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鎌田さんの招き猫を写す

全国に招き猫の張子はさまざまにあれど、ぼくが最も惹かれるのは千葉県の郷土玩具「佐原張子」のつくり手、鎌田芳朗さんによるポップで緩やか、愛らしい招き猫です。

ひとつひとつのかたちと表情が異なる、自由奔放な作風。純朴な心を解き放って、おもむくままに制作するスタイルに心奪われ、ぜひとも手に入れたいと鎌田さんの工房「三浦屋」に電話とFAXでお願いしたのはたしか2018年ごろ。

年末年始の縁起物である干支の張子制作に追われて多忙そうでしたので、時間はかなりかかるだろうと覚悟してましたが、それでも最初は2、3ヶ月おきに状況確認の連絡を入れてました。そのたびに「ごめんねー、まだできてないんだー」と穏やかのんびりした調子で申し訳なさそうな鎌田さん。来週は何曜日に眼科院行くから留守にしてるよーと、尋ねてもいないのに私的な用事を伝える鎌田さんの素朴な人柄に触れると、催促する気も失せてしまい。しかし、1年、2年と経過すると電話じたいが迷惑に感じて諦めてしまったのです。今、思えば、電話ではなく、工房に足を運び、顔を合わせ続ければ良かったのかもしれません。この詰めの甘さをのちに悔やむことになります。

ようやく鎌田さんのもとへ行くことができたのは2021年6月になって。事前のアポなしで佐原の町に着いたとき、すぐにダメ元でと三浦屋へ電話したのですが留守のよう。また病院に出かけてるのかなと思いつつ、まずは訪ねてみました。工房の戸は開いてましたが、誰もいなくて、勝手に見学だけさせてもらったのです。

憧れの招き猫、その型らしきものや出来たてホヤホヤの完成品が机の上にごろりと無造作に置いてあって、高揚感がマックスに。しかし、鎌田さん不在ではどうしようもありません。ただ写真に収め、指をくわえて工房をあとにしました。あー残念!

じつはこのとき、鎌田さんは入院中で張子づくりはほとんどできなくなっていて、12月に肺結核で86歳で他界されました。東京のギャラリーをはじめ、全国的に鎌田さんのとりわけ招き猫は人気が高く、存命中も入手困難になってましたが、さらにレアなアートピースと昇華してしまったわけです。それからも鎌田さんの招き猫への想いは募り続けましたが、諦めの境地になってきて憧れを胸の奥へ仕舞いました。

情欲が再び湧き上がってきたのは、このところの張子DIYがきっかけ。トライ&エラーを重ねていくうちに(note記事『はじめての張子』、『二度目の張子』)、できちゃいそうな自信が深まってきたのです。今回は初回、二度目と違ってお面ではない置物なので、型を成形したら、そのまんま型に絵付けしていくことにしました。多様なバリエーションのうちときに魅力を感じたものを参考に制作開始。

新聞紙を丸めてだいたいの大きさを決め、紙粘土で覆いながら望みの造形に整えていきます。写したのは鎌田さんの招き猫のなかでも最もシンプルなバージョン。鼻の凹凸もほぼ無く、耳のとんがりも省略。なんともミニマルな表現がオブジェっぽくて格好いいのです。

さらに和紙を濡らして貼り重ね、腰のくびれ、右手から頭頂部への曲線など細部をつくりこんでいきます。

素地の完成です。これだけ観ると到底、招き猫になるなんて想像できないですよね。その自由気ままアバウトな造形が佳いんです。たぶん子供でもつくれる究極の簡素さが素晴らしい。

そして絵付けも素っ気なく。使うアクリル絵の具も白、黒、赤、金の4色のみ。鎌田作風でたぶん最もシンプルなかたちと絵付け。いかに最小限で済ませるか、鎌田さんはおそらく意識せず、無心で手の動きにゆだねてゴールに至ったひと品なんだろうなぁと思います。とはいえ、子供の純真な筆運びみたいに適度に描いているように錯覚しがいがちですが、線をなぞってみると、さーっとぶっつけ本番、いっきに迷いなく筆を走らせていることがわかります。ひとつひとつが見本なく、また基本形にいっさい縛られず、その瞬間にライブペインティングしてる。鎌田さんの天才的センスに感嘆です。

オリジナルに比してかなりおでこを盛り過ぎちゃったかな。でも、まぁいい感じで写せたのではとまたまた自己満足。嬉しくて居間のコーナーに仲間入りディスプレイ。この招き猫に関連してなんとなく猫をテーマに合わせてみました。

仄かにライトアップするのは、尊敬するイラストレーター佐々木一澄さんから譲ってもらった浅草今戸焼、白井家の丸〆猫。これも超人気な縁起物で入手はとても困難。佐々木さん企画の催しで縁あって迎え入れられたのは超ラッキーでした!

手前にちょこんと鎮座するのは佳き縁にちなんで素焼きのミニ招き猫。葉山真名瀬の渚でたまたま出会ったとき、あーっ!と歓喜の声を漏らしてしまいました。ビーチコーミングの収穫物として、ある意味、これ以上のラッキーアイテムは無いかもしれません。この浜では年始に正月飾りや神社の護符などを焼くどんと焼きがおこなわれるのですが、そのときの遺物かと思われます。表面の塗料だけ溶け、かたちは完璧に保持された希少な宝物です。ここでは福神の土鈴を拾ったこともあります。

愛猫家でもある榊 仁胡さんの鉱物を顔料にした水彩画の脇には、亡き愛猫チロのポラロイドSX70でスナップした写真を。葉山の海辺で偶然出会い、ともに暮らし、長寿をまっとうした白猫。今でも会いたくてしかたなくなるいい子でした。鎌田さんとの面識は得られなかったけど、その無念な想いがこの縁つながりコーナーにはこめられているんですね。

#佐原張子
#張子DIY
#鎌田芳朗
#佐々木一澄

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