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「先手必勝」が肝心のウイルス対策

新型コロナウイルスの感染者数が一向に減りません。緊急事態宣言から2週間経つとある程度の効果が表れるのかと期待していましたが、今月7日(火)にいち早く宣言の対象となった東京都では勢いが全く衰えていません。昨日も新たに161人が都内で感染していることが分かり、小池都知事が期待していた「3桁を下回る」状態とはほど遠くなっています。

振り返ると、今回の日本のウイルス対策は全て後手に回っていました。PCR検査を「ドライブスルー形式」で行うというのはずいぶん早くに韓国がやっていましたが、日本でこうした取り組みが行われるようになったのはつい最近です。不足が指摘されている医療用のマスクやガウン、人口呼吸器についても欧米の医療崩壊の例から学び、もっと早くに手を打てたはずです。

今週、極めて深刻だったのは、新型コロナウイルスに感染し、自宅待機中だった埼玉県内の男性が亡くなったことです。「軽症者は自宅で待機」という流れがここで一気に変わり、感染が分かった人は原則ホテルや病院で療養するという方向に急きょ舵が切られています。

しかし、これも韓国では軽症者を受け入れるための「生活治療センター」というものが先月からあり、ホテルや企業の研修施設など既存の建物を活用する形で整えられています。患者には体温計や医薬品の入った衛生キットや、下着、マスクなどが支給され、食事も無料で提供されるとか(!)。軽症の段階でいち早く治療を効率的に進めようという「計画性」には尊敬の念を覚えます。

ウイルス対策には「先手必勝」が効果的なのだということはいち早く休業した企業への支援を打ち出したドイツや「マスクの流通管理」などを行った台湾の例などから見えてきました(韓国の感染者は多いですが、検査がそれだけ広く行われていることが原因と思われます)。

これに対して日本は経済への影響に配慮し過ぎたのかもしれません。そもそもウイルス対策を仕切ってるのが「経済再生担当大臣」であることにずっと違和感を持っていたのですが、「まず国民の安全を守ることを最優先する」という超基本を大切にしてほしいと思います。

今回は「先手必勝」という印象があるアルバムを聴いてみましょう。エリック・アレキサンダー(ts)の「イン・ヨーロッパ」です。

エリック・アレキサンダーはいまやジャズ界を代表するテナー・サックス奏者の一人。1968年、アメリカ・イリノイ州に生まれたアレキサンダーは少年時代、クラリネットやアルト・サックスを吹いていたそうです。やがてデビッド・サンボーンやマイケル・ブレッカーの作品を聴くようになり、インディアナ大学でテナー・サックスに専念するようになりました。

1991年にセロニアス・モンク・コンペティションで2位となり(1位はジョシュア・レッドマン)、プロとなる自信を得たそうです。ここから快進撃が続いていくわけですが、そんな彼が26歳の時に録音した快作が「イン・ヨーロッパ」です。発売当時、日本でもかなり話題になったと記憶しています。

ちょっと珍しいギター、オルガン、ドラムスというトリオをバックにスペースを存分に与えられたアレキサンダーがブルージーなプレイを展開しています。中でも冒頭のスタンダード「What A Difference A Day Made」は、通常ならスローかミドル・テンポで演奏されることが多い曲ですがここでは思い切ってアップ・テンポが採用されています。アレキサンダーの生きのいいプレイが圧巻で、1曲目のインパクトでアルバム全体に引き込まれてしまうという「先手必勝」の典型例なのです。

1995年4月10日、オランダで録音。
Eric Alexander(ts)  Bobby Broom(g)  Melvin Rhyne(org)   Joe Farnsworth(ds)

①What A Difference A Day Made
何といっても「始まり方」がいい。スピーディーにテナーでテーマが提示されたかと思うとすかさずブレイクが入って切れ味のあるドラム・ソロが短く展開されます。ここで生まれるグルーブに心をつかまれたところで再びテナーによってテーマが提示され、そのままグイグイとテナー・ソロに入っていきます。アレキサンダーのソロは「ハンク・モブレーのスムーズさ」と「マイケル・ブレッカーのスピード」を兼ね備えたもの、と言ったらいいでしょうか。とにかく目まぐるしく展開されるのに、それが全く嫌味にならず「歌」としてスッと入ってくるのです。3分過ぎからの「うねり」はブレッカー的ですが、あまり疲れません。オルガンによるバックがバンド全体を包み込む感じもあり、これを受けて自由に吹きまくるアレキサンダーが痛快そのものです。ブルージーなメルヴィン・ラインのオルガン・ソロと、スピードにうまく乗ったジョー・ファーンズワースのドラム・ソロも聴きものです。

④To Be With You
アレキサンダーのオリジナル・バラッド。ここではスロー・テンポでテナーサックスがじっくりとメロディを提示します。若者らしく張りのある音色ながら「溜め」がきいているところがミソです。オルガンによるバックのせいか、ソロでも張り詰めた感じはなく、アレキサンダーは最初は繊細に、後半はマイケル・ブレッカー的なフレーズも織り交ぜながら力強く吹き切っています。続くボビー・ブルームは音数少なくブルージーなムードを湛えてさすが名手という印象。メルヴィン・ラインもしっとりとした「大人の」ソロに徹しています。

きょうから東京都が外出自粛を呼びかける「ステイ・ホーム週間」が始まりました。「緊急事態宣言」に「ステイ・ホーム週間」と、新しいワードは出てきていますが、求められていることはあまり変わっていないはず。

この辺りの「五月雨式」な話法も国民にいま一つ対応を鈍らせている原因かもしれません。緊急事態での「初動の大切さ」、今回はそんな大きな教訓を残しているようです。
それにしては犠牲が大き過ぎますが・・・・。


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