台東区 根岸界隈
スローリー余話
街の”なりたち”#25
東叡山寛永寺のある上野の山の麓に位置する根岸は”春の鶯”や”夏の蛍”に象徴される四季を愉しむ場所として多くの文人墨客に愛され、初代・歌川広重によって描かれた江戸の名所ガイド本「絵本江戸土産 五編」にも「根岸の里」として紹介されています。1967(昭和42)年に台東区が刊行した「下谷・浅草町名由来考」には”上野台の崖下の地で根の岸”であったことが地名の由来と記され古くから自然の水と緑に恵まれた土地であったことが類推できます。今も寺院が多く立ち並び落ち着いた街並みには100年以上愛されてきた洋食があります。(以下、2023年7月発売『東京Slowly² vol.1』より)
お客さまと紡いできた
“美味しい理由”
上野・根岸
レストラン香味屋
扉を開けると、黒服に身を包んだウェイターが笑顔で出迎える。テーブルには純白のクロス、クラッシックホテルを想わせる優雅な空間で供されるのは、昔ながらの洋食だ。その基本は"ご飯に合うおかずである"こと。まもなく創業100年を迎える『レストラン香味屋』の一貫した哲学である。この店を代表する2枚看板は、2代目がはじめた『ビーフシチュー』と3代目がはじめた『メンチカツ』だが、いただいたのは夏らしい『冷製コンソメ』。そして彩りも美しい『洋食弁当』。「コロナ禍では、出前やテイクアウトで人気のメニューでした」と語る副支配人の岡田晃さん。近隣への出前はコロナ禍前から行っていたというのも下町らしいサービスだが、この3年、常連さんからは大変重宝され感謝されたという。
50年以上通い続けるお客さまもおり、先日は百寿のお祝いでステーキを召し上がった方もいるという。「お客さまにお店を大切に思っていただいていることに感謝します」と岡田さん。旧交を温めている友人同士や記念日を祝う家族連れ、普段着で食事を愉しむ常連客で賑わう店内は、やっと戻った日常の風景だ。「思い出したら食べたくなる美味しさ」は受け継がれたレシピだけでなく、顧客それぞれの思い出があるテーブルや空間、そして接客などによる賜物である。これこそが顧客と一緒に「美味しさ」を育んできた『香味屋』の魅力なのだ。
〒110-0003 東京都台東区根岸3-18-18
tel: 03-5603-4588
営業時間:11:30~21:00(L.O.20:00)2024年6月より
定休日:水曜・木曜 2024年3月より