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カルロス・ゴーンが語らなかった「日産への思い」

日産自動車の元会長で、年末に中東のレバノンに逃亡したカルロス・ゴーン被告。日本時間の今月8日夜に逃亡後、初めて記者会見を行いました。

会見の様子をテレビで見たのですが、「どんな手段で逃亡したのか」ということには答えず、「日本の司法制度が基本的な人権の原則に反する」という批判に長い時間が費やされていました。

私は、ゴーン被告に対して取られていた「勾留」という身柄拘束には疑問を持っており、以前、noteにも書きました。その考えはいまも変わっていません。

「逃亡の恐れがない」という予想は外れてしまったのですが、彼を危険な賭けにまで追い詰めたのは過酷な身柄拘束だったのではないでしょうか。

その一方で、会見でのゴーン氏の話しぶりにはがっかりしました。トップを務めていた日産という会社やその従業員に対する思いはほとんど感じ取れなかったからです。

トップだった人物が海外逃亡したことで日産のイメージダウンは続きます。そのことに対して最初に言及がなく、むしろ「自分は傾いていた会社を見事に立て直した」と胸を張る姿に「グローバル経営者の素顔」を見てしまったように思えました。結局、業績だけしか見ておらず、彼が進めたリストラでどんな思いをした人がいるのか想像力がないのだな、と。

いま、世界で最も裕福な26人が、世界人口のうち所得の低い半数に当たる38億人の総資産と同額の富を握っていると言われています。「グローバル経営者」と言われる人たちは会社や地域社会、さらには国境を越えて富を蓄積していく。もし稼いでいる国で不都合が起これば、カネにものを言わせて軽々と国境を越えて生き抜いていく。こんな人たちがもてはやされる世の中であってはいけないはずです。

グローバル経営者にも、会社や社員、社会に対する敬意を持ってもらいたい。年始早々からそんなことを考えさせられました。

今回は自分が訪ねた国や人々に敬意を持ったジャズ作品を聴いてみましょう。ホレス・シルヴァー(p)の「ザ・トーキョー・ブルース」です。

このアルバムが制作されたのは1962年の7月。同じ年の正月にシルヴァーはクインテットを率いて初来日公演を行っています。当時、外国人ジャズ・ミュージシャンの来日が新鮮だったようで各地で大歓迎を受けたようです。オリジナルのライナー・ノートにはクインテットを迎える祝宴が毎晩行われ、シルヴァーは箸の使い方まで覚えたとあります。

シルヴァーは帰国後、日本に思いを寄せてこのアルバムを制作するのですが、妙に「日本化」するという手法は取っていません。むしろ、彼が愛するラテン・リズムが全開なのです。ライナー・ノートにシルヴァーの言葉があります。

滞在中、日本のみなさんがラテン音楽をとても好きなことに気がつきました。この作品のためにいくつか作曲するにあたり、私は日本のフィーリングをメロディーに、ラテンのフィーリングをメロディに組み入れることを試みました。みなさんが楽しんでくれたらと思います。(拙訳)

日本人のニーズと自らの音楽をうまく融合させた結果、独特の温かみがある音楽が生まれました。そこには、聴衆に対する敬意が十分感じられます。

1962年7月13~14日、ニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。

Blue Mitchell(tp) Junior Cook(ts) Horace Silver(p) Gene Taylor(b)
John Harris Jr.(ds)

①Too Much Sake
シルヴァーのオリジナル。タイトルから「日本酒を飲み過ぎた」日々があったことが分かります。トランペットとテナーでスッと提示されるメロディに「日本」感はほとんどなく、ファンキー・ジャズそのものというスタートです。面白いのは転調してソロに入ってから。最初はジュニア・クックのテナー。ラテン・リズムに乗ってスムーズに始まるソロがドラムの煽りが増すごとに激しくなっていきます。この辺りの「祝祭感」は日本の聴衆にも大いに受けたのではないでしょうか。続いてはブルー・ミッチェルのトランペット。スタートはいつもより線が細い感じなのですが、これもリズムの力強さが増すごとに伸びと歌心のあるフレーズで聴き応えがあるものになっています。次に御大のシルヴァー。ピョンピョン飛び跳ねるような生きのいいソロでグルーブを一気に高めてくれます。面白いのは意外に音が少ないこと。連打しなくてもグルーブは生まれるものなんですね。

②Sayonara Blues
こちらもシルヴァーのオリジナル。日本人との別れの悲しさを曲にしたようです。確かに冒頭の2ホーンによるメロディは別れのやるせなさを示しているようで、やや演歌調でもあります。しかし、そこからラテンリズムが立ちあがってきて「泣き笑い」感があるのが何とも面白いところ。最初のミッチェルのソロは彼の哀愁が漂う音色と曲調がよくマッチしていてなかなか聴かせてくれます。続くクックは途中、リズムが激しくなってきたところでコブシをきかせるような一節もあり、日本の音楽にやや影響されたのかもしれません。続くシルヴァーは最初、音数をかなり絞って緊張感を高めます。左手のリズムの反復に対し、右手をかなりストイックに使っているのですが、次第に音のヴァリエーションを増やしていき、ブルージーなノリを深めていきます。彼としてはかなり禁欲的で異色なプレイではないでしょうか。

④Cherry Blossom
こちらはロンネル・ブライトが作曲したしっとりとしたバラッド。シルヴァーがピアノ・トリオ編成でゆっくりとメロディを提示します。ソロに入ってからはそのままメロディになりそうなフレーズがそこかしこに顔を出し、まさに桜の花のような可憐さとはかなさを持った仕上がりになっています。

ゴーン氏の会見から見えてくるのは、現地企業・社員との「共感」を結べなかった人物の末路ではないでしょうか。どんなに業績をあげても、お互いの「顔」が見えなければ人は付いてこない。今後、こうした経営者を担ぐ日本企業は増えるばかりでしょうが、互いに理解を深める努力をしないと、帳簿の内容は良くなっても、うすら寒い現実が忍び寄ってくることになりそうです。


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