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『いのちの種を抱きしめて』上映会をしました。種を守ることと生きる歓び

こんばんは。ここさんぽの中川です。

冬になってすっかり葉が落ちた庭の木に、ひよどりがよく止まる季節になりました。
ふんの落とし物も多いですが、灰色の体をむくむくさせながら庭で休んだり散歩したりする姿をみると心が和みます。
4年ほど前は、当時乳児だった子どもの食べ残したみかんやリンゴを木に刺しておいて、鳥に食べてもらっていたので、それを覚えていて毎年やってくるんだと思います。
3年前に「野生動物への無自覚な餌付けはやめましょう。生ごみを外に放置しないで」という越谷市のお知らせが来たため、今は庭に食べ物はあげていません。
ですがひよどりは毎日朝ごはんの時間になると木に止まってこちらの朝食風景をのぞき込んでいます。

どんどん森や緑地、木が少なくなって工場や倉庫、駐車場、マンションや商業施設に変わっていく中で、鳥たちが冬に食べられるもの、羽を休める場所はあるのでしょうか。
無自覚に野生動物の食べ物を奪っていないか、住み家を奪っていないかについても考える必要があると感じています。

昨年12月21日は南越谷のサンシティで『ヴァンダナ・シヴァのいのちの種を抱きしめて』の映画上映会を行いました。

会場には初めての方もリピートの方も来てもらい、小さい子どもたちの参加もありました。
お手伝いで参加してもらった方に、お外で遊びたい子どもたちと一緒に会場の外の広場で走って遊んで子守してもらってとても助かりました。
おかげでお母さんはゆっくり映画を観て、ヴァンダナさんの抱きしめるようなメッセージを受け取ることができました。


美しい多様性、塩の行進像

ナマケモノ倶楽部企画のドキュメンタリー映画、『ヴァンダナ・シヴァのいのちの種を抱きしめて』は、ニューデリーでガンジーの「塩の行進」像の前で語るところから始まります。

ガンジーは、
「自然の贈り物である塩なしには私たちは生きられない。だから塩を作り続ける」
と言って、自分たちで海水から塩を作ることで、イギリス植民地政府による塩の専売に抵抗しました。

塩が自然からの贈り物であると認識すること、自分が生きていくのに必要なものを自分で作る自由を手離さないことが大切だと訴えています。

現代ではテクノロジーが発達し、製造・物流・マーケティング技術が高度になった結果、何でも便利に安く買えるために、企業の独占・企業への依存が増えました。
そして、自分が生きていくのに必要なものを自分で作る自由を自ら手離してしまっていると感じます。
現代の私たちが守るべき「塩」が何なのか、考える必要があると思います。

また、ガンジーの像で特徴的なのは、一緒に行進しているのが、ガンジーと同じヒンドゥー教の男性だけでなく、キリスト教、イスラム教、女性もいることです。
これらの人物たちの像にインドの多様性が表現されていて、「なんて美しいんでしょう」とヴァンダナは像を観て感嘆しています。
多様性を表現した像を美しいと感動するヴァンダナの瑞々しく温かい感性が印象的なシーンです。

ナイロンのコートか、手織りの服か。ガンジー経済学

その後、ニューデリーのオーガニックカフェの前で、ヴァンダナは母から教わったガンジー経済学について教えてくれます。

ヴァンダナが6歳のとき、ナイロンの服が流行して、ヴァンダナは誕生日プレゼントにナイロンの服が欲しいと母に頼みます。

そうすると、ヴァンダナの母は
「ナイロンのコートを買ってあげてもいい。
でも、コート代は結局、大金持ちの高級車に化けるの。
もし、あなたが、ガンジーの教え通り、いつもの手紡ぎ手織りのカディを着続けたなら、どこかの貧しい母親と子どもたちのご飯になる。
さぁ、あとはあなた自身が決めなさい。」
と言って、ヴァンダナへの最初のガンジー経済学のレッスンを授けました。

それ以来、ヴァンダナは手紡ぎ手織りの服だけを着ています。
工業製品は身に着けられなくなったそうです。

現代では、おしゃれな服、便利な服、安い服が大量にお店やオンラインショップに飾られ、お金を払えばどの服でも簡単に手に入れられます。
ですが、支払ったお金が何に使われるか、遠くの人たちの暮らしにどんな影響を与えるかまで想像して服を買うことはあるでしょうか。
ガンジー経済学が生活に沁みとおった、インドの人びとの地域に根差し、他者を思いやり、循環に思いを馳せる気高い生き方、考え方に驚いたエピソードです。

