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『眼帯』
嫁さんのお父さんは高校の美術の教師だった。だから幼い頃から美術館にはよく連れていってもらったそうだ。
「一回、変な人を見掛けたのよ」小学校低学年だった嫁さんとお父さんの2人で行った地元の公立美術館。
全然混んでなくて。ガラーンとした館内のエスカレーターに乗ってた時なんだけど。あ、こっちは上りね。
下ってきたのが高そうなスーツを着た男の人。背が高くて、髪がツンツンしてて。それと、眼帯してたのよ。
何それ、普通じゃんと私が言うと、
「それが両目にしてたのよ、眼帯」
その男はすれ違う時、嫁さんとお父さんに軽く会釈したという。
お父さんはね「芸術家には変わった人が多いからね」と笑っていたけど、ワタシ怖くって怖くって。
なるほど、道理で結婚してからも「美術館行こう」って言わないもんな、トラウマなんだと私が言うと、
「それはアンタが芸術オンチだからでしょ」
返す言葉の見つからない私は、尿意も無いのにトイレに立った。