ワウペダルというエフェクトについて Crybaby製品ふたつをサンプルに
英語でwah-wah pedal、いわゆるワウペダルのなかでは最古のブランドといえるクライベイビー(Crybaby、以下CB)の名は皆さんもご存知かと思うが、実際に所有して鳴らしたことがある方は意外と少ないのではないかとお察しする。
今回はCB製品のなかからふたつをご紹介することで、ワウにあまりなじみが無いギタリストにもこのエフェクトを知ってもらいたいと思う。
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まず、ギター用エフェクトとしてのワウペダルが誕生した経緯について少し触れておく。
起源はトランペットやトロンボーン等の金管楽器に遡る。ベル、つまり音の出口であるアサガオの部分に装着して音色を変えるミュート(mute)のなかに、先端の開口部を手でふさぐことで音色を変化させられるものがあり、その独特な変化からワウミュート(wah-wah mute)と呼ばれた。
1966年、ヴォックス(VOX)のエレクトリックオルガンの開発エンジニアが偶然発見した回路を既発のヴォリュームペダルに組み込んだワウペダルが製品化されたのだが、これにワウミュート奏法の名手クライド・マッコイの名を冠されたのも、ワウがギターではなくトランペットの奏法であるという認知が先に広まっていたからである。
…少し脱線するが、先のワウミュートの先端に突き出ている管は引き抜くことができ、その状態でトランペットに装着すると金属的でか細い音色が得られ、強いブロウ(blow、息の吹込み)では鈴が鳴るような鋭い高音が響く。
このトーンを積極的に活用したのがマイルズ・デイヴィスであり、多くの名演を残したことでトランペットにおけるミュート奏法のベンチマークとなっている。
そのマイルズだが、大会場での演奏に合わせて導入していたトランペット用マイクロフォンにワウペダルを組み合わせていたことがある。
これは60年代に出会ったジミ・ヘンドリクスからの影響であることを本人も認めており、後の80年代中盤頃まで用いていた。
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先に触れたヴォックスのエンジニアが発見した動作原理だが、その正体はギター用アンプリファイアの中音域の増幅回路である。
①入力された楽器の信号を増幅する。
②特定の周波数帯をカットするフィルタを組み込み、ポット(potentiometer、可変抵抗器)さらにはペダルと連動させる。
このふたつの仕組みにより、
○ペダルを上げ、
フットボード(踏板)のかかと側が下がった状態では
人の声の「ウ」を思わせるこもった音色が、
○ペダルを踏みこみ、
フットボードのつま先側が下がった状態では
「ア」音に近い、尖ってギラついた音色が
得られるペダルが出来上がった。
さらに、60年代後半以降はエレクトリックギターの大出力化とハイゲイン化が進んだ。
その、ヘヴィなディストーションと組み合わされたワウペダルの、リアルな人間の声を思わせるうねりやヒステリックでメタリックなトーンが多くのギタリストとリスナーの耳を捉えたことでワウペダルはエフェクトペダルとしての地位を確立したのである。
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足踏み式の、人の声を思わせるウワウワという音色を得るためのエフェクトとして誕生したワウペダルだが、早くも70年代には別の用途を見出すギタリストが登場する。
現在ではワウの「半踏み」や「半止め」の名で知られる使用法であり、マイケル・シェンカーの代名詞となっていることをご存じの方も多いだろう。
80年代初期のシェンカーは50ワット出力のマーシャル(MARSHALL)1987に、踏み込んだときに最も中音域がブーストされるように改造したJEN時代のCBを組み合わせていた。
また、ペダルの位置‐オンにした状態での踏み込み具合を細かく調整することで狙った音域のブーストと、その信号を受けるアンプのトーンを綿密に計算していた。
1987のラウドで反応の早いトーンキャラクターと、CBによる強いミッドブーストが融合することで太く艶やかなシングルノートと突き刺すような高音域の伸びを得ており、エモーショナルなフレージングと相まって説得力あるサウンドを鳴らしてみせる。
この個性的なギターサウンドは多くのギタリストに影響を与えたことでワウペダルの半踏みによるミッドブーストという手法が知られるようになった。