種子の可能性と遺伝子組み換え作物の問題

ヴァンダナが運営する種の自給の実験・実践場であるナヴダーニャ農園では、種子について、遺伝子組み換え(GMO)作物についてヴァンダナが語ってくれます。

種には生命のすべての可能性が詰まっているとヴァンダナは言います。
蒔いた穀物の種が千粒の種を与えてくれたら、その千粒の半分を食べ、残りの一部を保存し、交換します。
保存した種を蒔けば一粒からまた千粒の種が得られます。
暮らしはそうやって続いていくので、種の不足、食料の不足はありえないと言います。

これを聞いて、アリス・ウォータースのエディブルスクールヤードの本を思い出しました。
アリスが小学生たちと共に小学校の畑で育て、収穫した一粒のミニトマトに種が何十と入っていて、その種がそれぞれまたミニトマトの木になり、それぞれの木にたくさんのミニトマトがなるという授業がありました。
授業を聞いた小学生の女の子が、「この小さなトマト1個で私の町に住む人全員分のトマトができる!全員だよ!」と喜んでいました。
おいしいトマトが十分収穫できることに安心し、分かち合うことでみんなが幸せになる、とても嬉しい気づきですね。
種を大切に世話すれば、種は無限に増えていき、私たちに十分な食料を与えてくれる可能性を秘めています。

一方、遺伝子組み換え技術により、より病気に強く、より育てやすい種子が開発されています。
ある生物に他生物の遺伝子を入れるという、自然界にはありえない技術だとヴァンダナは言います。
北極ヒラメの遺伝子をトマトに組み込み、凍りにくいトマトを作るようなものだと本の中で解説されています。
この技術は私たちにより多くの食べ物を与え、暮らしを豊かにするものなのでしょうか?

ヴァンダナは、遺伝子組み換え作物には2つの問題があると言います。
1つ目は、これまで農家や市民が自家採取していた種について、特許を大企業が握り、大企業が種を独占して価格を釣り上げて大儲けしようとすることです。
インドでは、遺伝子組み換え技術によって種の値段は80倍になったそうです。
栽培のコスト、リスクが増大し、インドの農家は多額の負債を抱えるようになり、その結果、インドの綿花の大生産地帯では、27万人の農民が自殺に追い込まれたそうです。

2つ目の問題は、種に抗生物質耐性の遺伝子が組み込まれることです。
抗生物質耐性の遺伝子を入った食べ物を食べ、この遺伝子が体内のバクテリアと交雑すると、食べた人には病気を治すための抗生物質が効かないことになります。
また、複数の毒性遺伝子を組み込むこともあり、これらの遺伝子が混合された結果は、まだ誰にもわかりません。
毒性遺伝子を持つ遺伝子をなぜ私たちは食べなくてはならないのか、ヴァンダナは疑問を投げかけます。

現代では、遺伝子組み換え食品が多く使われるようになり、遺伝子組み換え食品使用・不使用の表示についてもわかりにくい法改正が続いています。
遺伝子組み換え食品の安全性や使用表示、農家への影響について、必要な情報を得られるように意識していく必要があると思います。

生きる歓びと二つの貧しさ

ヴァンダナは、生命の本質とは歓びだと言います。
生命の欠如、歓びの欠如が、不幸、病苦、貧困を生むと訴えます。

これまでは、成長こそが貧困や病気の解決策であり、雇用問題、環境問題も経済成長が解決すると言われていました。
ですが、私たちは、成長を続けてきた現代で、かえって貧困や病気が増えて格差が広がり、雇用の不均衡、環境破壊が進み続けることを知っています。
経済成長は解決策ではなく、アリストテレスの言う「金儲けの技術」に過ぎないとヴァンダナは語ります。

また、ヴァンダナは二つの貧しさを区別する必要があると言います。
一つは、生きる歓びを奪われた惨めな人生という貧しさ。
もう一つは、「サリーを2枚しか持っていない」という外からの物差しによる貧しさです。いわゆる他人軸、世間軸、社会軸の生き方ですね。
自分が2枚で十分と思っているのに、どうしてそれ以上のサリーが必要になるか、ヴァンダナは問いかけます。

「貧困」や「成長」という外から押し付けられた考えが、生きる歓びを奪います。
このため、生きる歓びを選べば外からの物差しを無視することになり、
外からの物差しを満たそうとすれば生きる歓びを失うことになります。
つまり、人はどちらかの貧しさを必ず選ぶことになります。
どちらの貧しさを選びたいでしょうか?

