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【接触】ロシアの極秘チームのメンバーとは何者なのか

民間人に多くの犠牲者を出したウクライナへの巡航ミサイル攻撃。調査集団べリングキャットはロシアのGVCという組織に極秘部門があり、攻撃を遠隔操作していたことを解明した。今回は、極秘チームのメンバーの詳細な行動記録を明らかにするとともに、本人たちにも直接、接触。果たして彼らは何を語るのか。【前回はこちら】

遠隔操作で殺人をしたのは誰なのか

匿名のGVCメンバーにより提供された、2013年に撮影されたGVCグループの集合写真。一番右側にいるのがイゴール・バグニューク中佐。ベリングキャットはジオロケーションにより、写真の撮影場所をズナメンカ通り19番地にあるロシア連邦軍の参謀本部が使用する広い建物の中庭だと特定した(courtesy of Bellingcat)

GVCで働いている軍事エンジニアたちのバックグラウンドは多様だ。卒業後すぐ陸軍もしくは海軍で働きはじめ、後に軍事エンジニアリングの専門教育を受けた者もいれば、ITやコンピューター科学系の民間企業に勤めていてリクルートされた者もいる。

GVCでミサイルの飛翔経路プラニングを担当するチームの直接的な指揮官は、イゴール・バグニューク中佐と思われる。これはロシアの闇市場で入手した、バグニューク自身のものも含む11名のエンジニアたちの電話データの分析に基づいた推測だ。個々のメンバーはバグニュークと連絡をとっていたが、もっと上位の将校と連絡をとっていたのはバグニュークだけだったので、上下関係が判明した。

GVCメンバーにより提供されたイゴール・バグニューク中佐の写真。第2級の武功メダルを含め、軍の勲章をいくつかつけている(courtesy of Bellingcat)

さらに、顔認識と階級から、GVCメンバーの集合写真に写っているなかでは最も階級の高い人物だとわかった。記者と話した匿名メンバーも、バグニュークが直接の指揮官だと言った。

バグニュークの経歴の一部は、HimeraSearchやGlaz Bogaなどの各種の集積データベースにある漏洩データから再構築できる。

彼は1982年にリガで生まれ、2004年に戦略ミサイル軍アカデミーの、ロシアのミサイルのITシステムを専門とするセルプホフ分校を卒業している。彼はロシア西部の都市ウラジーミル近郊にある29692部隊に配備された後、2010年以前のどこかの時点でモスクワに転属となり、GVCに加わった。

GVCメンバーから提供された写真でバグニューク中佐がつけているメダルと階級章を見ると、彼が「シリアでの軍事作戦への参加」に対してメダルを授与されているとわかる。

このメダルは2015年から2020年のあいだにロシア軍人に対して授与されたものだ。ロシア軍は確かに、2015年から2017年のあいだ、シリアで空中発射型海上発射型の巡航ミサイルを運用していた。2016年にアレッポに対して行われた空爆もそのひとつだ。

イゴール・バグニューク中佐がつけている、シリア紛争で従軍したことに対するメダル(courtesy of Bellingcat)

バグニューク中佐が統括するグループの軍人数人がシリアに関わっていたこともオープンソースで裏付けられる。

クレムリンの公式ウェブサイトにある写真には、2021年1月にダマスカスを訪問した際にシリアのバッシャール・アル・アサド大統領と話すプーチン大統領が写っている。写真につけられたクレムリンの声明文によると、この会合はシリアにあるロシアの厳重警備された軍事指揮センター内で行われたという。

2人の大統領の後ろには、名前を明記されていないがロシア人将校が列になって座っている。うち1名は、バグニュークが現在のウクライナ侵攻のあいだ緊密に電話連絡をとっているGVCメンバー、アンドレイ・イヴァンユーティン少佐のようだ。顔比較ツールにより、ベリングキャットはイヴァンユーティンのSNS「VK」のページを特定した。

攻撃の前には高官に報告

バグニューク中佐の1カ月にわたる電話のメタデータを分析すると、あるパターンが見えてきた。

彼はGVCチームの部下に比較的頻繁に電話をかけていたが、自身の上官――ローベルト・バラノフ少将およびエヴゲニー・カプシュク大佐――とはあまり話していなかった。GVCの上官への電話連絡を詳しく調べると、上官への電話と大規模なミサイル攻撃とのあいだに相関関係があるとわかった。

10月に行われた大規模攻撃の1か月前、9月10日12:41にバグニューク中佐はバラノフ少将と話している。この電話の際、バグニュークはズナメンカ通り19番地のオフィスにいた。同日の夜21:20、最後にバグニュークが電話したのはR-500ターゲット設定の専門家、アレクセイ・ミハイロフ大尉だった。

