医療行為に関して同意しており、その事に関して争った事はない訳であるから、後見人に医療同意権はあるかどうか法解解釈上分からないが、一部に関して医療同意していると言うのが実情である。よって、もう明確な通り上記パンフレットで断言しているのは間違いである。

筆者談

この事に関して文句がある専門職成年後見人は、直ちに施設と訴訟すれば良い話である。既出の通り本邦の法体系は判例の積み重ねによって確立していく訳であるから、文句があるなら契約書に関していくらでも訴訟し判例をもって明確にすれば良い話である。
自身が責任を取りたく無いから嘘をつくのはやめるべきであり、弁護士の専門職後見人は弁護士法に則って社会的正義を実現し、法制度の改善をすれば良い話である。つまり、こちらからすれば知ったことではないので、上記の通り締結時に医療同意しているし、介護サービス計画書などは親族に丸投げしている後見人も多いだろうが、きちんと読んで断固として医療同意権を認めないのであれば契約内容の変更等を施設側と交渉するなり訴訟すれば良い。

まとめ

ここまで述べてきた通り、実際の法律・判例と異なる、もしくは正確性を欠く内容のサイトやパンフレットが各公共機関から出されている事が分かったと思う。
大別して以下の様なパターンがある。

  1. 明らかに法律・判例と異なる案内

  2. 法解釈が分かれる内容にも関わらず、断言されている案内

  3. 読む側を誤解させる表現

  4. 正確性を欠く表現

全て十分問題のある内容だとは思うが、特に1.2に関しては早急に修正するべきであり、この様な案内を行う以上一旦は成年後見制度の利用を止めるべきだと筆者は考える。
特に1は、公共機関の出すウェブページや出版物として非常に問題がある。

これらに関しては直接指摘した訳では無いが、かなり近いことを以前厚生労働省に対して以前筆者は以下の様に意見書を出したが、全く読まずに全文そのまま返却された。
読んだはずなら、是非の話以外の部分は対応可能なはず。特にウェブサイトの修正はそこまで工数の掛かる話ではなく、数日で完了するはずである(特に当該部分の削除なら1時間もかからない)。

この問題は某野党の国会議員を通して秘書の方に、この様に乱雑な回答ではなく厚労省にきちんと対応した担当者や連絡先等を付け、それぞれに対して回答することを抗議して頂いたが、乱雑に電話を切られたそうである。

つまり厚労省としては、成年後見制度によって利用を検討している人に対して

法律・判例と異なる認識をしても構わないという回答

と同義と取れるだろう。
今まで述べてきた通り、成年後見制度は一度使うと一生やめれない制度である。
それほどまで人生を左右する重大な決断を求められる制度なので、これから利用しようとする人に対して法律や判例と異なる説明はもちろん、誤解を与える表現もやめるべきである。
パンフレットやウェブサイトに問題がある訳だから、これらのパンフレットやウェブサイトを見て後見開始の審判を申立て、これらの説明と異なる事があった場合は、当然後見人の解任や変更、後見の終了を認めるべきと筆者は強く言いたい。これをもってこの記事を締めます。

※記事は随時誤字や文法の間違いを加筆修正します。重大な修正は取り消し線を付けて修正を明らかにします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?