
泡の群
墨汁みたいな闇の中
毎日、舟を漕いでいる
暗い中では進めない
けれど
暗い中では眠れない
ぎい ぎい ぎい
古びた櫂は避けそうに
墨色の中を息継ぎする
たまに あるのが塗り残し
今にも染まりそうな白が
しらけた目をして見つめてる
お互いなんにも口にせず
通り過ぎてはすれ違う
舟には幾度も穴が空き
墨汁に沈むときもある
けれども足には縄がある
「底へ沈むにはまだ淡い」
そうして舟へとよじのぼる
急に墨色が澄んできて
浜辺の砂に足をつける
のんだ墨汁は溜まりゆく
明日もあの白と会うだろか
明日も浜辺に着くだろか
白い貝殻は聞こえず切った