ヴァンダナが生きる歓びとしているのは、美しい畑にいる歓び、静けさと新鮮な空気の中にいる歓び、コミュニティや友人を持つ歓びです。

ですが、現代経済は、そんなささいな幸せは捨てて、成長を追いかけろと強制してきます。
競争に負ければ失業者、自己責任を問われ、自殺に追い込まれます。

効率の良い生産を求めて、または企業の独占により仕方なく、遺伝子組み換えの綿を買い、多額の負債を抱え込んで自殺した27万人のインドの綿農家の話と重なります。

現代経済が私たちに本当に幸せな暮らしを与えてくれるのか、考える時期が来ていると感じます。

最後にヴァンダナさんの力強いメッセージを書きます。

いいえ、私たちは生きる歓びに満ちた人生を創造しましょう。
その生きる歓びの源は、大地、豊かな土壌、コミュニティ。
自分たちでものを作る能力。
そしてガンジーの自立の思想。
大企業なんかいらない。
巨大銀行も必要ない。
ましてや有毒な種や食べ物なんて。

決して諦めてはいけません。
経済システムは私たちを見捨てるかもしれない。
しかし、地球は私たちを見捨てません。
だから、自分自身を見捨ててはいけない。
誰もが、小さな草や虫、この世の最後の人間でさえ、生きる意味を持っている。
その意味を見出すのが、生きる歓び。

『ヴァンダナ・シヴァのいのちの種を抱きしめて』

今後どんな状況になったとしても生きる歓びを見つけることができる、希望に満ちた力強いメッセージですね。
私たちもヴァンダナさんの教えを胸に、生きる歓びに満ちた日々を送っていきましょう。

参加された方が感じたこと、実践したいこと

今回も参加された方と感想のシェア会を行いました。

  • 遺伝子組み換え種子の状況についてよく知ることができてよかった

  • 農家が種を自分で取れなくなる仕組みがあるなんて知らなかった

  • 遺伝子組み換え食品の危険性についてもっと知りたいと思った

  • 映画で案内人をしていた辻信一さんや、企画のナマケモノ倶楽部に興味を持った

  • 福島の農家の方に農業を教わっていたときの教えと重なり、当時のことを思い出した

  • 菌ちゃん農法など自然と調和した農法をもっと広めたいと思った

など、ご感想をいただきました。
映画のヴァンダナさんのメッセージが伝わっていることがわかって嬉しく思いました。

上映会終了後アンケートでご回答いただいた内容をご紹介します。

「私にとって、腑に落ち、人生の教訓にしたいと思った彼女の言葉は
『効率性という幻想は破壊的。老人や子どもの居場所を奪い、人間性も壊す。』であった。
子どもの頃よく『能率よくしなさい』と言われ、いつも追い立てられているような気持ちになった。
効率性は私というものを消してしまう、否定してしまうと思う。

3万8千年前からずっとこの日本列島に住んできて、その土地から食べ物を収穫、狩猟して、その土地のもの使い、季節の行事を行い、人々の日常の動き、人との関わり一つ一つに大事な意味があって、いらないものなんてなかったのだろう。

戦後、日本人の食事ががらりと変わった。
例えば小麦と牛乳、日本人の7から8割がグルテン不耐症で2/3が乳糖不耐症なのは、祖先が食べていなかったものだからだ。
わかめなど海藻を消化、栄養吸収できるのが日本人だけなのも祖先が食べていたからだ。

また、幼児を連れて買い物に行く時、スーパーだと子どもがつまらなくなって機嫌悪くなるが、八百屋さん、コミュニケーションをとってくれるパン屋さんなどに行くとお店の人が子どもと話してくれるからスムーズに買い物できるなと思う。
効率性の対極を生きる子どもたちから見習っていきたいと感じた。」

効率性は幻想であるということ、老人や子供の居場所を奪い、人間性を壊すというメッセージは、一見過激ですが、たしかに納得できる主張です。
効率的な人間しか求められない世界では、老人や子供はいらない存在となり、労働者もやがて機械に置き換わるか、機械のような人間になっていくのでしょう。
効率最優先の世界には生きる歓びはなく、人間としての存在が否定されてしまいますね。

効率性の対極を生きる子どもたちから見習っていきたいという気づきも素晴らしいです。
子どものペースに合わされる大人は、子どもを急かしたくなるか、スマホなどの娯楽を没頭しがちですが、子どものペースで、子どもの感じ方を学ぶことで、大人も生きる歓びを見つけられると思います。

「インドでは種の特許を取られてコットンの値段が80倍に上がったとか、95%が遺伝子組み換え作物になってしまっているとか、やはりそうかと再確認させられました。
日本でも1990年代には輸入大豆やコーン、フレーバーセーバートマトで問題になっていたなと思い出しました。
(遺伝子組み換え大豆が含まれていても、5%以下なら『遺伝子組み換えでない』と表示できるという法律が密かにできて問題になりました) 
『牛糞の壁』が優れていることや農村の様子を映像で見られたのも良かったです。」

