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神田川と万世橋

スローリー余話
川と橋と美味しいもの#12

江戸時代このあたりには中山道と御成街道の分岐点で筋違門と見附が設けられ交通の要衝で神田川沿いには青物商などで賑わう場所でした。現在の「万世橋」の位置には1884(明治 17 )年に架けられた木橋があり、昌平橋→新万世橋→万世橋と名称を変更し、関東大震災後の1930(昭和5)年に震災復興事業として現在のアーチ橋に架け替えられました。


万世橋から昌平橋方面をのぞむ

橋が架かる神田須田町は奇跡的に戦時中の空襲被害を免れた場所として有名です。そんな街の歴史的建造物で営む『あんこう鍋 いせ源』と鳥すき焼き専門店『ぼたん』は今や海外観光客も多く訪れる美味しい老舗です。
(以下、2023年7月発売『東京Slowly² vol.1』より)

生産者と寄り添って誕生した
『鮟鱇』の新たな美味しさ

神田須田町
あんこう鍋 いせ源

名物・あんこう鍋

『いせ源』は天保元年創業の鮟鱇鍋専門店。昭和5年建築の、歴史ある建物の玄関には下足番が立ち、しっとりとした和室には整然と並んだ食卓と由緒ある絵画が飾られている。そんな老舗らしい品格に満ちた空間で愉しめるのは、北海道や青森の生産者から仕入れる極上品の鮟鱇。水揚げから大切に扱われてきた鮟鱇を吊るし切りにして、臭み抜きや骨抜きなどの下ごしらえを丹念に行う。七代目のご主人に就任されて10年。かつては築地から仕入れていた鮟鱇は、今は直接生産者から仕入れているという。

あんこうの柳川

「うちの初代はどじょう屋ですから」という七代目に、ご用意いただいたお料理は、夏におすすめしたいお昼の定食『鮟鱇の柳川鍋』。ゼラチン質のぶりぶり(顎肉)、蛋白な味わいの白身、優しい風味の皮など、鮟鱇の魅力をしっかりと伝えながら、卵と特製の割り下が夏でも食欲を刺激する逸品である。そして、もう一品はコロナ禍から発売をはじめた『鮟まん(あんまん)』。通常はお土産品として提供されているものを特別にいただいた。玉葱と鮟鱇を中華餡に仕立てられている新商品。コロナ禍で生産地へ行く機会が増え、生産者との交流から誕生したという。「直接仕入れることによって生産者にも『いせ源の鮟鱇』という意識が芽生えたことが嬉しい。関係性をこれまで以上に深めて新しい挑戦もしたい」という七代目。鮟鱇専門店としての美味しさへの追求は決して止まらない。

七代目のご主人・立川博之さん
最近では欧米のお客さまも多いという趣あるお座敷

あんこう鍋 いせ源
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町1-11-1
03-3251-1229
営業時間: 火~金11:30~14:00(L.O.13:30) 17:00~22:00(L.O.21:00)土・日・祝11:30~22:00(L.O.21:00)定休日:月曜※8月は営業時間が変更。事前に要電話

明治30年創業の鳥すきやき専門店
若き五代目の新たな挑戦

神田須田町
ぼたん


名物・鳥すきやき鍋

神田須田町の一角に建つ、趣深い木造建築。明治30年より『鳥すきやき』一筋で暖簾を受け継いできた名店『ぼたん』である。「昔からガスは使わないで炭と鉄鍋、これがうちのスタイルです」2年前に五代目になった城一泰貴さんはそう話す。鳥肉は生産者からまるごと1羽ずつ仕入れ、調理場で腿肉や胸肉、レバー、モツ、ハツ、皮などに解体。これらを鳥の脂を敷いた鉄鍋を使って備長炭で焼き、割下を足してグツグツと煮ていく。鳥肉以外の具材は葱と白滝、焼き豆腐だけの『ぼたん』の流儀。頃合いを見てひと口食べてみると、割下には鳥の旨味がよく馴染み、肉の味が生きている。クセも感じられないのは何よりも素材が新鮮な証拠だ。

締めでいただきたい親子丼

コロナ禍の最中に五代目になったご主人が、まず取り組んだのはアナログで管理していた伝票や労務管理などのデジタル化。そしてSNSをはじめとするネットを活用した情報発信だ。「最近では海外のお客さまがネット予約でお越しになります」と成果も上がっていると言う。さらにこの8月には厨房を全面改良して、新たにランチメニューの提供も秋以降はじめる予定だという。創業以来の続く『鳥すきやき』の美味しさや歴史的建造物に指定されたお店の風情などは大切に守りながらも新しい取り組みに挑戦する五代目にこれからも注目したい。


五代目ご主人・城一泰貴さん

ぼたん
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町1-15
03-3251-0577
営業時間:月~土11:30~21:00(入店は20:00まで)
定休日:日曜・祝日