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エンタープライズセールスを図る指標

こんにちは。SlidePlus宮城です。セールス担当者が輝くためのコンテンツを全6回(予定)でお送りしています。前回の「エンタープライズセールスの勝ち筋」では、以下を紹介させていただきました。

・エンタープライズ市場とSMB市場は異なるため、戦略を変える必要がある
・目標に直結する「的」を明確にし、資する案件に集中する
・やらないことを決め、ターゲットを絞り込むこと

今回の執筆とあわせてご覧いただけると嬉しいです。

本題に入る前に、前提として旧来型のセールスと分業制のザ・モデルの違いから始めたいと思います。


フルサイクルセールスと分業型のザ・モデル

旧来型のセールスでは、一人の営業担当者が顧客の発掘(リードジェネレーション)から初回接触、ニーズのヒアリング、提案、クロージング、さらには契約後のアフターフォローまで、すべてのプロセスを一貫して行っていました。

この方法を「フルサイクルセールス」と呼ぶとすると、顧客との深い関係性を築くことができる一方で、個々の営業担当者に広範なスキルセットと時間管理能力が求められます。

その結果、営業活動が属人的になりやすく、組織全体での効率性や成果の最大化に課題が生じる側面がありました。

フルサイクルセールス

一方、スタートアップで多く採用されている「ザ・モデル」と呼ばれるセールスモデルでは、営業プロセスを細分化し、それぞれの段階を専門の担当者が受け持つ分業制を採用しています。

具体的には、リードを生み出す広告やイベントを仕掛けるマーケティング、リードの獲得や育成を担当するインサイドセールス(SDR)、商談や契約を取りまとめるフィールドセールス(AE)といった役割に分かれます。

この分業制により、各担当者が自分の専門領域に集中でき、プロセスの効率化やスキルの深化が期待できます。

分業制のザモデル。各部門で責任範囲を明確にした組織体制

以下のように整理できるでしょう。

フルサイクルセールスとザ・モデルのプロコン

セールス分業制が進んだ背景

これには市場環境の変化や顧客ニーズの多様化、そしてデジタル技術の進化が考えられます。情報が溢れる現代では、平均的に顧客は購買プロセスの57%を進めた状態でセールス担当者と接触していると言われています(2012年と古いデータですが有名な話です)。

セールス担当者には高度な専門知識や迅速な対応を求めるようになっています。そのため、一人ですべてをカバーするのは現実的ではなく、各プロセスを分業制にすることで、より高品質な顧客体験を提供できるようになりました。これにより、組織全体としての生産性向上や売上拡大に向けたボトルネック把握が可能となり、再現性のあるSales&Marketingを維持・強化することができると考えます。

※一方で「フルサイクルセールス」の良い点も理解しつつ、組織フェーズや扱うプロダクトによって組織構成を考えてみるとよいかと思います。

2つのセールスモデルを理解したところで、「購買」についてです

”BtoB購買”を理解する

ほとんどのセールス担当は「売った」経験はあっても、「買った」経験がないのではないでしょうか。私もその一人でした。一定規模のBtoB企業がどのように「購買するのか」を理解することで、この後の「フェーズ」が理解しやすくなります。

BtoB購買の基本的な流れと稟議書

  • 問題認識
    自社の課題やニーズを認識する。社内のオペレーションで行われていることがほとんどです。関係者間で解決方法を探し始めます。

  • 解決策の探索
    市場調査から複数のベンダーや製品を把握し、課題に対する解決策を探索します。

  • ベンダーの評価
    複数の提案を比較し、価格、性能、サポート体制などの基準で、近しい関係者である上司と共に評価します。

  • 購買決定
    最終的に起案者がどのベンダーやソリューションを採用するか価格も含めて判断し、稟議書準備を行います。

  • 組織内の調整
    起案する前後で、社内関係者に事前相談を行い、稟議が通るように調整が行われます。

  • 稟議開始
    起案部門から最終決裁者までのワークフロー決裁(またはハンコリレーを行う企業も)。

この購買のエビデンスともいえるのが「稟議書」です。記載されるポイントは3つです。

稟議書イメージ図
  1. 大義名分の記載
    「なぜ導入するべきなのか?」WantではなくMustの意味づけが必要です。大きいテーマだと「中期経営計画や社長メッセージ」で掲げられるスローガンを利用し、組織として実行する理由が記載されるケースが挙げられるでしょう。

