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浅草三丁目 奥浅草界隈
スローリー余話
街の”なりたち”#27
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奥浅草エリアと呼ばれる浅草三丁目の言問通りからかつて遊郭のあった吉原(現在の千束四丁目界隈)までアーケードが1200メートル続く「千束通り商店街」。「千束」という地名はこのあたりが「浅草田圃」と呼ばれる豊かな田園地帯で「稲千束」に由来すると言われています。かつては遊郭・新吉原への通い道だった『千束通り』には鶏肉専門店や酒店、生花店や自転車店など地元に密着した商店をはじめ”町中華”や”うなぎ”などの飲食店が100軒あまり軒をならべ「奥浅草」の商店街として地元から愛されています。最近では洒落たカフェやハラール対応のスープ店などが新たに出店し外国人観光客でも賑わっています。この商店街の言問通り側のとば口からほど近いマンションの一角には浅草花街の老舗『割烹家 一直』があります。(以下、2023年7月発売『東京Slowly² vol.1』より)
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時代とともに歩んできた
老舗料亭の新たな発見
浅草・割烹家 一直
『割烹家 一直』。1878(明治11)年、当時は桜の名所として知られていた奥山(今の「花やしき」に隣接するあたり)で開業した。「桜豆腐」が名物だった大衆料理店から、大正から昭和初期の4代目の時代には100人以上の従業員をかかえる大料亭に変貌を遂げた。戦時下で休業した後、現在の場所で再開し、今日まで浅草花柳界では歴史と格式のあるお店として知られている。先々代の十一代目・市川團十郎や、数多くの政財界人にも長年愛されてきた料理店なのだ。店内は、今も芸者さんが接待する宴席が開かれる空間。こじんまりとしたなかにも気品が溢れ、そこで七代目のご主人と大女将さんが笑顔で迎えてくれる。
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2009年、現在の店舗への立替えを機に、地元のお客様が気軽に立ち寄れるようにと、予約なしのお昼の営業を開始した。新名物「鯛茶漬け」の誕生だ。まずは、活き締めの「お刺身」と小付けの「豚の角煮」で白飯を愉しみ、仕上げに薬味を加えて特製の出汁をかけて「お茶漬け」をいただく。鯛の風味を損ない上品な味のポイントは、昆布だけで取った出汁と、薬味として使われる塩昆布だ。鯛本来の美味しさを引き出しながら、愉しめるように調整したという。この新たな名物によって、顧客の裾野が広がった。社用接待だけではなく、家族や友人同士のお客様も増えているという。最近ではSNSで知ったという海外からの観光客が「笑顔で召し上がっていただいて良かった」と頬を緩めるご主人。数多くの著名人に長年愛されてきた名店の矜持が時代とともに進化している。
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割烹家 一直
〒111-0032 東京都台東区浅草3-8-6
tel: 03-3874-3033
営業時間:11:30〜13:30、17:00~23:00
定休日:日曜・祝日
夜は予約のみ。コースは1人15000円~(税・サービス別)