遺伝子組み換え作物について問題意識を持たれていて、映画での気づきも多かったとのこと、良かったです。
インドののどかな農村の様子を見られたのも良かったですね。
西洋文明の目指す豊かさとは違った方向の豊かさがありました。
アジアの本来の豊かさについても再認識していきたいですね。

「福島で百姓を教えてもらっていたので、種の循環や水や土のことについて、大事なことを思い出させていただきました。」

福島で農業を実践されていてすごいです!
種の循環はやはり大きなテーマなんですね。
日本でも種が循環する仕組みを守っていきたいですね。

シェア会については、
「仕事をしながら土日に自分で農作物を育てることもできるのかと興味を持った。」

「様々な方が参加されていて、感想をお聞きする時間をもってくださってよかったです。ナマケモノやおせちの絵本のお話もおもしろかったです。」

「若い方が、水を守るとか、百姓を学んで畑を始めたという話を聞いて、嬉しく思いました。」

という感想をいただきました。
自分で畑で野菜を育ててみるという実践をしている方を知ること、様々な方の感想、ナマケモノ倶楽部のモチーフのナマケモノのスローで優しい生き方などについて、一緒にいた人同士の意見の交換によって刺激を受けられたようでよかったです。

今後実践したいことについては、
「ベランダ菜園 ローカリゼーション、オーガニックに力を入れている販売店で買い物をする」

「映画を見た次の日、畑に行くとより野菜やハーブが愛おしく見えました。種蒔きもしてみました。」

「『私たちが今日すべきことは何?』と聞かれて、やはり、もっと意思表示して他の人にも伝えていかなければと思いました。
『1998年に菜種油の在来種利用が禁止になったけど無視して植えている』と聞きましたが、生真面目な日本人にもこういう発想が必要なのでしょう。」

と書いていただきました。

生きる歓びである大地とつながることや、種を守ることを実践したいと考えていただいて、大変嬉しく思います。

何度見ても温かく力強い予告編とヴァンダナさんのこれまでの活動

改めて、この映画の素敵な予告編を貼っておきます。
ヴァンダナさんの笑顔がまぶしいですね。

ヴァンダナさんのこれまでの環境を守る活動と、遺伝子組み換え作物を開発する企業の巧妙な戦略についてもっと詳しく知りたい方は、NHK出版編集部noteに寄稿された明治大学の重田園江教授の連載をぜひ読んでみてください。
下のリンクはヴァンダナさんに関する全3回シリーズの1回目です。
ヴァンダナさんが大企業や国際貿易を批判することや、遺伝子組み換え技術を開発する企業の事業について、これらへの賛否の根拠や妥当性、人類への影響について、多角的な視点から丁寧に読みやすく解説されていて、これまでの壮絶な歴史に驚かされます。
日本の改正種苗法についても、第3回で舌を巻くほど鮮やかに検討・整理されています。

今後のここさんぽの予定

今後のここさんぽの予定です。
地域で一緒に楽しく遊び、学んでいきたいです。
初めての方も、前に参加された方も、お近くの方も遠くの方も、ぜひお気軽に遊びにきてください!
コミュニティが生きる歓びだとヴァンダナさんも言っていました。

  • 1月18日(土)『美しき緑の星』 @Happy Wing  *ワンドリンク付き!ビールやハイボールもあります♪

  • 1月25日(土)健康福祉村への散歩会  *子どもは愛車ストライダーでサイクリングコースを走る気満々です。

  • 2月2日(土)『バレンタイン一揆』 @越谷市市民活動支援センター *フェアトレードチョコレートをおやつに食べます!

  • 2月21日(金)『医学生 ガザへ行く』@越谷市市民活動支援センター

  • 2月23日(日)梅林公園への散歩会

  • 3月1日(土)『0円キッチン』@越谷市市民活動支援センター

  • 3月22日(土)『ANIMAL ぼくたちと動物のこと』@越谷市市民活動支援センター

  • 4月5日(土)元荒川でのお花見散歩会

  • 4月13日(日)『幸せの経済学』@越谷市市民活動支援センター *4はしあわせのし!ラダックの平和で豊かな生活とローカリゼーションを描いた本『懐かしい未来』の映画です。すごく観たかった映画なので、ぜひ一緒に観ましょう!

  • 4月26日(土)『都市を耕す エディブルシティ』@越谷市市民活動支援センター *種まきシーズン、都市で畑を楽しむ映画を見てやる気を出しましょう!

楽しい企画盛りだくさんでお待ちしています。


遊んで学んで休みたい!ここさんぽ

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