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ARRIVAL を見て

 前置き

 映画を見てから既に3週間ほど経っており、一時は自分のキャパを超えて長くなってしまった文章を前にして身動きが取れなくなり、放置していた。しかしなんとなくずっと気がかりだったのでとても雑にレビューを終わらせました。

 この映画の主軸(構成としての展開)は2つある。一つは地球という世界の結束、こちらを大枠とする。もう一つが、ルイーズの家族の記憶という形で描かれる、個人的な世界の物語。この2つを分けてまとめる。大枠についてはより考察的に、ルイーズの個人的な世界については、より感情的にまとめてる。

 個人的には、sfにしては落ち着きのあるとはいえ、しっかり壮大なスケールを感じる大枠のストーリーよりも、ルイーズと家族との個人的な世界の話が、この映画を見れてよかったなと思った部分。映画の中で描写される時間は短いけど、映画のスケールに対してそのパーソナルさゆえに不思議な密度があった。なので大枠についての考察の方が文章は長いんだけど、どっちかというと[ルイーズの個人的な世界について]の感想をまとめるためのレビュー。大枠の考察は実は自分の中であんま重要じゃない。

1.[大枠について](あんま重要じゃない)


 ストーリーの理解のために、考察をする。

 地球の結束、それはルイーズがシャン上将を説得し、世界各国が協力体制を取り戻すという流れ。だけど、これは映画の展開における主軸であって、その背景にあった、しかし映画では多くが明らかにならなかった「ヘプタポッドの目的」がより大きな流れである。地球の結束もその流れの一部と考える。映画の流れでは、ヘプタポッドの用いる言語を解読し、コミュニケーションに成功すること、さらにその言語の理解に深く関わるルイーズが与えられた「ギフト」によって、一時はシャットアウトしてしまった“殻”に対する各国での情報共有が再度開かれ、一部の国の“殻”に対する宣戦が取りやめになったことによって、各国の“殻”は示し合わせたように、地上から消失していった。
ヘプタポッドの目的とは、言語を与えることと、映画の結末である、各地域が結束して一つになる、ということだったのだろうか。

 ヘプタポッドが来た目的について再度思い返してみると、最初は“武器を提供”。軍の撤退間近での、ルイーズとコステロの2人だけでの接触では“人類を助ける”“3000年後に人類の助けがいる”とあった。“武器を提供”については、物語の後半で“武器”とは“言語”のことだとルイーズは理解する、つまり“武器を提供”に関しては、“言語を提供”ということになる。



 まず、“人類を助ける”という目的について。助けるとは、どのように助けることなのか。映画に映された中で、“人類”が助かったと描写されるのは、 “殻” の対応に関して、世界各国が再度情報を共有し合い、結束するという点だろう。じゃあ、これが“人類を助ける” ということだったのか、それは少し違うと考える。

 これは “人類を助ける” のただの一部だったのではないかと思う。確かに、各国がシャットアウトしていた通信網が復帰したタイミングで、“殻”が地上から消失したのは、目的を達成したからと考えられるため、目的の中には入っていたのだと思う。ただし、“人類を助ける” というのはこれで終わりではない、というのが自分の考えである。自分の考え方としては、今回のヘプタポッドとの関わりで人類が得たものやその過程が、未来にわたって人類を補助するのではないか、ということである。

 そもそも、“人類”とは何を指すのか。それは必ずしも映画での今を生きている人類ではなく、種としての人類を指すと考える。それはつまり、未来の人類である。例えば一つの仮定として、人類が数百年後に起こる大戦の末に、“種”が滅んでしまう未来があるとする。ヘプタポッドは今回の到来によって、その絶滅が避けられると知っていた、みたいな。実際、3000年後の人類に助けてもらうためには、単純に3000年後の人類が助け状態でなければならない。遠い未来の人類の危機が回避される、それが自分の考える“人類を助ける”である

 さらに言うと、その未来に繋がる今回のこの到来において、ただ“言語を提供” することだけではなく、“この” 過程を経ることが大事だったのではないかと考える。人類がヘプタポッドとコミュニケーションを取るために言語を理解しようとした過程、ヘプタポッドの対応をめぐって最終的に国々が結束した過程。ある未来、さらにそこから繋がる未来はどんな過程によって決定づけられるのか。極端な話、その時一羽の蝶がそこで飛んでいたかどうかで大きく変わってしまうかもしれない。ヘプタポッドは、 “この過程”を辿ることによって、未来のどこかの人類が、種としての人類が、例えば危機から回避されることを知っていたのだと、自分は思う。

