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新型肺炎で恋しくなる「雑踏の高揚感」

新型コロナウイルスによる肺炎の勢いが止まりません。
きょう見たニュースでは、香港大学の研究チームが中国・武漢市の感染者について最大7万5800人に上っている可能性がある、という推計値を発表したそうです。

いまのところ中国以外の感染者は桁違いに少ないですし(きょうまでに日本国内で確認されたのは20人)、このnote記事のようなささやかなメディアでも危機感を煽りたくはありません。
ただ、「ヒトからヒトに感染が広がる」「症状のない人でも感染していることがある」などと言われると人混みの中に出ていくのがちょっとだけためらわれます。

そんな気分の現れなのか、街を歩く人や会社の中でマスク姿の人が急激に増えています。高性能なマスクを生産しているあるメーカーには注文が相次ぎ、1月後半の2週間で1年分のマスクが売れたそうです。

早く街なかに出るウキウキとした気分が回復すればいいのですが・・・
今回はそんな思いで「群衆の中」をイメージにしている曲が入った作品を聴いてみましょう。山本剛(p)の「ジ・イン・クラウド」です。

「ジ・イン・クラウド」はラムゼイ・ルイス(p)の演奏で知られていますが、実はルイスの曲ではなく、ドビー・グレイというブルース歌手が作ったものです。そのため歌詞があり、人混みの中で生まれるロマンスや高揚感が描かれています。オリジナルの歌もかなりヒットしたようですが、これにルイスがR&B的なアレンジを施して発表したところ、収録アルバムが1966年のグラミー賞に輝いたというラッキーな曲です。

これを日本人の中でも屈指のブルース・フィーリングがある山本剛さんが
演奏するのですから、熱くならないわけがない。
しかも録音されたのが「ジ・イン・クラウド」のグラミー受賞という記憶も新しい1974年。場所は山本さんが本拠地にしていた東京・六本木のクラブ「ミスティ」です。リラックスしたライブの気分で「群衆の高揚感」を味わいましょう。

1974年12月25日、東京六本木クラブ“ミスティ”での録音

山本剛(p) 大由彰(b) 大隅寿男(ds)

④The In Crowd
冒頭からファンキー・ムードたっぷりです。
黒っぽいタッチでピアノによるメロディが奏でられると、そこはちょっと危険な感じもある夜の繁華街。しかし、その妖しい魅力に抗することができず、ついつい足を踏み入れてしまう・・・
そんな気分になってくる演奏です。
山本さんのブルース・フィーリングはソロでも遺憾なく発揮。スタートから4分過ぎのところで粘っこいフレーズが繰り返し飛び出し、スタートから4分過ぎのところで粘っこいフレーズが繰り返し飛び出し、左手からの黒っぽいコードと共に熱気を帯びていきます。5分半ぐらいのところからは低音を思いきり響かせてまた別のグルーブを生み出しています。続く大由さんのソロは弓によるもので、これもディープなノリにつながっています。13分にも及ぶ長い演奏の最後は思いきり音量を小さくしたメロディからの締め。
こんなところにも粋な余裕がある演奏です。

⑤I Can't Get Started
こちらは山本さんの歌心がよく表れたバラッド演奏。メロディは非常に素直にピアノによって提示されていますが、一音一音が美しく、かつ気持ちがこもっていると言いましょうか、非常に「歌」を感じるのです。ソロに入ってからの右手が奏でる高音のキラキラした美しさと、時に強力に入ってくる左手のブロック・コードから生まれる絶妙のバランス。日本人らしい繊細さも感じる演奏です。

新型肺炎による影響はしばらく続くことでしょう。新しいウイルスによるものだけに、情報が日々アップデートされていくのはしょうがないことです。
どこまで注意が必要か冷静に情報を入手しながら、過ごしていくしかなさそうです。いつか繁華街での高揚感を思いきり味わえる日が来ることを楽しみにしつつ・・・。

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スロウ・ボート
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