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脱毛前に写真を撮ったんだ/化学療法

治療開始

 治療開始前の検査として生検の他に行われたのが骨髄穿刺(マルク)。
針の太い注射器の逆バージョンを腰骨辺りに刺して骨髄液を採取し、造血の場である骨髄の状態を調べるのだそうだ。
大人の自分が聞いてもゾッとする検査、わずか4歳半の娘がそれに耐えられるのか心配した。
実際には局所麻酔をかけてから(大人は麻酔なしらしい)行うので、穿刺の痛みは感じないらしいけど、検査の後のグッタリした様子が痛々しかった。

 もう一つは中心静脈カテーテル(CVC)。これは検査ではなくて、点滴ルートのこと。普通、点滴と言うと左右どちらかの手に針を刺して固定されるものだけど、今後の治療では頻繁に血液検査や点滴による投薬が行われるので、長期に渡って差し替える必要がなくより安全な太い静脈に直接届くルートに変更された。鎖骨の辺りからシリコンのチューブが出ているのは、見ている親の方としては痛々しいのだが、本人は両手が空いて、随分とご機嫌だった。

そして、翌週から化学療法が始まった。

 投薬が開始されてから10日ほど経過した頃だったか、枕に抜け毛が目立つ様になった。
とうとうその日、妻が髪をといている時にごっそりと抜けてしまった。
「ミーちゃん、髪の毛が抜けるようになっちゃたから、お母さん、短く切ってもいい?」と妻が聞くと。
娘は全く意に介さず頷いた。
「あ、あっ、ちょと待った」
慌てたのは僕の方。
写真を撮ってからにしてもらった。

 急遽デジカメで撮ったその写真は、二重でくりっとした目とややウエーブの掛かった肩まで伸びた髪がとても可愛い、親バカな一枚となった。

〜化学療法〜

 血液のガンである白血病や悪性リンパ腫の治療はその他の固形癌とは異なり、外科手術による切除ではなく、ステロイド剤と抗がん剤を組み合わせた化学療法が主になる。
 化学療法の主体を成すのは各種の抗癌剤だ。
抗癌剤がガン細胞に効果的に働くのは、ガン細胞が活発に分裂(増殖)しているからだ。
通常、細胞は細胞壁によって守られており、さらに厳守に細胞核は守られている。
しかし、分裂の瞬間、核は無防備となり抗がん剤に晒される事で細胞は破綻する。
毒をもって毒を制す。
抗がん剤とはそのような劇物なのだ。
なので、がん細胞と同じ様に、頻繁に増殖している正常な細胞もダメージを受ける。
脱毛するのはその様な理由だ。

 脱毛は目に見える変化だが、その他にも口腔粘膜、胃粘膜の損傷による口内炎や胃荒れが生じる。
一番怖いのは造血作用への影響だ。

 白血病においては骨髄の中を腫瘍が占拠して造血作用が低下してしまうのだが、実際のところ治療中においては、抗がん剤の副作用としての血球減少の方が大きい。

 当然、血液が作られなくなれば免疫力が低下して感染症のリスクが高まったり、(内外)出血が止まらなくなったりする。
つまり、血液ガンの闘病とは腫瘍撲滅と同時に、感染症、出血のリスクヘッジにある。

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