 “この”過程がヘプタポッドによって意図されたものではないかと感じた場面が何個かある。それは、一部の兵士による独断での “殻”への攻撃後、高度を上げた“殻”単独で向かったルイーズが、ヘプタボッドと“会話”をするシーン。ヘプタポッドに対して、ルイーズはあの“言語”ではなく、英語による話し言葉で尋ねる。それに対してヘプタポッドは“あの言語”で答える。ルイーズはあの“言語”を使っていない。なぜ、ヘプタポッドは英語を理解したのか、なぜこのような形でコミュニケーションが成立したのか。

 それが結局は、最初からそのようにコミュニケーションを取ることができたが、あえて“この過程”を辿らないといけなかったから、と考える。
 その“あえて” 感じさせるような、回りくどさを感じるシーンが何個かある。まず、“言語”を“武器”と表現したシーン。なぜより詳しく、言語であると補足しなかったのか。2つ目にルイーズがヘプタポッドに“give technology now”と問いかけるシーン。それについても、ルイーズの知らない記憶の映像を見せるという方法をとった。その時点で未来を見る力だと教えるのが一番手っ取り早い。3つ目に、最後の解明に時間がかかった複雑なメッセージ。解読した結果わかったのが、武器が言語であることの他に、 “1/12”と“時間”に関するものだった。そこからイアンは12の地域で協力しろというメッセージを推測する。そしてその解釈で正しかったように、それぞれの国が協力を示した段階でヘプタポッドは地球から消失した。イアンの解釈通りだったならば、「12の地域で協力しろ」というメッセージを送ったほうがわかりやすい。

 そしてそもそも、“殻” という人類が解明できないような未知であり、高い文明性を有する物体を用い、確かな目的を持って複数同時に出現したヘプタポッドたちが、ひたすら応答のみで、地球の言語の理解ではなく、自らの言語の理解をひたすらに要求するようなコミュニケーションを取ったのも、円滑なコミュニケーションを取ることが目的ではなかったことを感じさせる。例えば、“殻”の移動性やヘプタポッドの“未来を見る力”を考えると、あらかじめ人類の言語を学習しておくのは、可能だったのではないか、考える。それでもそれをしなかったのは、あえて、意図的に“この”過程を辿ったと考えたくなる。あえてまわりくどい過程を辿る。ルイーズの言う通り、“急がば回れ”。その過程が、ある未来に繋がることを初めから知っていて。

 一層憶測的になるが、他にも意図的だったのではないか、という部分が見えてくる。例えばヘプタポッドのあの姿。そもそも顔というものがなく、つまり表情がない。コミュニケーションの取りやすさは表情のあるなしで、その難易度が大きく変わるように思える。もしも本当は別の姿の生き物があの姿をとって、人類の前に姿を現したとしたら。じゃあ実際の姿はというと、人類と同じで、本当は “殻” というのはタイムマシーンではないか、みたいな妄想。

 今回、文字をわかりやすいフォーマットで与えたとしても、それが長い数千年後に良い未来をもたらすかどうかなんてわからない、当然悪い未来の可能性も。ヘプタポッドは知っていたのではないかと思う。“人類を助ける”とは文字を与えること。“この過程”で与えることだった、と。



 次に“言語の提供”という目的について考察する。ルイーズは“言語の提供”について“ギフト”と表現した。つまり、“言語の提供”そのものが “人類を助ける” と考えることができる。言語によって、“人類を助ける“。

 では“言語を提供”によって“人類が助かる”とは、どういうことか。答えに迫る上でまず、映画でロシアの研究者が命を賭して伝えたメッセージについて考察する。自分はここに”言語の提供“ と “人類助かる”を結びつけるものがあると思う。がメッセージは二つ。“多数が一つになる(Many become one)”  、“時間はない(There is no time)”というメッセージがあった。まず、自分はこのメッセージは言語に関するものだと考えている。一つ目の“時間はない”というのは猶予がない、ではなく時間の感覚、時制についての意味だと考える。これは実際、撤退の中でルイーズが大佐に訴えかけた発言と一致している。「時間は流れるものじゃない、彼らの言語を通して彼らの時間の見方ができる」

