はじめての張子
居間の北壁に虎ならびに虎の黄色、柄、文様を連想するものを選んで飾った「虎コーナー」。なんとなく上手くまとめられた気がしたけれど、なんか物足りない。存在感際立つ主役が不在な感じ。郷土玩具の素朴な仮面なんかを据えたら最高なんて思ってまずはメキシコのゲレーロ州テマラカツィンゴでつくられたという虎の木製ミニチュア仮面(ゲレーロ州は木彫りのユニークな仮面をかぶっての伝統祭が多いそう)を吉祥寺の「LABRAVA」にて購入。
ゆるゆるな造形と絵付けが素晴らしく、嬉々としてコーナーに加えたんだけど、サイズが小さすぎて遠目ではよくわからない(笑)。
やっぱり、居間でのふだんの寝転び位置からドーンと眼に飛び込む大きな仮面がいいかなと未練たらしく考え、佐々木一澄さんが描いた鳥取張子のお面『ぬけ』のイラストそばに実物の面を配置したら決まるんじゃないかって思い至りました。しかし、『ぬけ』を制作していた鳥取の郷土玩具工房「柳屋」は根絶し、往時の柳屋オリジナル古物をヤフオクなどで入手しようとしたらけっこうな値段に。復刻品は6,050円でだいぶお手頃とはいえ、自分には高価。そこで佐々木さん流(実物は眼と口が穴が空いていて鼻もあるのに対して眼と口は黒く塗り潰し、鼻も廃している)の『ぬけ』を張子で自作してみることにしました。
張子のDIY術についてはWEBやYouTubeでさまざまに見つかります。ぼくが参考にしたのはこのサイト。材料はダイソーで揃えて1,000円くらい。面づくりで貼り重ねる和紙は家にあったアワガミファクトリーの『ランプ用原紙』を活用。ちゃんとした国産和紙を使おうとすると100均ショップを主に頼ったとしても5,000円ほど出費するので根気要する作業手間を合わせて考慮したら因州和紙(楮紙)を用いた復刻品の値段は妥当なんだなとまず気づきました。
イラストを忠実に写したかったので、実物大にイラストをコピーし、平面の絵に合わせて新聞紙を丸めて紙粘土で型を、実物の立体感を想像しながらつくります。
佐々木さんがあえて眼と口を塗り潰し、鼻を描かなかったのはポップで柔和な雰囲気を表したかったのかもしれません。観る者の眼と心をなごませる佐々木さんの画風をぼくはとても好いているのですが、基本はユーモラスな郷土玩具を実物に近く描く佐々木さんの仕事では『ぬけ』の作品は例外的なタッチ。そこに特別な思い入れを感じてしまい惹かれるのです。実物のお面は色合いやシンプルな絵付けが特徴で魅力あるものの、ちょっと不気味でもある。そのムードを佐々木さんは穏やかにアレンジしたかったのかな。こんど会ったら尋ねてみよう。
型が出来たらサランラップで覆って、さらに手でちぎった和紙や新聞紙を水で薄めたヤマト糊を塗りながら重ねていきます。
形が整ってきたらさらに和紙を貼り重ねていくのですが、ここでぼくは重大ミスをおかしてしまいました。和紙をケチったのと、早く完成させたくて数層貼り重ねただけにしてしまった。とくに面を立体にならしめるための側面部が薄かったのと、気が急いて乾燥が充分に足りなかったため、型から外した際にお面本体がぺちゃんこになっちゃいました(泣)。
ショートケーキの台か、ふくらむ前のホットケーキか。厚みの無いほぼ平面体に化したお面。トホホと落胆しながら、自分の安直な性格を嘆きながらもはやお面とは言えない物体表面に水で溶いた紙粘土をうっすらと塗り重ねて仕上げていきます。表面を滑らかにするのに役立ったのはペインティングナイフという絵描き用ツール。油絵を趣味にしていた家人の物で、たまたま見つけたので活かしました。
ドライヤーで乾かせば、完成は目前。あとは絵付けが残るのみです。
原寸大にコピーしたイラストを当てがって耳、眼、口をなぞります。そのラインが微細に滲んだり歪んだ味わいがまた格別に佳いからです。細部に朗らかな表情に仕上げるための神様が宿っているんです。だから、ここはきっちり線をなぞりたいんですね。佐々木さんのポップな感性、嗜好をそのまんま写したかったのです。
じゃーん! ぺたんこ、へんてこ、平らなお面の完成です。この表情だったら居間に飾っても怖くないです。佐々木さんのイラスト表現に比して側面が潰れて広がったぶん、やや面広な顔になったけど、まぁOKとしましょう。
北壁に飾って悦に入る。最後のピースが念願どおりピタリとはまりました。の、はずだったんですが、初めてとはいえ、焦ってお面を立体的につくれなかった悔いがふつふつと湧き上がってきてしまいました。
というわけで、張子のお面づくりは後日にリベンジ。さてさて、二度目はどうなるやら。