  2. 競合差異、事例の記載
    他ベンダーと比較し「なぜ発注先の会社でなければならないのか」理由が記載されます。そのため、なぜ選ばれるのかプロダクトの明確な競争優位が必要です。

  3. ROIの記載
    発生するコストや、期待すべき効果を可能な限り数年先までの影響を数値で表現します。

どの点も当たり前のように見えますが、組織関係者を調整しながらまとめていくには相応の時間とコストがかかります

関係者の深い理解

エンタープライズ市場ですと、リードタイムが「数年」も珍しくありません。常に関係者を把握し、誰にどんな話を持っていけば組織が動くかを仮説立てる必要があります。ここでは簡潔に3つのポジションを記載します。

  • 購買決定者
    最終的に購買の意思決定を行う役職者(例: 部門長、CFO)。

  • 影響者
    購買プロセスにおいて、情報提供や反対意見を持つ人物を事前に把握しておく(例: 技術担当者、現場管理者、情報システム、経営企画、営業企画)。

  • ユーザー
    実際に製品やサービスを使用するスタッフ。

商談を繰り返し、事実を積み重ねるとバイヤー相関図の精度が上がります。

例)バイヤー相関図

補足
チャンピオン・コーチ等カテゴリー別に登場人物を分ける方法もありますが、驚くほどバイヤー相関図は変化します。現時点の「スナップショット」と考えるぐらいが丁度よいのではないでしょうか。そして、役職だけに拘る必要はありません。役職者をフォローする立場にいる秘書や企画側の方に影響力があることも忘れてはなりません。役職者を「〇〇ちゃん」と呼ぶ歴代の事務職の方がいらっしゃったり、過去に結婚式の挨拶をお願いして頭が上がらない元上司の存在など、取り巻く関係は様々です。

このような話を聞いたら、登場人物に紐づけたメモに残しておくことをオススメします。

決裁権限の把握

エンタープライズ市場の企業にはおおよそ職務権限規定が決められています。聞き慣れない言葉かもしれませんが、職位に付与される職務上の権限について定めたものです。それぞれの職位の権限を明確にすることで組織内での役割や責任を明らかにし、業務遂行を効率的にするために必要とされています。

職務権限規定は誰がどの程度の購買権限を保有しているか記載されています。購買担当者が把握しているケースはまれで、社内確認してもらうことが多いでしょう。

職務権規定イメージ図

さて、ここまで分業型のザ・モデルが浸透した背景とBtoB購買について記載しました。
「フルサイクルセールスと分業型のザ・モデル」「“BtoB購買”を理解する」
2つを理解いただくとフェーズ管理が腹落ちできると思います。

フェーズと見るべき指標

購買プロセスを反映させた”フェーズ”を管理

分業型のザ・モデルを組織へ浸透させ、マーケティング、インサイドセールス・フィールドセールスの役割を明確にする上で重要となるのが「フェーズ」の概念です。

7フェーズの例

フェーズの意義:顧客の“購買活動のステータス”を可視化したもの。進み具合を経営⇔セールス担当のステークホルダーが一元的に把握できるものとして存在します。

主な利用方法:事業数値の着地予想、ボトルネックを仮説立てすることを可能とします。

※Salesforce社でこちらに紹介されていますのでご参考ください。Salesforce社は“商談フェーズ”と表現されていますが、お客様の合意や行動によって形成される点は同義なので読み替えていただけると幸いです。

