詩「鯨と共に生きている」

陸の上で生きている
苦悩しながら生きている
世間の波に押し流されつつ
鯨と共に生きている
心の海底に住まう
巨大な白い鯨
好物は文学と音楽
鯨は時々
下手っぴな唄をうたう

私は今は外回りの鳥
三猿率いる太っちょスーツは
知らない事は無視をして
知っていた事もシカトしている
周囲も理解していた
私も同調しなければならなかった

起きて食べて働いて寝てまた起きて働く
オンシャノタメニ
オクニノタメニ
カゾクノタメニ
心は次第に凍てついていく
次第に心は感情を無くしていく

鯨の声は聞こえない
消えてしまったのだろうか
きっとそうだ
とっくの昔に凍り果てた心の海は
さぞ居心地の悪い事だろうから

ある時電車の注意書きに
死体の二文字
ふと目が止まる
今の私は
生きているのだろうか
死んでいるのではないだろうか

パキンと音がした
氷海の下から
噴水が湧き上がった
今までの経験と知識の海を駆け巡り
倫理の海を通り越して
ユーモアの海を通り抜けて
鯨が姿を現して
再び詩を詠い始めた

電車の注意書きには
死体は禁止とされている
それなら僕も乗ったらいけないのかな
肉体的には活動していても
精神的には死んでいる
これを死体と呼ばずなんと言う
改札口を抜けて電車に乗り込んで
空席に腰掛けた僕は
眠るように死んでいる

ああ消えてなんかいなかった
まだ私の中にいたのだ
それが知れただけでも十分だ

私は今日もまた深い眠りにつく


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