睡沢週報 #40

長い月日の果てに再開される何事か、たとえばお祭りであったりゲームの新作であったり、そういったものへ向けられる人々の期待は過去のそれに対するものより大きい。

ただ、私の日記に関してはそういう心配もない。再開への期待は乗算だから、元の期待が0の場合は増加がないんだと思う。

前回の日記から職を失ったり、付き合いの長かった友達とさよならしたり、体調を崩して寝込んだりしていたから日記に書けることがあまりなかった。日記のネタ作りのために何かをやるほど殊勝でもないから、これから書くことが増えるわけでもない。

エアロバイク最強!

残酷なまでの暑さに耐えかねてとうとうエアロバイクを買った。エアコンの効いた室内で音楽を流しながら漕ぐエアロバイクが最強。ドラマ見ながら漕げるのもいいね。

買ったのはこれ。安い&コンパクト&静音&そこそこ長時間。実際に漕いでみると負荷がちょうどいい。10分で汗ばみはじめて、20分もすれば顎から汗が滴って、30分で一度生命としての限界を感じる。

元々膝が悪いからウォーキングを医者に制限されてしまっていて、運動不足に陥りつつあったからエアロバイクには感謝している。最強!

スパイファミリーおもろい

ようやく溜めてたアニメも消化できた。話題作の『SPY × FAMILY』もようやく手を付けられたよ。これ面白いな……。面白いだけじゃなく、色んな意味でエポックメイキングなのかもしれない。

この作品は本質的にスパイものというよりシットコムの性質が強いと思う。近いのは『奥さまは魔女』だ。属性のあるあるとそれに伴う勘違い、すれ違いで笑いを誘い、家庭的なドラマを展開する。人々に愛され続けている形式のひとつだね。

どうしてそれがエポックメイキングかというと、「スパイ」「暗殺者」「エスパー」といった属性のあるあるがある程度周知されたことをこの作品の流行が証明してくれたから。

定番、お決まりが伝わらないとできない作品というのは山ほどある。エルフとドワーフが喧嘩ばかりしているとか、刑務所の最奥に天才犯罪者が収容されていて警察が難事件解決のためにアドバイスをもらいにいくとか、無数にある定番は共有されてないと「どうして?」を説明しなくちゃいけない。

その点、「スパイには平和で幸せな日常などない」「スパイには悲惨な結末だけが待っている」みたいな定番が共有されていることを前提として構築された『SPY × FAMILY』は「あるあるネタを展開しつつ、わざとそれを外していくストーリー」によって面白さを生み出している。

説明しなくちゃいけない前提が多ければ多いほどその題材は扱いづらくなる。いわゆる「お仕事もの」くらいに突き詰めないと説明不足で読者置いてけぼりな作品が生まれてしまう。かつてはスパイや殺し屋、エスパーもそうだったよね、たぶん。

最近のスパイ作品でお気に入りの『プリンセス・プリンシパル』は人におすすめしても「話が難しい」と敬遠されてしまった悲しい記憶がある。みんなプリプリも見てくれ。

近年はキャラクターロールの文脈共有が著しく進んでいるような気がする。『極主夫道』や『東京リベンジャーズ』はその一例かな。このへんの作品は「不良のファンタジー化」もあると思うけど。

睡眠迷路、いまだ脱せず

問題:メンタルが不調で病院に通って不眠治療を受けている人間の健康によくないものを以下から選べ:
①爆音上映されるサスペンスドラマの悲鳴、怒号、断末魔
②物に当たりがちな家族が些細なすれ違いから怒りを顕にする物音
③日が昇るまで眠れない夜を正確に刻み続ける時計の針
④住み続けた我が家の老朽化に伴う不気味なラップ音

正解は全部! ぜーんぶ!

そういうわけでノイキャンワイヤレスイヤホンや耳栓を試し続けてきた数年、ようやく耳に馴染む耳栓を見つけられたおかげで睡眠が安定したかというと……そうでもない。

不眠の原因はいくつかあって、特に辛いのが「思考を停止できない」という不具合。人体の欠陥に違いないと思っていたのに、普通はできるものだと現実を叩きつけられた私の明日はどっちだ。

スマホを切り、ストレッチをし、薬を飲み、水分を取り、耳栓をつけ、そしてベッドに入って電気を消す。ここから私の脳は日中の活動時と同じか、下手をすればそれを上回る勢いで情報を処理していく。

昔からアイデアマンで鳴らした身として、この思考能力には助けられてきた。土壇場で知恵を巡らせて切り抜けたことも少なくない。何より創作活動をやる上では間違いなく武器のひとつとしてカウントしてきた。

ところが睡眠は思考と並行しない。私はイルカではないからだ。ベッドに入っても頭の中では無数の言葉が這い回っていて、それらはちょうどフォトジェニックな穴あきチーズを作った残りの残骸チーズのような、アイデアの残飯たちだ。

残念ながら私はポケモンではないから食べ残しを持っていても体力は回復しない。しかし、残飯になってもアイデアはアイデアだ。それらを合成、連結していく思考が止まらない。チーズなのかかっぱえびせんなのかはっきりしてほしい。

全部メモに書き出せば整理されるかとペンを取った日は朝までネタ帳をボリュームアップさせていたし、なんとか無視しようと他のことを考えても持ち前の関心意欲態度はなまる根性が新たな話題に食いつきはじめる。

認知シャッフル睡眠法というやつも試してみた。一定間隔でランダムに関連性の薄い言葉を思い浮かべ続けるというものだ。認知シャッフル中のワタシを観察するメタの私が「その語句とその語句は~~~~に関して関連している」と指摘しはじめるので一切寝付けなかった。

結局薬を飲んで眠気に抗えなくなるまでのんびり椅子に揺られている以外の解決策を見つけられていない。このボタンを10秒押し続けると睡眠モードに入る、みたいな機能を増設したいよ。切実に。

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