最低限入力すべき項目は以下でしょう。

  • フェーズ
    P1〜P7の顧客の購買フェーズ状態を入力します。

  • 売上見込額
    フェーズが浅い時点ではセールス担当の「取りたい額」が記載され、フェーズが進行するに従い事実の「受注額」に近づきます。

  • 受注予定日
    フェーズが浅い時点ではセールス担当の「取りたい時期」が記載され、フェーズが進行するに従い事実の「受注日」に近づきます。

そして、エンタープライズセールスとして見るべき指標に「期待売上見込額」を設けることを私はおすすめしています。

なぜなら、フェーズが浅い案件は受注まで遠いため売上見込みは低くなり、フェーズが深い案件は受注まで近いため、傾斜をかけることで着地予測を定量で行えるからです。

たとえば、以下のような図です。

期待売上見込額算出方法 例

このように“期待売上見込額”を「四半期・半期・通期」の3つの軸で管理すると現段階の大まかな着地予想を把握することが可能です。

イグジットクライテリアによる運用

一方、“購買活動ステータスベース”で管理を始めると概念管理を行う必要が出てきます。セールス担当と責任者の間で、「それってP3なの? P2じゃない?」というコミュニケーションが多く発生していないでしょうか。

概念を補完し、事実を元に進行させるのが“イグジットクライテリア”です。

たとえば、フェーズ2:課題の特定では以下のようなチェック項目を設けます。

□ 推進者の特定
□ 推進者となりうる根拠
□ 検討テーマ

これらの項目が埋まった(事実として引き出せた)時にフェーズ2→フェーズ3へ移行する運用です。全体像は以下のとおりです。

イグジットクライテリア 例

各フェーズごとに設けていますが、必ずしもチェック項目が埋まらずとも進行するケースもあります。必ず記載しなければならないのではなく、対象フェーズで聞き出せているかが重要です。

例として、顧客の導入意欲が強く「ふわっと」した状態でフェーズが進む場合があります。「予算もあり、もう意思決定者とも合意しています」と顧客が前向きに取り組むように見えるからです。しかし、このような状態で進むときは大体スタックします。

「期待していたのに顧客と連絡が取れなくなった」
「社内で進められなくなり、検討自体がなくなった」

せっかく急ぎで提案書・見積もりを作成したのに、案件が動かない。つまり、セールス担当の資源である「時間」を投下したのに成果に現れない。

このようなことを避ける=案件を見極めるには、担当者の気持ちに寄り添いながら、イグジットクライテリアに設けた事実を対象フェーズで聞き出すことが重要でしょう。

エンタープライズセールスを図る指標

ここまでフェーズ概念と運用方法を記載しました。理解が深まったところで指標についてです。

指標は3つです。

  • 案件保有数
    期日までに追っている案件数

  • 総額売上見込額
    期日までに保有している総金額

  • 期待売上見込額
    期日までに保有している傾斜を反映した売上見込金額

この3指標を、「四半期・半期・通期」の3つの軸で管理を行い、週毎で定点観測をおすすめしています。

Salesforceでは過去数字が取れない為、Excel or スプレッドシートで蓄積していました

なぜなら、3指標を少なくとも四半期でずっと計測していくと、独自の“法則”が現れるからです。

たとえば、私のチームで見えた法則は「四半期初めの期待売上見込額は、結論として四半期実績の±10%で推移している」

つまり、「当該四半期に入ったタイミングで期待売上見込額が達成していない場合、半期で案件を追う」必要があることがわかります。

その他にも「売れている営業担当は保有案件数が少なく、期待売上見込額が高い」

つまり、「売上見込額が高い案件がフェーズが深く、かつ的が絞られている」ことがわかります。

このようにフェーズ管理し、指標を分析していくと再現性が見込める指標を設けることができるようになります。

終わりに

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。前回は「やらないことを決める」重要性を説いた一方、今回はフェーズを利用した指標でエンタープライズセールスの図り方を紹介させていただきました。

  • 行動量をこなすが前進している実感がわかないセールス担当

  • メンバーの属人性に依存した達成プランになる営業責任者・企画担当者

この2つの立場へ向けた再現性ある計画の示唆になれれば嬉しいです。

次回は「エンタープライズセールスの価値提案」について執筆します。引き続きご覧いただけると幸いです。

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