翌11日、ロシア国防省は「過去24時間で」ロシアがR-500ミサイルをドンバスに展開するウクライナ軍に向けて発射したと発表した。同日、ロシアはさらに12発の巡航ミサイル――カリブル6発と空中発射型のKh-101ミサイル6発――をウクライナに向けて発射した。ウクライナのエネルギー・インフラを狙った攻撃のなかで報道された最初のものだ。

12日、バグニューク中佐がウクライナとの国境に近いロシア南部の都市ロストフに飛んだことが電話の移動記録からわかる。12日から13日にかけての夜間、彼の電話記録は慌ただしかった。真夜中から午前2時のあいだに、彼は上官のカプシュク大佐と4回通話し、部下のマトヴェイ・リュバーヴィン少佐(カリブルの専門家)とアレクセイ・ミハイロフ大尉(R-500の専門家)に2回ずつ電話をかけている。

続く14日、ロシア国防省はウクライナ軍の司令部をターゲットとして、イスカンデル巡航ミサイル発射システムを用いた「夜間の急襲」を行なったと発表した。ロシア国防省によると、ウクライナ領域内からミサイルを発射したとのことだった。

ロシア国防省が発表した映像のスクリーンショット。夜間にイスカンデル・システムからR-500ミサイルを発射したところだという。

同日遅く、ロシア軍の爆撃機が8発のKh-101巡航ミサイルをウクライナ中南部の都市クリビーリフにあるダムに向けて発射した。その後ずっとクリビーリフの一部は断水に見舞われた。

我々が特定したバグニューク中佐とバラノフ少将の電話連絡で、最も早いのは3月13日に行われたものだ。この日の朝、2人は10:00から10:30にかけて話した。その朝のさらに早い時間、ロシアはKh-101とカリブルを30発発射し、侵攻開始以降で最も凄惨な攻撃を行なっていた。少なくとも兵士や将校35人が死亡し、134人が負傷したとされる。死傷者には近隣のヤヴォリウにある軍事訓練施設にいた外国人の教官も含まれる。

(訳注:ヤヴォリウへの攻撃を非難する在キーウ米国大使館のツイート)

殺戮までの1時間

バグニューク中佐の電話記録は、他にもいろいろな情報を明らかにしてくれる。

たとえば彼が熱心なコイン・コレクターであって、時間の大部分を――勤務時間を含め――eurocoin.ruのようなコイン取引サイトと電話するのに使っていることだ。彼のコイン収集への執念は、特に10月10日の朝の記録を見ると驚かざるをえない。キーウにミサイルの一斉攻撃が行われ、数十人が死ぬことになる約1時間前、電話記録によると彼は早朝の6:45にコイン取引サイトeurocoin.ruに何度か連絡を取っているのだ。

バグニューク中佐は、Avito.ruというロシアにおけるEbayのような個人売買ウェブサイトの売り手としても活発に活動している。最近ではコインや家電を販売したようだが、本記事の発表時点で、彼は2014年にプーチン大統領から授与されたメダルを売りに出している。

このメダルと同種のメダルを掲載している他の売り手の説明によると、これは「ソチオリンピックの開催に対する貢献」のために授与されたものだという。バグニュークがオリンピックでどのような役割を果たしたのかは不明だ。彼は、プーチンからのメダルを6,500ルーブル(10月30日現在のレートで1万5600円)で売りに出した。

バグニューク中佐がウェブサイトAvito.ruで売っているメダル

10月10日のミサイル攻撃の以前にバグニューク中佐と部下のあいだで行われた電話連絡は、10月2日に始まり、攻撃の前日9日に最大回数を記録する。エンジニアたちに計11回電話をかけているのだ。2日より前の2週間ほどは、ほとんど連絡が途絶えていた。この時期に集中的な巡航ミサイル攻撃が報告されていないことと合致する。

このことから、10月10日のミサイル攻撃の計画はおそらく約1週間前に立てられたと考えられる。これはウクライナ当局が入手した情報とも一致する。エネルギー・インフラへの攻撃が、10月8日にクリミア半島のケルチ橋が一部破壊されたことに対する直接的な報復ではないことも示唆している。

ミサイル攻撃前日の9日(日曜日)15時過ぎ、バグニューク中佐は3人の将校に順番に電話をかけた――それぞれミサイルの1種類を専門とするGVCグループのエンジニアたちだ。

15:17、バグニュークは地上発射型R-500巡航ミサイルを担当するチームのアレクセイ・ミハイロフ大尉に電話をかける。数分後、彼は海上発射型カリブル巡航ミサイルのチームの上級エンジニアの1人、マトヴェイ・リュバーヴィン少佐に電話をかけた。リュバーヴィン少佐のオフィスの固定電話にかけていることから、少佐が日曜の午後に職場にいたことがわかる。

