TATAMIのソール交換
ビルケンシュトックの上級ブランド「TATAMI(タタミ)」。2016年に静岡市葵区紺屋町のナチュラルシューストアを訪ね、当時はTATAMIを扱う代理店でしたが、倉庫に一足のみ在庫していた『ユーコン』を分けてもらいました。ビルケンシュトック現行品の『ロンドン』と同型ですが、幅広でより歩きやすい仕様になっているこのサンダルが廃盤になるとわかって、わざわざ足を伸ばしたのです。
念願かなったわけですが、実際に履いてみると甲高な自分の足のせいか、ベルトを留める独自のスナップボタンがすぐに外れてしまい閉口。結局、『ロンドン』と同じベルト固定式に改良しようと即断。横須賀市平作にアトリエ兼自宅「GHOST DANCE」を構えるレザー&シルバークラフト・アーティスト寺元憲悟さんに相談して手がけてもらうことにしました。
寺元さんはシンプルで上品なネイティブ・アメリカンスタイルの革やシルバーの作品を繊細に制作するつくり手で、そのセンスに惚れこんで唯一の自著『湘南アトリエ散歩』で取材、紹介させてもらったことも。
ロレックス・シードゥエラーのベルトもこんなオリジナルにカスタマイズしてもらいました。『ユーコン』のベルトを改良するにあたり、手で叩いて加工したシルバーの味わいをも取り込みたい欲も出て、バックルもシルバーに替えて欲しいと寺元さんに打診。
寺元さん私物のビルケンシュトック『ボストン』のバックルは自身でシルバーのコンチョ型に替えられていたのですが、この格好良さに痺れて自分の『ユーコン』にもと考えたんです。ところがこのサンダルのベルトは太く、シルバーのバックルも大型になり、もう一足買えるほどの値段になるとわかって諦め、寺元さんがストックしていた真鍮のバックルを選びました。
さりげなさ過ぎてビルケン純正のバックルと見過ごされそう。しかし、ぼくはこのノーマルさが好きだし、真鍮の武骨な素材感に強く惹かれるんです。わかる人はオッと眼を留める。その程度のカスタマイズで佳いのです。
自分だけのTATAMIを気に入って、旅行や都内散策などお出かけの友にしていました。純正のソフトなスポンジソールは軽くてクッション性に優れ、歩きやすく疲れにくいのです。ただ、スポンジソールは寿命が短い(長期間履いてないと加水分解しやすい)のが弱点だそうで、実際、とっておきの機会にしか足を入れず、使用頻度は多くはなかったら、みるみるソールが減ってソールの一部が剥離。思い入れたっぷりの一足だけにまだまだ履き続けたいから、仕事場近く、久里浜の「ミスターミニット」に持ち込んでソール交換を依頼しました。応じてくれるシューズリペア工房はたくさんあるでしょうが、実物を手に職人と顔を合わせながら見積もり含めて頼める安心感、何より仕上がりの速さでこのチェーン店をチョイスしたのでした。
たまたま店には、スポンジソールより長寿命な合成ゴムソール「ヴィブラム」の製品を各種ストックしていて、『2026ソール』を選べました。同社の軽量シリーズ中で最軽量のゴム配合率だとかで、軽くて屈曲性、衝撃吸収にも優れ、ウォーキング&コンフォートシューズに最適なんだとか。ずっと密かに憧れていたサンダルのヴィブラムソール化。「少し重くなるし、かかともあるから履き心地が変わるかもしれませんよ」と発注時に職人のおじさんは大丈夫?とことわってきましたが、ぼくの想いを察して「それならいいですね」と。で、一週間後に(ゆっくりでいいですと伝えての納期。ミスターミニットの独壇場でもある、大急ぎの交換も可能そうでした)ヴィブラムソールの『ユーコン』を受け取り、長年の夢が実現できたと大喜び。都会で長めの散歩をして、歩行感覚の違いを早く確かめたいなぁ。どれくらい耐久性も向上したのかヴィブラムソールの真価も気になるし。
おじさんからは、ひび割れてきた靴本体の革を観て雨の日はなるべく履かないことと、革の保湿メンテナンスは液体ではなく、固形またはクリーム状のものを使うようにと助言を受けました。街角のリペア工房の職人が発する言葉はまさしく真理で、よく響くなぁ。仕舞わずに、適度に履いてあげることも大切みたい。
ふと、寺元さんの現在が気になって、ネットで調べたら、なんと2019年に3年間の闘病生活の末に53歳で亡くなられていました。TATAMIの改良を頼んだころに発病していたことになるんだけど、アトリエであんなに楽しく会話し合ったのに、とショック。なおいっそう長く大事に履き続けなくてはと思いが強まりました。