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いま再評価される福居良

先日、雑誌「ジャズ批評」で「マイ・ベスト・ジャズ・アルバム2020」という特集が組まれているのを知りました

モダン・ジャズの旧作を聴くことが多い私ではありますが、いまどんなものが注目されているかも気になります。2020年という新型コロナ禍の年に発表された作品が(録音はその以前だったとしても)どんな風に受け入れられたのかと目を通してみました。

すると、驚いたことにピアニスト、福居良さん(1948-2016)の作品が2つも選ばれていることが分かりました。「マイ・ベスト・ジャズ・アルバム」には選考委員が選ぶ大賞のほかに「CD販売店」「アナログ販売店」による「特別編」的なセレクションがあります。

「CD販売店」編では福居良さんのデビュー作「シーナリィ+2」、「アナログ販売店」編ではピアノ・ソロによる「マイ・フェイバリット・チューン」が掲載されていました。それぞれ「タワーレコード渋谷店」と「HMV record shop 渋谷」の推薦でした。

福居良さんの作品はいまも多くの人に受け入れられているー。嬉しくて胸が熱くなりました。福居良さんは長年、札幌で活動したのですが、実は私が同地で勤務していた頃にご縁がありよく一緒にお酒を飲ませていただきました。

福居さんが亡くなってから、もうすぐ5年。去年、命日である3月15日に「マイ・フェイバリット・チューン」はLP発売されました。福居さんのお店「スローボート」を続ける奥様の康子さんの意志を感じる再発でもありました。

録音は1994年。全8曲のうち2曲は北海道放送が制作し、福居良さんがナビゲーターとして出演した番組「Nord ~北へ~」のために書き下ろされたものです。非常に優れたバッパーだった福居さんですが、オリジナル曲で豊かな抒情性を披露しており作曲家としても偉才を発揮していたことが分かります。

完璧主義者で生前、5作のアルバムしか残さなかった福居さんですが、改めて聴きなおしてみて北海道に凄いピアニストがいたことを実感します。

1994年6月4~5日、札幌市のザ・ルーテルホールでの録音。

福居良(p)

A-①Voyage
先述の番組のために書き下ろされた福居さんのオリジナル。旅が始まる高揚感を感じさせる曲です。散歩をしたくなるような軽快なリズム感があるメロディからソロに入ります。福居さんはライブでもよくソロを披露していましたが、右手と左手のバランスが非常によく、適度なグルーブを低音部が作りながらブルージーな味わいのあるフレーズを右手が繰り出します。福居さんの世界に入っていくのにふさわしいオープニングです。

A-③Mellow Dream
福居さんのアルバム第2作目のタイトル曲であり、代表曲と言っていいでしょう。私はライブで何度もこの曲を聴いてきましたが、ここでの10分以上の熱演は素晴らしいものです。まず内省的なイントロ。福居さんはこの曲に毎回、異なるアプローチで臨んでいますがここでの展開はかなり異色です。最初にやや強いタッチでメロディを暗示し、その後、印象的な一音を放ちます。この一音の後、大胆に間をおいて強い緊張感を作り出してから、静謐な世界へ入っていくのです。ゆっくりと花が開いていくかのようなイントロの美しさだけでもこの曲を聴く価値があります。続いてメロディを立ち上げると、ややテンポが上がりソロへ入っていきます。夢が進行すると言いますか、次々に風景が移り変わっていくように甘美なフレーズが強いタッチと共に描き出されます。ここでは「熱い」演奏なのに抒情性が失われていないことが何より大切でそこに福居さんの個性があると思います。

B-①Nobody's
福居さんが敬愛してやまないバリー・ハリス(p)のオリジナル。ここではバッパーとしての福居さんが腕を存分に発揮しています。ビ・バップ的なやや複雑な構造のメロディを提示した後、ブルージーで「黒光りした」音が響くソロは実に生き生きとしています。この曲、本当に好きで取り上げたんだろうなぁと想像できる活力に満ちた演奏です。

こうした困難な時代に聴き継がれる音楽はやはり本物なのだと思います。福居さんの70年代の未発表ライブを収めたLPが今月、新たに2枚組で発売されるという話もあります。

ぜひ、多くの人に届くように。


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