
聞き上手の俺が逆に話し手になってしまったある時の話。
今回はあまり原稿とか同人の話ではないけど、密接にはつながってる。
私の尊敬する人の話だ。
そしてその人はこの先も、自分の中で尊敬する人だ。
尊敬する人というと、大体の人は恩師とか、恩人とか、考えるだろうけど、私の尊敬する人は、とある同人誌のジャンルで出会った人だ。
その人はかつて、自分が所属しているジャンルで10年間、都内のとあるイベント会場でそのジャンルのオンリーイベントを開催してきた。
自分はそのジャンルの途中作品から入ったものなので、初期の頃からそこにいるその人と関わるにはコミケで自分も当選して参加するようになってからの事なので、だいぶ後になる。
オンリーイベントを10年開催したのち、数年間コミケで同じジャンルに居たものの、その人はジャンル移動で去ってしまった。それでもたまに、コミケで会う事もあったので決して付き合いが途切れた訳ではなかったと思う。
それから大分月日は流れ、自分が洋ゲー作品とそのジャンル併用で出ていた時の頃、とあるコミケで。
売り子が急きょこれなくなり、誰か来ないかなと思ってTwitterで募集をかけたら、たまたま相互フォローしてたその人が名乗り出てくれたのだ。
驚いたが、とても嬉しかった。けど自分はその時出した本はジャンルの方ではなく洋ゲー方面の本で、嬉しいがちょっと申し訳ない気もしていた。なぜなら自分はそれから数年後ジャンル移動することを決めていたからだ。
コミケ参加後、その人とアフターで大井町にあるとあるケーキショップに入った時だった。
おつかれさまでした、今日はありがとうございました、という俺に対して、
「ねえねえ、その新しい洋ゲーのジャンルってどういう作品なの?」
と、聞いてきたのだ。
自分は聞き上手だとタイトルに記載してるが、実際の所口下手と言った方がいい。人にモノをススメるのも苦手、説明も苦手、何より喋るのがあまり上手くない。
そのせいで喋るのが好きな同性(女性)の友達や知り合いは大体自分の事を自分に対して弾丸のように話てくる。大概は愚痴、職場の人間関係の愚痴、夫や旦那の愚痴、などなど。
だから、その人が聞いてきた時も最初は社交辞令だろうな、と思ってストーリーのさわりの部分を話せばいいだろう、と思っていた。
思っていたのに、気づいたら殆ど自分が喋っていた。こういうキャラクターがいて、こういう主人公で・・といった具合に。
あれ? とその時思ったのを今でもはっきり覚えている。その人は単純に話を聞いて、その話を含んだ上で質問を投げかけてくるだけだった。そういう事をされたのが自分の中ではうん十年ぶりだったし、どんどんこちらの話題を出してこようと(それも自然に)出来るその人の話術はすごかった。
話を聞いて、ちゃんと理解して、そして更に引き出そうとしてくるのだ。自分の人生でこういう人と出会った事は一度もなかった。
間違いなくその人は本当の聞き上手だ。そう確信した。
短いアフター時間だったが、その時間はとても有意義だった。
コミケでの売り上げの少なさも、その他諸々の事など、どうでもよくなったくらいに。
それから3か月のち、また再びその人とイベントの後にアフターする機会があったのだが、その時自分は少しだけ、悩んでいる事を打ちあけてみた。 悩みと言っても、あまり大した事ではないのだが……。
中の人は同人活動もしてますが、同人活動以外にとあるゲームのMOD作成もしております。
最初の頃は自分専用で楽しむものだけにとどめておこうと思っていたものでした。他の人が欲しがるMODではないだろう、と思っていたからですね。
けど、作るにつれ、もしかしたら欲しいという人がいるのではないか、という疑問と、でもアップロードするのはちょっとなぁ、という事で逡巡しており、大分悩んでた時期がありまして。
その事を、その人に打ち明けてみたんです。
その人は迷わず、自分にこう言いました。
「ほかの人が楽しめるものなら、(ネットに)上げた方がいいと思うよ。やってみたらいいんじゃないかな」
その言葉が自分の背中を押しました。
そしてその数日後──ネットにMODを公開したのが2017年3月末。
そのMOD(MacCready Voice Plus)をきっかけに、たくさんの人と出会うきっかけも作ることができました。まさかMOD界隈から飛び出て、同人活動やサークル活動にまで広がっていくことになるとは思っておらず……。
すごい嬉しかったし、作ってよかったと本当に思ってます。
今ちょうど、新しいMODのVerUP作業中ですが、MODを作っていると、いつもあの背中を押してくれた言葉を思い出します。
あの言葉がなければ、そして自分の話を本当にちゃんと聞いてくれた方だからこそ、すんなり受け入れて公開に踏み切った事。
あれから尊敬するその人以上の聞き上手は未だに現れていません(笑)
そしてそんな尊敬できる人と出会えた事も有難い事だな、と思います。
それから数年は会える機会がなく、たまにTwitterを呟く程度のその人は自分の好きなもので楽しく日々を生きているようで、何よりです。
評価だの承認欲求だの、そういうものを超越した不思議な力を持つその人は、この先も自分の尊敬する人であり続けるでしょう。
尊敬し、またその人のようになりたいものだなあ、と思いながら、自分ものんのんやっていこうと思います。