時の流れに想い馳せる
今、非常に存在が気になっている人物が居て、来週末に初対面を果たせそうなので、その人が愛読する一冊を事前に眼を通しておくことで、話題の糸口をつかみ、少しでも滑らかに会話を楽しみたいと願いました。その本とはイタリアの天才物理学者が著した『時間は存在しない』(NHK出版)。じつは以前も逗子図書館で借りたものの、どうにも開く気になれず未読のまま返却してしまいました。二度目のトライでは、本書を家の居間ではなく別の環境に持ち出してみれば、気分がストイックになれて読みたくなるかも、と淡い期待を抱いて近所の低山ハイキングに携えて行きました。
場所は横須賀市芦名の大楠山。数ヶ月前、ここでハンモックを張って憩おうと目論み訪ね歩いたんですが、適所が見いだせずがっかり。2本の樹があれば張れるでしょ?と安易に考えられがちですが、ハイキングコース途中では理想的な場所には意外となかなか出会えないものなのです。で、前回の反省を踏まえて別ルートを探ったら呆気なく発見。
桜の樹が集まるスポットで、ハイキングコースの細い脇道の行き止まり。ハイカーはほとんど踏み込んでこないっぽい(3時間滞在し、脇道を侵入してきたのはおじさん一人)ので、enoハンモックを1分ほどでセッティングしました。超簡単スムーズにストラップとハンモックを設営できるeno製品は秀逸なギアでラクチンです。
木漏れ日が気持ちいい! ハンモックに揺られて読書開始です。
ハンモックの下には絶大な防虫効果があり、造園仕事の必需品でもある『森林香』を焚いて蚊や🪰アブの接近を阻む対策を講じました。これからの時季、山中森林でのハンモッキングには無くてはならないアイテムかと。
読み始めていきなり衝撃の事実に驚きました。山では時間はサッと速く経過し、低い平地では時間がゆっくり流れるというのです。この理論は高精度な時計で比較計測され実証されているのだとか。家や海辺の町に居るときよりも速い時の流れに乗じて本を読み進めると、なるほど読解のスピードも速まる気がしました。
高い所と低い所では時間の流れが異なる。その事実によれば、たとえば滝では上流側から下流側に水が流れ落ちる際、上下で時間のズレが生じるはず。普遍的でなく一定ではない流動的な、気ままな時の「揺らぎ」が現れる。そんな場所ではぼくはたまらない心地良さを覚えるのですが、体感、実感しつつ時間の揺らぎが心に及ぶ作用について想い巡らせます。
総体の川と化して平地へと移動する山からの湧水。滝では最小単位の水粒になって飛沫し、岩の間を波動してすり抜ける際には流速も変化。幹や枝葉の脇から波動し、点光となって地面にこぼれ落ちる光の粒も常に景色が変わる。この一様ではない絶え間ない移ろいでも時間の経過具合は揺らいでいくのだなぁ、と本書を初めて通読した末、ハンモックの上あるいは山の麓を流れる前田川のほとりで想い耽りました。
時間への捉えかたがハンモック読書で一変したぼくはいっそう光や水の波動が生じる揺らぎの場でなるべく多く過ごしていきたいと望むようになれたかもしれません。
なんだかスピリチュアルっぽい? まぁ、自分が気持ちいいと感じる場所や時間の理論を識ることができたのは単純に嬉しく、これからは水や光の揺らめきへの意識がさらに高まりそうな予感。水や光の粒を見つめ始めると、今度は物理学の主核をなす量子力学へと関心が開き広がっていくんだろうな。そんなワクワクを胸に秘めながら、量子力学をもとに美味しいワインを供する空間を来週末訪ね、店主から教わり、沁みる盃を味わいたいと考えてます。
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