大体1回。時々、2回。
僕がちょうど生きてない時間は、昼だ。
つまり自分の中に昼は存在しない。
昼がサボっていても、気づかないので、昼からしたら儲け物だ。
こいつ、ちょろいなって思われてるかもしれない。
だって、撮影の日か、ライブの移動くらいしか昼と顔を合わせることはない。
そんな時、慌てて支度をするのは昼の方かも知れない。
僕が歯を磨き、普段は使わない洋服やギターを引っ張り出して外に出る時。
いつも変わらずに待ち構えている'昼'だって、ほんのタッチの差でギリギリセーフってこともあり得る。
それなのに太陽はいつもドヤ顔で佇んでいる。だとしたら度胸がすごい。
そんな太陽の属する昼とは、すれ違いの生活だ。
その痕跡すら感じない。
天井の高い半地下の部屋を寝床にしているが、遮光カーテンの為外の光はそもそも見えない。
僕がカーテンを開くのは、1日大体1回。時々、2回。
1度目は起きた時。大抵夕暮れが始まっているか、既に陽は落ち月が身をかまえている。
2度目は、夜と朝の境目。
大体は映画を観たり本を読んだりするか、作曲やデザインといった、新しい妄想の計画書を練っている。仲間と飲み明かしベッドにダイブする日もあるけど、今年に入ってからはそういった機会はない。
稀にカラスの声や、独特の空気感に気づかされて、ふとカーテンを開ける。
気がつくと朝になっているのだが、ごく稀に。
なんとも言えない黒と青と白が溶け合ったような瞬きに、触れる時がある。
それが、なんだか少し気恥ずかしい。
限られた一瞬を共有したような照れ臭い気持ちと。
空という現象の一番美しい状態を覗き見してしまったような、そんな気持ちが入り混じる。
思えば中学生の時、毎朝'きみ'と過ごした。
5:30に起きて、6:17の電車に乗り、7:50に都内の学校に着く。
そんな毎日。
嫌嫌起き、まだ1日の始まりを受け入られらない状態で出会う'きみ'は、全然魅力的じゃなくて、がさがさしていて不穏で、傲慢でがさつだった。
だけど、年に数回。心が掻き毟られるように美しく感じる時があった。
友達と何もない夜の街を歩き回り、他愛のない悪戯をした後に、迎える時だ。
そこで出会う'きみ'は、少しお姉さんみたいな感じで。
聞き上手で包容力があって、なんだかセクシーだった。
'きみ'に出会うと、取るに足らないちっぽけな逃避行が、大冒険のように思えたんだ。
期待しても、日常では会えないし、きっと今の僕にも会えないんだと思うと、ちょっぴり切なくなる。
今はほぼ毎日、'きみ'に会うのに、だ。
嫌嫌起きたわけでもないのに。あの日のように、夜から寄り添っていたのに、不思議だ。
僕らは変わってしまった。
僕が変わったのか、'きみ'が変わったのかは知らない。
ただ、僕らは変わってしまった。
やり直すことはもうできないのかも知れないし、またひょっこり再会できるかも知れない。
だけど、再会した時、心の中でほくそ笑む。
昔よりも、もっと君の色んな顔を知ってる。
段々と青が薄くなっていき、白に溶けていき、気付けば黒はさよならだ。
'きみ'は昨日の終わりなのか、今日の始まりなのか。それとも。
大体1回。時々、2回。
続けていれば、いつか分かる時が来るんだろうか。
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