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意識「他界」系 その31
結婚して20年の女房に何の文句も無い。ただ、自分の性癖をストレートにぶつけるのことは「今更過ぎて」出来なかった。そんな時出会ったのがシングルマザーの長谷川良枝だった。46歳の杉山敏夫からみれば、34歳の良枝は充分に若く、大人しい伴侶とは正反対に性に対して貪欲だった。
「今度さぁ、軽いSMプレイやってみない?」行きつけのスナックで知り合って男女の仲になって1か月。普通のプレイでは物足りなくなっていたのは杉山も同じで、良枝の提案に反対する理由はなかった。最初は目隠しをする程度だったが元々凝り性の杉山は、あっという間に愛人とのSMプレイにのめり込んでいった。
「今日はちょっと、勉強したこと試させてくれるかい?」
「もちろんイイよ。何でもして♡」そのメールの返信を見ただけで、杉山は激しく勃起した。
それなのに。
今はこうして残業。雇い主を車に乗せて、夜の街を走っている。緊急事態で人手が足りないのは分かる。でも今日じゃなくてもいいだろう、よりによって。
予定通り17時に上がっていれば、今頃は食事を終えてホテルに入り、一戦終えてベッドの中だっただろう。助手席に置いてあるバッグの中には、通販で買ったセーラー服と緊縛用麻縄が出番を待っているが、今夜は無さそうだった。
「And since arrived , turn off the phone(着いたから、切るぞ)」後部座席の雇い主、松尾羽が流暢な英語でそう言い放った時、カーナビが「目的地に到着しました」と電子音で告げた。
べこん
同時に黒塗りのBMWの屋根に大きな衝撃音がした。
杉山が慌てて外に出て確認すると、車の屋根の上に全裸の女がいた。手足をバタつかせ大きな唸り声を上げている。そのまま転がるようにアスファルトの上に落ちた。ゆっくりと立ち上がると杉山を見つけて「だいでぇぇぇ!」と両腕を伸ばして近付いてきた。
後部座席のドアが勢いよく開いた。そのドアに吹き飛ばされた女を避けようとした杉山は、反射的に膝を上げて身体を庇った。その膝が女の顔面に直撃した。女はM字開脚した状態で倒れたまま動かなくなった。
「何でもいいから服を着せて、縛っておいてくれ」
ジュラルミンケースを持った松尾羽は、そう言い残して杉山に背を向けた。