【適当に書く】永遠無き世界
「このカメラで撮影をされた者はね、その撮影した写真の中に永遠に閉じ込められるんだよ」
……それを聞いたのは遡る事半年、友人Sからだった。
Sは小さい頃から親父さんの影響でカメラを趣味としていた。僕も何度かSに付き合って一緒に撮影を行なっていた。専ら僕はスマホのカメラだったのだが……長らくそんな状況だった僕を見て、Sがカメラをくれると言うのだから、僕は有難くその提案を受け入れる事にしたのである。
翌る日、Sの家へ行きカメラのコレクションを見せられる。レンジファインダーの古いカメラや通常の倍数撮影が可能なオートハーフなど今ではアンティークのようなカメラを好んで収集していたSはそれらの説明を嬉々として話す。
そんな中で聞いた話が冒頭にした話だったのだ。
そのカメラはローライA110ーー。
それなりに古く、まるでスパイが使っているようなデザインがエモい、のだろう……。
実際のところこれがエモいと言う事なのか僕は明確にはわからないし、所謂陰キャと言われるタイプの僕はそれを恥ずかしいと思った事もないし、自分が良いと思った事は正直に良いと言いたいのだ。A110の見た目だけを切り取ると中二病に侵されているの可能性も否めないのだが……。
「コンパクトな作りだけど、こう言うカメラもあるんだね。スパイ映画とかで使ってそうな感じ」
僕はそう言ってSのカメラに興味を示す。
「うん、このカメラはドイツの物なんだけど、ちょっと曰く付きの物なんだ……このカメラで撮影をされた者はね、その撮影した写真の中に永遠に閉じ込められるんだよ」
フフッと笑いSは続ける。
「でもこのカメラはもう壊れていてね。開閉機構が破損しているんだ。直す手段はあるみたいだけど、フィルムもなかなか手に入れづらいし、そこまでして……と言った感じかな。これはもう見た目だけのコレクションだね」
Sは若干残念そうにしたが、A110を棚に戻し他のカメラの話を続けた。
その日はカメラを選べず、また後日と言う事になりその日僕たちは別れた。
そしてその翌日、Sの死を知らされる。
僕はSの葬儀へ参列した。
棺桶に入れられたSの顔は綺麗なものだった。死因は急性の心筋梗塞だったそうだ。僕はSの顔を見て思う事はあったが涙が出る事はなかった。僕の心は乾いているのか?友人のSの死を目の当たりにしてそう思う。友人だから?Sは友人だから涙が出ないのか?
……本当のところ僕はSが好きだった。僕とSは友人であるが、実家が隣同士の幼馴染だった。そしてSは僕にとって好きな女の子だった。その気持ちを押し込めて僕はSとの付き合いを続けてきた。その結末がこれなのだから、自分自身に対する呆れ、何故Sに対して自分の気持ちをハッキリ伝えられなかったのか……僕の心は後悔だけで一杯だ。
「これまでSとずっと一緒にいてくれてありがとうな」
自分自身への呆れ、苛立ち、失望感で一杯の僕にSの親父さんが話しかける。
僕は顔を上げ、親父さんを見る。きっと僕の顔は見るに堪えない酷い顔だった事だろう。
家が隣同士で小さい頃から知られている関係で、よくSと一緒に遊んでもらったりした事もある。
親父さんは少し疲れた顔だったが、僕を想い話しかけてくれたのだろう。
「カメラ、選んでやってくれないか?話は聞いてたから、Sもそれが嬉しいと思うんだ」
親父さんはそう言って僕を見る。その顔はやはり疲れていたが、瞳は力強く僕を見据える。
僕は親父さんの……Sの気持ちを汲んで返事をする。
「ありがとうございます。また今度、お伺いします」
僕はそう言いやっと涙を流す事が出来たのだ。
半年後ーー
僕はSの家に赴いていた。僕の足取りは重く半年も経過してしまっていた。
僕はまず、葬儀より半年も時間が経過してしまった事を親父さんに謝罪する。
親父さんは経過した時間は娘のことを想ってくれていたんだろ?と言い、僕に笑ってくれた。
そして僕は親父さんと一緒にSの部屋に入り、カメラを手に取る。
ローライA110……撮影された者を永遠に閉じ込めてしまうと言う曰く付きのカメラ。
親父さんは何も言わない。
壊れて動かないこのカメラを手に、僕は手に入らない永遠を想いまた涙を流す。
Sと過ごすこれからはもう訪れない。
僕はSを、彼女を写真と言う永遠に閉じ込める事が出来なかった。
そんな想いを秘め、僕は次の一歩を踏み出すための戒めとしてA110を取った。
限りある時間の中で、僕達は生きている。
今、共にいる人を想い、後悔のないように生きていこう。
僕たち人間には永遠は存在しないのだから。
了
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