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ワウペダルの回路のなかでも特に重要なファクターとされているのがインダクターというパーツであり、CBの初期の製品ではこれにイタリアのフェイゼル(FASEL、ファーゼルとも)社のパーツが用いられていることが知られている。
エフェクトペダルの構成要素のなかでもあまり注目されることのないインダクターが、しかし、ワウペダルにおいてはもはや最重要とさえ目されているふしがある。なんせわざわざパッケージパーツとして流通しているのだから。
現行の、ジムダンロップが製造するCBにフェイゼル製インダクターを採用したモデルもラインアップされている。それが見出し画像にも登場ねがったクライベイビー・クラシックことGCB95Fである。型番のFはやはりフェイゼルを示しているのであろう。
製品周期が早いジムダンロップにおいてGCB95Fは私が楽器屋で働いていた頃から現在に至るまで生産が続いている。やはりその実力が多くのギタリストに認められているのであろう。
私がこのGCB95Fを強く勧めるのはそのサウンド、特に中音域の厚みだ。
私の耳には、GCB95Fを除いた他のCB製品はオンにした際の音の痩せ感が大きすぎる。ギブソン系の、特にPAF系のハムバッカーを搭載したギターに繋ぐのがためらわれるぐらいだ。
ペダル操作によるチャカポコではまだいいが、先に触れた半踏みによるミッドブーストを狙うのであれば、現行製品でもGCB95F一択だ。
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ワウ半踏みという手法ではペダルの位置を固定しなければならず、フットボードのつま先の真下にスイッチが配されたCBワウぺダルではエフェクトのオン/バイパスの切替が難しくなるというデメリットがあった。
そのようなギタリストのニーズに応えるべく、CBがリリースしたのがQ-Zoneである。
上の画像はMXRの「カスタムショップ」製品という扱いで2017年にリリースされたCSP030 Cry baby Q-ZONEである。
MXR、クライベイビーともに商標をジム・ダンロップが保有していることで生まれたダブルネーム(?)なのだが、それよりも前には同じくMXR製として3つのノブを備えたモデルがリリースされた。
また、あまり知られていないがケリー・キング(SLAYER)のシグニチュアモデルのQ-Zoneもリリースされたことがある。
Q Zoneは2020年頃に生産が完了してしまっていたが、嬉しいことに最近になって再びラインアップに復活した。
Q-Zoneが他のブースター系ペダルと異なるのは、中音域のブーストと同時に他の周波数帯のカットがかかることである。
単に特定の周波数帯を持ち上げるだけではどうしても音像がぼやけたブーミーなトーンになりがちであるが、Q-Zoneではワウペダル由来のカットオフによる尖った、ヒステリックな質感が残る。
これはPAF系ハムバッカーのみならずフェンダー系シングルコイルとの組合せでも非常に主張の強いトーンを生み出す要素でもある。
ただし、Q-Zoneのキャラクターが活きるのはやはりチューブアンプとの組み合わせである。
100ワット超級のハイゲイン系モデルからでさえ、よりヘヴィでアクの強いサウンドを引き出すことが出来るのは特筆すべき能力だと思う。
現在のデジタルプロセッサの進歩を認めないわけではないのだが、Q-Zoneの特異な能力を十全に発揮するためにもギタリストはぜひチューブアンプを選択してほしい。
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別の機会にまとめるつもりなのだが、エフェクトペダルの中にはトゥルーパイパス化や動作原理の改良・変更等が困難なものが一定数存在する。
ワウペダルはその筆頭といっていいだろう。付加機能を備えた新製品こそ常に市場に供給されるものの、基本的な動作原理は60年代後半から現在に至るまでほとんど変わっていない。
フットボードの踏み込みによるリアルタイムの音色のコントロールには慣れが要ること、その悪目立ちする音色を自身のギターサウンドに採り入れることに抵抗があるギタリストも多いようだ。
だが、その原始的な回路構造ゆえに得られる効果が大きいのもワウペダルの特徴である。
特に若いギタリストは、その感性が瑞々しく柔軟なうちに機会を見つけてCBクラシックことGCB95Fを鳴らしてみてほしいと思う。
また、クリーンブースト系ペダルではいまひとつ納得いくサウンドが得られないギタリストは、いちどQ-Zoneを試してみてほしい。
合わないギタリストには全く合わないこともあり強くは勧めないが、上手く噛み合ったときの、うわスゲェ!という快感はなかなかに大きいものである。