2023年10月のサバイバー・ノート
どうやら8月~10月が私の鬼門のようだ。去年と同じ体調の崩し方をしているし、去年と同様に嫌なトラブルに見舞われた。
今年は仕事でのトラブルだ。大口案件が先方都合で怪しい雲行きになっていたり、意思疎通がうまく取れなかったせいで齟齬が発生したりで先行きが不安になっていた。そういうこともある。
今年は例年より早めに調子が上向いてきたので、まだ10月は終わっていないがサバイバー・ノートを書こうと思う。
寝ている間は不安にならない
まあそもそも不安が渦巻いていると寝つけないわけだが、それはそれとして寝ている間は苦しくない。処方されている睡眠導入剤を適切に服用しつつ、睡眠環境を改善することで不安を受け流した。
一番役に立った考え方は「肉体の疲労>精神の疲労の不等式を維持する」と「早く寝て早く起きて朝から運動する」のふたつだ。
私の場合、ある程度身体が疲れていれば睡眠導入剤なしでも眠れる日が多い。そして早く寝れば早く起きることができるし、人が少ない早朝に外を歩いて思考を整理できる。
早朝散歩が有効だったことは後述するが、睡眠という逃避を円滑に選べるような環境づくりはかなり効果的だった。
睡眠のために多少の贅沢もした。たとえばそこまで暑くもない夜にエアコンをかけて、ふかふかの毛布をかぶって寝たり。朝の喉環境が最悪なことを除けば、これが最強の寝方だ。
どうしても不安が渦巻いて寝付けず、半ばやけになって深夜徘徊をする夜もある。そういうときに最近は骨伝導イヤホンをつけている。耳をふさがないから車を避けやすい。
最初は安価なGEO製品を使っていたが、圧迫感や音漏れが気になったのと保証期間の関係で買い替えた。運動にも仕事にも使えるオーディオテクニカのこの製品がお気に入りだ。
自分だけの世界に閉じこもりたい気分のとき、耳を完全に塞ぐようなイヤホンやヘッドホンを使ってきた。実際それは効果的だった。
しかし、現実的な問題として「蒸れる」「外に出ると危ない」というものがある。ましてや精神的に弱っている時期は集中力が欠如しているから、そんな状態で出歩くわけにはいかない。
骨伝導イヤホンは安全に外で音楽を楽しみたい人にとっての実用的な選択肢になってきた。この10月を支えてくれた素敵なガジェットだ。
ひとりで出かける快適さ
今年は去年より経済状況に余裕が出た。そのおかげで不調気味なシーズンでも安心して外出できる程度の予算が捻出できた。
軽度ではあるがパニック発作を起こすことがあるので、できるだけ人混みを避けてリラックスする必要がある。交通機関は混雑時間からずらすし、可能なら指定席を取る。
目的地はたいてい博物館や美術館、あとは水族館に鳥類園だ。外出できる余裕のある日は情報処理能力も多少上向いているので、インプットの時間と割り切ることができた。
問題は休憩場所だ。普段から運動している私は体力がないわけではないはずなのだが、抱えている疾患のせいか人より疲れるのが早い。そして都会に排除アートがあふれる昨今、休む場所はどこも有料だ。
カフェやファミレスに入るという選択を取るには、まず相応の資金が手元にないといけない。それも「ここで使ったら明日がきつい」という類のお金ではなく、使っても焦りが生まれないお金である必要がある。
今年はそのお金があった。だから外出できた。仕事を頑張った私と仕事をくれたクライアントたちへの感謝が止まらない。
そういうわけでひとりでお出かけをすることが多い10月だった。
大抵の場合、気になる特設展を見に東京まで出ていく。この夏から秋にかけて特に興味を惹かれたのは「永遠の都ローマ展」(東京都美術館)と「陰陽師とは何者か」(国立歴史民俗博物館)だった。
必ずしも取材のつもりで行っているわけではなく、作品の糧になるかどうかとは関係なしによいものを見聞きするために行っている。本物を見て初めて培われる目というものがある、と思いたい。
特設展を探すのにはアイエムを利用している。
「日本最大級のミュージアム情報サイト」とあるとおり、アイエムはミュージアムの情報を探す上で最高のサイトだ。レポート記事も充実していて、新しい関心と出会いやすい。
ラジオと散歩する朝
最近は毎朝近所の公園を散歩している。
その公園は貯水池として設計されていて、外周をぐるりと歩くだけでもかなりの運動になる。加えて街路樹や雑草の整備が全然なされていないものだから人通りが少ない。
精神的に疲弊した人間が散歩するにはうってつけの公園だった。早朝の風に半端な刈られ方をした雑草の青臭さが漂い、嘘くさく思うくらいに清々しい空気が満ちている。
一応たまに自転車や他の歩行者とすれ違うこともある。そこまで穴場というわけではない。骨伝導イヤホンのおかげで衝突を避けやすくなった。
散歩中もっぱら聞いているのはラジオだ。radikoのタイムフリー機能を利用して早朝に深夜ラジオを流す。少し背徳感がある。
私は伊集院光を聞いて育った。元々落語が好きで、五代目圓楽の芝浜をDVDで見たのをきっかけに三遊亭一門に興味を持ち、そこから伊集院光を知った。ちょっと特殊な流れかもしれない。
ともかく、「深夜の馬鹿力」が今も昔も大好きだ。散歩中に笑っているとすれ違う人に不気味がられるので必ずマスクをつけている。
加えて、VTuberの緑仙(私はこの人の大ファンだ)がメインパーソナリティーを担当している「Audee CONNECT」の火曜日も欠かさず聞いている。新しい音楽と出会うきっかけになってとてもいい。
一晩ぐっすり寝てリセットされた状態で早朝に散歩していると、脳に溜まったキャッシュが解放されていくのを感じる。停滞していた処理が開始されて気持ちよくその日の作業に取りかかれることもある。
もちろん、毎日そう都合よくはいかない。足を捻って痛みに顔をしかめながら帰宅したり、散歩中に嫌なことを思い出してその考えに囚われたりする。
これまで挙げてきた例も同様だ。希望を溜めたバスタブの栓が抜け、底に描かれた不安の渦が隠せない夜もある。気分転換のつもりで遠出したのに嫌な思いをして帰ってくることもある。
これはサバイバー・ノートだ。100点を取るやり方なんてひとつも書かれていない。限界状態からどう生き残るか。そのための散歩だ。
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