季語「冬暖か」について
冬暖か 三冬・時候
*傍題 冬暖、暖冬、冬ぬくし
寒いのが冬の特徴だが、つよい寒気団が襲わぬ冬はくらし易く、ありがたいものである。俳句では多く、冬暖を喜びとする句が作られる。(「新歳時記」平井照敏 より引用)
例句
冬暖か/冬あたたか
6音ではあるが、わざと字余りにすることでだらだらした音韻となり、より冬あたたかの感慨がこもると考えられるので、上五・下五にそのまま置いても良い。朝・昼のイメージが強い。
■例句
シーソーは一人でできぬ冬あたたか 河内静魚
冬あたたか犬には犬の友のゐて 高木宇大
校庭の柵にぬけみち冬あたたか 上田五千石
冬あたたか掃溜菊が花のこす 島谷征良
冬あたたか嬰が母の手を食べんとす 池田澄子
なぐさめてくるゝあたたかなりし冬 稲畑汀子
冬暖か綺麗に割れて馬の尻 堀敬子
冬暖か鶏舎のたまごころげ出る 近藤静輔
猿石は祖の顔して冬あたたか 津川絵理子
手相図の線みな太し冬あたたか 同
冬ぬくし
「ぬくし」と「あたたか」の音韻の雰囲気の違いは把握するべきだろう。「ぬ」の音がいかにも熱がこもる感じである。東京よりも大阪の方面でよく「ぬくい」という語が使われるようであるようである。
■例句
冬ぬくし海をいだいて三百戸 長谷川素逝
冬ぬくしお玉杓子の居らうとは 池内たけし
冬ぬくき島に来にけり海鵜見る 星野立子
冬ぬくく富士に鳥啼く山中湖 飯田蛇笏
弓形に海受けて土佐冬ぬくし 右城暮石
茶畑の丘まろやかに冬ぬくし 道山昭爾
樽で樽押してころがし冬ぬくし 神蔵 器
冬ぬくし岩に腰かけ波を聞く 樋口千恵
牛小屋の奥まで夕日冬ぬくし 大串 章
冬暖
多く上五に置いて、場所などと組み合わせて使うと効果的。
■例句
冬暖と海辺の友に書きおくる 大野林火
冬暖や崖より海へ汽車煙 同
冬暖の四肢を憂く垂れ蔦の下 伊丹三樹
冬暖の笹とびこえて桃畑 飯田蛇笏
洗面す冬暖の空ほのかに碧し 同
冬暖や火葬場までの浜づたひ 河野静雲
冬暖を城にあそびてみな土地人 宮津昭彦
冬暖の家鴨日和となりにけり 高澤良一
暖冬
近年は気候変動などにより暖冬傾向にある。「冬あたたか」「冬ぬくし」などと違って、冬のうちずっと暖かいことを言うので注意。傍題として入っているが、かなり感触の違う季語である。
■例句
暖冬の星曇り土やわらかし 田川飛旅子
暖冬の空あをあをと高島屋 岸本尚毅
暖冬の花屋のホース水走り 椎橋清翠
暖冬や中身詰められ叺立つ 北野民夫
暖冬や砂丘をのぼる身の重さ 秋元不死男
暖冬や煙突の文字読み下す 原 裕
暖冬のいたづらに梅騙されて 高澤良一
暖冬やときにくぐもる土佐ことば 軟骨