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分厚いガラス扉が隔てる兄と妹/患児と家族
小児病棟は免疫力が低下した感染症に対して無防備な子供たちばかりなので、お見舞いにも制限があった。
面会は必ず談話室兼食堂。当然、子供の体調のいい時に限られる。
また、たとえ兄弟であっても、子供は病棟の中に入ることは禁じられている。(子供は感染症キャリアの可能性が高い)
付き添いは1人。病院によっては完全看護で、まるっきり子供を預けてしまう所もある様だけれど、N大学病院ではお父さんかお母さんのどちらかが付き添ってほしいと言われていた。
なのでウチは土曜日の昼までを妻が見て、土曜日の夜は僕が泊まり、日曜の夜に交代と言うサイクルだった。
他の家族もそう言うパターンが多いから、日曜日はお父さんデー(笑)。
病棟の中はもうひっちゃかめっちゃだったよ。
当時、シルバニアファミリーと言う人形ハウスのおもちゃが有って、僕は慣れないおママ事の相手をしなくちゃならなかった。
一瞬でも気を緩めて仕事の事でも考えようものなら、間髪を入れず娘が「お父さん ちゃんとやって!」と怒り出す。
いつだったか、病棟中に響き渡る声で癇癪を起こし、看護師さんが慌てて飛び込んできた事があった。
もうバツが悪いと言うか、犯罪者の気分だよ
毎度毎度、おママ事では僕の精神が崩壊しそうなので、僕も工夫した。
「肉まんちゃん」と言うキャラの四コママンガを描いたんだ。絵はイマイチだったけど、意外とコレが娘にウケたんだよね。
夜になって妻が病棟に帰ってくると、娘は肉まんちゃんの漫画を見せてその日の事を妻に報告する。妻はそれを聞きながら、ベッド脇の幅50センチ程度のコット(簡易ベッド)の寝床を整える。
娘の体調のいい時は2歳年上のお兄ちゃんを連れてくるのだが、病室はおろか6階東ウイング(小児内科病棟)の中には入れない。出入り口のドア越しに二人は再会する。
お兄ちゃんが照れていると、妹はまるで水族館のイルカかペンギンを呼ぶように、分厚いガラスをパンパンとたたきながら
「マー君、マー君」と兄を呼び寄せる。
やがてお兄ちゃんも照れながら近寄って来て、二人は分厚いガラスをバンバン、バンバンと、いつまでも叩き合っていたんだ。
〜患児と家族〜
小児ガンでは長期の入院治療が必要となり、患児の治療のため主に母親が24時間付き添うことになる。これに伴い、周囲は入院前まで母親が行っていた役割を引継ぐこととなり、家族は生活パターンや役割の変化を余儀なくされる。
家族とは本来相互に密接に作用し合い、依存し合う関係性にあるはずだが、時間と空間を切り剥がされ共有できなくなった時、とても不安定な精神状態に追い込まれる。
患児のことを思うあまりに周囲への気遣いを怠ると、それはそれでバランスを欠き、信頼は失せ、疎外感を募らせる。
もし今、この記事を読んでいる貴方が僕ら家族と同じ状況にあるのなら、
こんな時だからこそお互いにコミュニケーションをとり、信頼と絆でこの危機を乗り越えてほしい。辛い時には辛いと言える関係性。それこそがストレスの連鎖を切ってくれるものだと思う。かっこ悪くても、不器用でも、上手にできなくても、とにかくジタバタしてみよう。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言うことわざがあるように、過ぎ去ればきっと意義のある日々だったと思える日が来るのだから。