 そして二つ目の“多数が一つになる”。自分は、これこそが“人類を助ける”に直接的に結びついているものだと考える。これを言語に置き換えて考えると、世界が(新たな)共通言語を持つ、と解釈できないだろうか。ただし、この(共通)言語が、未来にわたってどのように“人類を助ける”のかは、作中には明記されていない部分である。


2.[ルイーズの未来を見る力についての軽い考察](あんま重要じゃない)

 場面場面でルイーズの頭に流れる映像。それが、未来を見る力だとルイーズ自身が気づくまでは、それはまるで不意に記憶が思い出されるように映像が流れるだけだった。
 だけど後半、ルイーズはその映像が未来に起こることだと少しずつ気づき始め、コステロとの対話によって未来の力と確かに知った後は、意識的に未来の記憶を探り、問題を解決していく。

 その中で一つ疑問に思ったシーン。中盤、ヘプタポッドに対してルイーズが“今 技術を 見せて” と問いかけるシーンがある。ルイーズの問いかけに対して、ヘプタポッドはルイーズに「ヘプタポッドの文字」を書くように要求する(ルイーズがそう解釈した)。両手では出来ない、とルイーズが言うと「円」の片側をヘプタポッドが、ルイーズは片手で半分を書く。書き始めてすぐ、ルイーズの頭に映像が流れる、ハンナの映像。

 このシーンでは、ヘプタポッドによってルイーズが未来の記憶の映像が流れたように感じた。これはヘプタポッドの意図が、話の流れのどこまで及ぶのかを考える上で関わってくる部分なのでメモ書き程度に。自分としては、ヘプタポッドがとても個人的な部分まで、ルイーズのハンナの記憶の部分まで、関わっていたんじゃないかなって感じる。その映像を見せる意図はもちろんわからないけど、一つ言えるのは、あの表情のない生命体が途中からだんだんと親しみ深いキャラクターになっていくのをみんな感じたはずってこと。


 (未来でのシャン将軍との会話もとても奇妙で印象的、まるで現在によって過去が因果することを知っているような。この番号を君に教える、過去でこれを使いなさい、と言わんばかりに。)


3.[ルイーズの個人的な世界について](重要)

自分が、とても好きだった場面。


 コステロ(ヘプタポッドの一体)とルイーズのみで行われた最後の対話のシーン。ルイーズは「なんで未来がわかるの」と尋ねる。ルイーズの頭に、あの女の子の映像がまた流れる。これはコステロが見せているものなのか。
「この子は一体誰なの」
ルイーズはその映像の意味がわからない、なのに、感情が先行して溢れ出る。そこにある感情はどういうものか、表情と声の振動が伝えるもの。目頭が赤くなっているように見える。

“ルイーズには未来を見る力がある”
“武器は時を開く”
コステロは答える。

 映像の中で、ルイーズがハンナを抱きしめる。もうその映像の意味をルイーズは知っている。ハンナの肩越しに据えるルイーズの視線が見るもの。
 子供を見る時、大切な人を見る時、その人が守られていくことを、祈り、想像する。だけど、ルイーズの視線は同時にとても悲しい。どれだけ祈っても、その未来を知っているから。



 最後、殻が消え、ルイーズとイアンの物語が始まる。世界という規模の大枠の話よりも密度のある、数分間だった。とても個人的な物語。イアンの肩越しのルイーズの視線が映される。それは一つの未来を知っている目線に思える。未来の記憶の中で、小さいハンナを抱き抱える父親のイアンの視線、暖かくて、そこには想像や祈りや安らぎがあって、ルイーズのそれとは、明らかに違うもののように見えた。



 ルイーズがイアンを見つめる表情は、なんだろう、その真っ直ぐ見通す目は、あまりにも安らかで、そこには悲しみや諦めや、時間を経て堆積するはずだったいろんな感情が垣間見える。見つめあった2人は抱きしめる、見つめあっていた時にルイーズの口元にあった微笑みは、抱き合う直前に、少し結ばれている。そこには幸せと悲しみと、たくさんのものがあるんだと思う、それが結果としてなんなのかは形容できない。未来を知って、生きること。それはあまりにも辛いことに思える。









あらすじ(メモ)