2時間近い休止を挟んで、17:10にバグニューク中佐はGVCの副司令官の1人であるカプシュク大佐からの電話を受けた。上官との電話を終えると、バグニュークはただちに空中発射型Kh-101巡航ミサイルのチームのオルガ・チェスノコワ中尉に電話をかけている。バグニュークはチェスノコワ中尉に17:16と17:17に2回電話をかけ、17:20に上官のカプシュク大佐に電話をかけている。つまり15:17から17:17のあいだにバグニューク中佐は翌日ウクライナに撃ち込まれることになる3種類のミサイルを担当する3チームのメンバーそれぞれに電話をかけたということだ。

その後、バグニューク中佐はモスクワの郊外にある自宅から、ズナメンカ通り19番地の職場、ロシア軍参謀本部に向かった。携帯電話の基地局のメタデータによると、彼はその晩遅くまで職場にいたようだ。21:15にGVCの司令官バラノフ少将に最後の電話をかけてから帰宅した。

バグニューク中佐は、携帯電話のメタデータによると、翌10日の朝05:30過ぎに職場に戻ったようだ。ウクライナに対する攻撃が始まる前、オンラインのコイン取引にちょうどいい時間だ。

チームのメンバーに直接、連絡してみたら…

GVCのミサイル飛翔経路プラニングを担当するグループの軍事エンジニアたちはほとんどが20代後半の若者で、最も若いメンバー4人はまだ24歳だ。大半が民間で数学かITの教育を受けており、全員が戦略ミサイル軍アカデミーや海軍工学学校で軍事エンジニアリングの訓練を受けている。

同年代の軍人の多くは前線の近くで何らかの個人的危険にさらされているが、こうした青年たちはモスクワとサンクトペテルブルクの安全な指揮センターで働いており、自分たちが重要な役割を果たしている戦争からの影響はほとんど受けずに日々過ごしているようだ。

戦時中である現在の給与の額は不明だが、Glaz Bogaのようなデータ集積サイトには一部のメンバーの給与データが漏洩され、入手できる。2018年から2020年にかけてのデータによると、給与は上がり続け、2018年の平均月額は8万ルーブル(10月30日現在のレートで19万円余り)だったが2020年には13万ルーブル(31万円余り)になっている。

漏洩された給与データ(ソース:HimeraSearch集積データ)

「その質問には答えられない」

マトヴェイ・リュバーヴィン少佐は、電話回数からいって、バグニューク中佐の部下のうちで上位にいるようだ。彼は1992年生まれで、2009年にサンクトペテルブルクのナヒーモフ海軍学校を卒業し、2014年にサンクトペテルブルクの海軍工学学校を「特殊目的システムのIT自動化」を専門として卒業している。

卒業後は、銀行2行のITサポート部門や医薬品研究開発の会社など、民間企業で働いていた。数年間は普通のモスクワの都会人らしい生活を送り、海外旅行をしたり、ファッションショーを企画したり、最新の映画について感想をツイートしたりしていた。

リュバーヴィンは社会的な問題についても姿勢を明らかにしていて、メッセージアプリ「テレグラム」がロシア当局へのデータ提供を拒否した際には支持するリツイートをしていたり、独立系社会運動プログラム「活動する市民」のメンバーになったりしている。

彼の電話番号は「賢い投票」の漏洩した参加者データベースにもあった――「賢い投票」は、アレクセイ・ナワリヌイが設立した反汚職基金による、与党〈統一ロシア〉所属政治家以外の候補者が選挙で当選するような戦略的投票を呼び掛ける活動だ。

マトヴェイ・リュバーヴィン少佐。左:2009年の卒業式。中央:2014年の海軍工学学校卒業式。左:2022年の履歴書の写真。

2020年には既に、リュバーヴィンは飛翔経路を事前にプラニングするGVCの極秘グループのために働いていた。

2022年3月にフリーランス求人ウェブサイトに投稿された彼自身の履歴書によると、ロシア大統領から感謝状を授与されたという。(おかしなことに、リュバーヴィンは開戦後でも、GVCで働きつつ、コピーライティングや編集といった副業で稼ぐことを許してもらえると思い込んでいたふしがある。また、「戦略的研究や管理の訓練マニュアルの組織」と「楽曲の構造と押韻の提示」を提供できるとも書いてある)

リュバーヴィンの電話記録とミサイル発射の相関関係を監視した後の4月、ベリングキャットは「テレグラム」の保護されたチャット機能で彼に接触した。

ミサイル攻撃による多数の民間人犠牲者についてどう感じるか、コメントしてほしいと尋ねたのだ。リュバーヴィンはこう応えた。
「プロらしくしてくれ。具体的な質問をしてほしい」

