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とある体の部位が3倍以上の大きさになるというどうしようもない不安について

2023年。年始から僕は人生30年の中で最もといっていいほど体調を崩していた。
1歳児の娘が保育園に通いだし、慣らし保育もようやく終わりといったところから、それは始まっていた。いわゆる保育園の洗礼である。
わんぱくなわが子も例に漏れず、保育園での大病原菌交換会によって発熱、咳、鼻水の症状がスタンダードの状態となっていた。
そんな中、いつも通りの発熱のためにこどもと受診に出た妻からの連絡に、「コロナ陽性」という速報が来た。オーマイガー。

当然家族3人で感染。完治したあとも、子供のマイコプラズマや、なんかよくわからない風邪、体調不良に結果的に半年以上悩まされていた。

春先頃から落ち着いたとおもいきや、そんなこともない。ゴールデンウィークには自分だけが39℃越えの発熱でダウン。1週間ほど会社を休んだ。
快方に向かっていくと同時に、ついでに嗅覚と味覚を持っていかれた。ハガレンのルールに則って言うと、正しい絶望を与えられてしまったのかもしれない。食を愛した者には嗅覚と味覚を。……いや、ほんまに勘弁してほしい(この時もコロナだったのでは?と言われるが抗原検査では陰性だったため詳細は不明)。
幸い徐々に戻ってきているのだが、何を食べても味がわからないのでつまらないし、作ってくれた人に申し訳なくなるので嗅覚はかなり大事だ。味がしないのだから何を食べても一緒なのだが、体が勝手に高カロリーなものを欲するのがまた困る。どうせなら食欲も一緒に連れて行ってほしかったのだが、お陰様で長期の体調不良でも体重に変化はない。

体調も、味覚もそれなりに落ち着いてきてそろそろ筋トレも再開できるのではないかと思っていた矢先、自分の体にとある変化が起こった。

何を隠そう、左睾丸が通常時の3倍ほどに膨れ上がってしまったのだ。

(隠すも何も、人様に見せるものでもなし、金玉事情など基本的に誰も話題に出さない)

これには流石に驚いた。恐らく、睾丸という部位は普段その存在を感じたり意識したりはしない。
それは例えばミルつきのブラックペッパーであったり、マウスのサイドボタンのような。なくてもなんとかなるが、生産性が著しく損なわれるような存在だ。

僕がこれまで半年以上の体調不良を乗り切った先に見つけたもの、それは味覚の大事さでもなく、健康は大切という圧倒的真理でもなく、

金玉がとあるきっかけにおいては3倍以上の大きさにまでふくらむというれっきとした事実であった。

自分の触診と感覚だけではあまりの現実に目を背けてしまいそうになるため、妻にも確認をしてもらった。
「なあ、金玉が異常に腫れてる気がするんやけど、見てくれへん?」と、風呂上がりの清潔な体で、妻に声をかけた。妻は嫌そうな顔をせず、むしろ好奇心で満ち溢れた眼差しでお稲荷さんを手のひらに乗せ、左右の大きさを確認する。3倍は堅い。そのあまりのサイズの差に、噴き出して笑いだした。その瞬間、僕は睾丸三倍マンへと瞬く間に変身してしまった。フランツカフカも驚きの変身である。

改めて握ってみる。形は玉ではなく、完璧な楕円形を模している。おそらく、うずら卵換算で3~4個くらいの大きさ。平均より大きい手の僕でも、握った時にそれなりのボリューム感を味わうことができるくらいである。チョコエッグと比べられると少し見劣りするだろうが、腫れた衝撃を加味すれば負けず劣らずだったかもしれない。

もちろん腫れているだけで済むはずはなかった。

まず、熱を持っている。充電しながら1時間か2時間触ったスマホくらいは熱い。そのせいか、38℃ほどの発熱があった。

常時痛みもある。クリーンヒットされた時並の痛みはないが、じわじわとした鈍痛で体力を奪ってくるのだ。
そもそも太ももがバッファローマンくらい太いため、腫れた睾丸がこすれ、圧迫されてその痛みが増す。それは日が沈むにつれて強まっていく。頭の中のABCマート店員が「まぁ今夕方で足が浮腫んでますので、ちょうどいいサイズだと思いますよォ」とすかさずフォローを入れてくるくらい、睾丸がパンパンになっている。
また座位を取ると睾丸が太ももに圧迫されて物理的に痛い。
これが何よりも苦痛だった。職場でも家でも、パソコンを触る時間が長いため、どうしようもない。家では床に寝転ぶこともできるが、1歳時がこちらの都合を理解できるわけもなく、時折襲われることもあった。1歳児と言えど、急所への理性も容赦もない一撃はおままごとの範疇を軽く凌駕している。涙をこらえ悶える父を見て、同時に満面の笑顔になる娘。100点満点のドメスティックバイオレンスだ。

職場では不自然なほど股を開いて着席するスタイル、歩行はあれ、足くじいてます?的な歩法で自然体を装って事なきを得た。

流石にまずいと思い半休を取って泌尿器科にかかった。
前回の治療の際に、最期の検査にこなかったという点をなじられつつ診察してもらった(前回はクラミジアだったがその時もやはり睾丸の奇形があった)。
開口一番にまあ汚れちゃってますねえと、尿についての最速の所見。自宅でも浮遊物が混じっている尿を視認していたのでそこは把握済みだった。
一番気乗りしなかったのが触診であったが、これも見たまんまだったためか軽く触れただけで終わった。

性病でなければ精巣上体炎でしょうとのことだった。精巣上体炎。わかりやすい病名だ。

1週間分の抗生剤と、性病検査の結果を聞くために次回受診の予約を取った。
2~3日で腫れが引くとのことだったが、なんだかんだ4~5日ほどは3倍のまま過ごした。

睾丸が3倍の大きさになると、妻に笑われ、子供には標的にされ、日常生活にかなりの支障が出てしまう。
原因について泌尿器科の先生からは、尿道から菌が入ったのだろうと言っていたが、本当に二度と勝手に侵入しないでいただきたい……

「汚れた手で性器を触りませんでしたか?」 先生の問い。

いやあ、ないっすねえ。食い気味に答えた。
というか、この問いに対して素直に答えられる人はいるのだろうか。

本当はあるのだが、そう答えざるを得なかった。人は自分の性器にかかわる問題に直面すると、途端あまのじゃくになってしまうのかもしれない。


今は楕円形を維持したまま元のサイズに戻ってますのでご心配なく。

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