 この映画の主軸は2つある。一つは地球という世界の結束、こちらを大枠とする。もう一つが、ルイーズの家族の記憶という、個人的な世界の物語。

 世界各地にある日出現した12隻の未確認飛行物体。“殻”と名付けられたそれの船内には、知的生命体(ヘプタポッドと名付けられた)が2体いた。その“殻”ないしヘプタポッドの解明は、“殻”が出現した世界各国で情報共有されながら進められていく。アメリカの“殻”では、言語学者ルイーズと物理学者イアンが“殻”へ乗り込み、ヘプタポッドとのコミュニケーションを試みる。

 透明な壁一枚を挟んで、ヘプタポッドのコステロとアボットとのコンタクトを図る中で、ヘプタポッドの操る表意文字を理解することに成功し、コミュニケーションを進めていく。この経過を過ごす中で、時折ルイーズの頭の中に、記憶のような映像が流れることになる。鮮明な、ある女の子と自分の記憶。だけどそれはルイーズの過去に存在しないものだった。

 コミュニケーションが進む中、ヘプタポッドから、遂に「到来の目的」に関して一つの答えが得られた。そのメッセージは“武器の提供”。そして、同様に飛行隊が確認された中国においても、目的は“武器”に関するものであることが世界に伝達される。
 それに伴い、ヘプタポッドの目的が、それぞれに武器を与え、地球人を対立させることで地球の侵略を測ろうとしているのではないか、などの推測が加速。情報共有をし、協力関係にあった他の国々同士においても警戒感が強まる。このままコミュニケーションを図るのか、宣戦布告をし侵略を防ぐのか、先行きが怪しくなる。各地で不安が募る中、既に情報共有を停止していた中国ロシアに続き、遂にアメリカも情報をシャットアウトする。
 それらの不安は一般市民の間にもどんどん広がりを見せる。軍部の中でも不安を募らせた兵士の一隊が、遂に“殻”に爆弾を仕掛け、独断で攻撃を仕掛けてしまう。攻撃をしてしまった状態で近くに留まることの危険性を感じた軍は撤退する流れをルイーズたちに伝える。
 撤退と重なった、ロシアの研究者が、ロシア軍に消される直前、個人的に発表したヘプタボッドのメッセージには“多数が一つになる”、“時間はない” 協力。謎のメッセージと、そのメッセージを送った研究者を粛清したロシアのことも、軍部に不安をもたらした。


 さらに、攻撃後“殻”は地上から大きく上昇し、コンタクトを取るのがほとんど不可能になってしまった。撤退に対して納得がいかないルイーズの頭にまた映像が流れ、それを頼りにルイーズは“殻”に乗り込むことに成功する。

 “殻”の内部に入ると、ヘプタポッドとルイーズは初めて壁を挟まずに対話(伝達)を行うこととなる。ルイーズが「あなたたちが来た目的は何?」と再度、言葉で伝える。ヘプタポッドは“人類を助ける”、“3000年後に人類の助けが必要になる”、と伝達した。「なぜ未来がわかるの」と尋ねるルイーズの頭にまた、あの女の子の映像が流れる。「わからないの、この子は誰なの」ルイーズの目が赤くなり、声が震えている。

 ルイーズが他の“殻”にメッセージを送ってほしいと、ヘプタポッドに頼んだところ、“ルイーズには武器がある”、“ルイーズは未来を見る”と。そのままルイーズは地上に帰される。

 撤退命令が発令され、遂に撤退が始まる中、ルイーズの頭にまた映像が流れる。女の子の映像。ルイーズ記憶を探り始める。その記憶には、ヘプタポッドの言語をまとめた翻訳書が映っていた。それはルイーズが未来で書いたものだった。これによって最後のメッセージを解読するも、軍の決定は揺らぐことがなかった。

 もう一度映像が流れる。「ママ起きて」
別の記憶、大きな招宴の映像。そこには、“殻”の出現に対して、中国において最高責任者であったシャン上将がいた。それは、18ヶ月後の出来事だった。ルイーズは、その未来でのシャン将軍との接触により、状況が頻拍する撤退の中、シャン上将にプライベートに電話をかけ、説得に成功する。その結果、中国は宣戦布告を取りやめ、ヘプタポッドに関する全ての情報を共有を発表し、それを皮切りに世界各国は情報共有を再度、始めた。

 その世界の再度の結束に示し合わせて、“殻”は霧散するように地上から消えていった。

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