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シカゴ・インディの最前線──Horsegirlが描くノイズの向こう側
シカゴのDIYシーンから突如現れたHorsegirl。彼女たちのデビューアルバム『Versions of Modern Performance』は、80年代から90年代のオルタナティブ・ロックのエッセンスを抽出し、現代に蘇らせたような衝撃をもたらした。しかし、最新作『Phonetics On and On』は、その期待を遥かに超える進化を遂げている。より自由に、より奔放に──ノイズの向こう側で、彼女たちは新たな音楽の地平を切り拓いている。
轟音と静寂の間を遊泳するサウンド
Horsegirlは、ノラ・チェン(ギター/ボーカル)、ペネロペ・ローウェンスタイン(ギター/ボーカル)、ジジ・リース(ドラム)という3人組。2022年にリリースされたデビュー作『Versions of Modern Performance』では、シカゴの名門スタジオElectrical Audioで録音を行い、ダイナソーJr.やソニック・ユースの遺伝子を受け継ぐ荒々しいギターサウンドと、メロディの中に潜む儚さを同居させた。そこにあったのは、シューゲイズやポスト・パンクの文脈を受け継ぎながらも、決して懐古主義に陥らない鋭い感性だった。
新作『Phonetics On and On』──音楽的探求の深化
そして2025年、新作『Phonetics On and On』がリリースされた。プロデューサーにはウィルコや、ディアハンターなども手掛ける、英ウェールズ出身のケイト・ル・ボンを迎え、シカゴのThe Loftで録音。デビュー作のノイズヘビーなサウンドから一転し、ミニマルかつポップ志向の音作りが際立つ作品に仕上がっている。ヴァイオリン、シンセサイザー、ガムランタイルといった新たな楽器の導入により、楽曲の質感はより多層的になった。
リードシングル「2468」は、ザ・レインコーツを思わせるヴァイオリンの旋律と、リズムの緩急が心地よいナンバー。一方で、「Julie」はシンセサイザーのドローンサウンドに乗せたペネロペのボーカルが特徴的で、ノラのアヴァンギャルドなギターソロが楽曲に深みを与えている。
Horsegirlが示す新たなフェミニニティ
さらに興味深いのは、メンバーたちが現在21歳となり、ニューヨーク大学に通いながら音楽活動を続けている点だ。彼女たちは学業とバンド活動のバランスを取りながら、バーンアウトを避け、創作の喜びを維持することを重視している。そして、これまでのインディ・ロックの伝統的な枠組みにとらわれず、女性らしさや少女期を積極的に表現する姿勢が、新作には色濃く反映されている。
Horsegirlの進化はどこへ向かうのか
Horsegirlの『Phonetics On and On』は、デビュー作の成功に甘んじることなく、音楽的・精神的に大きな飛躍を遂げた作品だ。新たな音楽的探求と個人的な成長が融合し、彼女たちのアーティスティックな成熟を示している。このアルバムは、現代のインディ・ロックシーンに新たな風を吹き込むだけでなく、リスナーに深い感動を与えることだろう。