我々は質問を変えた。
「巡航ミサイル攻撃による多数の民間人死傷者は、意図した結果なのか、それともターゲット設定のミスの結果なのか」

リュバーヴィンはこの質問には答えられないと返した。この返事の後、記者は「テレグラム」のアプリからリュバーヴィンがチャットのスクリーンショットを撮ったという通知を受けた。

その後、数カ月にわたり我々は彼に質問を投げかけたが、彼は返答を拒否した。しかし彼は、反論の機会を持てるようにベリングキャットが接触したメンバーのなかで最も率直な人物のひとりだったといえる。

他にも、(記事の冒頭に示した)GCVの集合写真やメダルを付けたバグニューク中佐の写真を送ってくれたメンバーがいるが、その人物はベリングキャットと〈インサイダー〉が接触した相手全員に渡した、使い捨ての匿名のメールアカウントで連絡してきたため、個人が特定できていない。

軍服を着ていても「バスの運転手だ」「配管工」「花屋です」

ベリングキャットのパートナーである〈インサイダー〉の記者は、バグニューク中佐がこの6カ月で最も頻繁に連絡をとっていたエンジニアのひとりであるユーリー・ニコノフ大尉に接触した。彼はGVCや進行中の戦争については何も知らないと述べた。自分はバスの運転手であり、ミサイルのターゲット設定チームに関係があるという主張は「まったくのナンセンス」だと言った。

〈インサイダー〉が接触した後、ニコノフ大尉はSNS「VK」のアカウントを非公開にした。新しいプロフィール画像は、赤いボタンを押そうとしているロシアの軍服を着たアニメのキャラクターだ(これは悪名高いミサイルの命中精度のお粗末さをネタにした、ロシア兵士のジョークをイラスト化したものらしい)。

この記事を公開した時点では、ニコノフ大尉はロシアの出会い系サービスのウェブサイトにアクティブなアカウントを持っていて、そこでは自分をITスペシャリストと言い、「ルックスは完璧」、国のために働いていると記している。

カリブル巡航ミサイル担当チームに属するユーリー・ニコノフ大尉のSNS「VK」アカウント。2019年のアカウントと、ベリングキャットらがコンタクトした後、2022年7月以降のアカウント(ソース:vkfaces.com)。

バグニューク中佐の電話記録にあるのと同じ番号に電話をしていたGVCグループの他のメンバーも、本人であることは認めたが、GVCでの勤務やロシア軍との関係は否定した。

例えば、この4カ月間にわたりバグニューク中佐と電話で30回以上話しているセルゲイ・イリイン大尉は、彼自身の電話記録からもカリブル巡航ミサイル担当チームの同僚8人としばしばミサイル攻撃と相関する日時に連絡していたことがわかっている。しかし〈インサイダー〉に対し自分は「自営業の配管工」であり、計算らしいものといえば「配管工事をするときに便利な計測」ぐらいしかしないと述べた。しかしイリインは他の軍事エンジニアたちと一緒に、GVCの徽章をつけた軍服姿で集合写真に写っている。

左:GVCのグループ写真に写っているイリイン大尉。右:彼の個人特定にあたり参考になった彼の妻のSNSアカウントにあった家族写真。

ミサイル攻撃が行われた前後にバグニューク中佐の電話記録に登場したチームメンバーに、アルチョム・ヴェデノフがいる。彼は電話に出て、本人だと認めたものの、自分は農場で働いていると答え、記者に対して豚の食肉処理や鶏の羽根をむしる方法を説明しようかと言った。

カリブル巡航ミサイルのエンジニアで、サンクトペテルブルクの海軍工学学校の学位を持っているイヴァン・ポポフ少佐は、自分はプログラミング言語Pythonを独学で習得したものの、GVCやミサイル飛翔経路のプログラミングについては聞いたこともないと話した。同じくカリブル巡航ミサイルのチームにいるエカテリーナ・チュグノワ少尉は、自分は花屋だと言い、電話番号を間違えていると主張した。

別のGVCのエンジニア、ウラジーミル・ヴォロヴィエフはロシア国防省およびGVCとは何の関係もないと言ったが、GVCの徽章をつけた軍服姿の自分の写真を見せられると、この写真を見たのは人生で初めてだと言い、自分が軍服を着ていることに対してショックを表明した。

(了)

取材・執筆  クリスト・グローゼフ

ベリングキャットのロシア主任調査レポーター。専門は安全保障上の脅威、領土外での極秘作戦、情報の武器化。2018年にイギリスで起きた神経剤ノビチョクによる毒殺未遂事件の犯人を追った調査報道により、グローゼフとチームはヨーロッパ報道賞(調査報道部門)を受賞した。

翻訳 谷川真弓
2022年10月24日


第1回 ウクライナへのミサイル攻撃を遠隔操作していたのは誰か

第2回 知られざるロシアの組織GVCとミサイル攻撃の関係とは