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意識「他界」系 その30
最初から違和感だらけの部屋だった。脱ぎ散らかした衣類やゴミの散乱する廊下。それを抜けて通されたリビングも足の踏み場がないほど散らかっていた。唯一片付いていた茶色いソファベッドの上には、ピンク色のバイブレーターが無造作に置いてあった。それを見られても部屋の住人、細貝法子は気にしていない様子だった。
「どうぞ、ベランダ使ってください」女にそう言われ、窓の下に干してある洗濯物を暖簾のように手で避け、左文字は外に出た。ベランダ伝いに隣の部屋に入るために靴を脱いでいる。残された大木は、生臭い臭いに顔を顰めながら「ご協力感謝します」と愛想笑いを浮かべるしかなかった。2人きりになると女はニヤニヤと笑い出した。着ていたダウンジャケットを脱ぎ出す。
「あ、着替えますか? 外出てますよ」大木のその言葉を喰い気味に「いいんです、そのまま!」と女が打ち消す。相変わらず気味の悪い笑みを浮かべ大木を凝視しながらどんどんと服を脱ぐ。下着姿になった。ブラジャーを外すと張りの無い洗濯板のような胸が露わになった。続けて下も脱ぐ。臍近くまで生えた手入れのしていない陰毛が生繁っていた。それを見て大木は喉の奥から酸っぱいものが上がってくるのを感じた。
「服、着てください!」何なんだ、この女は。頭がおかしいのか? 俺を誘っているのか? これは公然わいせつ罪に当たるのか? いや個人の住居内だから違うだろう。
「お願い、だいでぇぇぇ!」女が突然大木に抱き着いてきた。そのままソファベッドに押し倒された形になったが、反射的に手で払いのけた。女とともにベッドから落ちたバイブレーターに偶然スイッチが入ったようで、床の上でウィンウィンと音を立て始めた。
「奥さん、落ち着いて!」大木の制止も空しく、女は自分の性器を左手で弄りながら「いいから、だいでぇぇ」と近付いてくる。大木は後ずさり、後頭部にピンチハンガーが当たるのを感じて立ち止まった。そこに女が勢いよく抱き着いてきた。ベランダとの段差で後ろに倒れかかった大木は、プロレスで言うフロント・スープレックスの要領で女を後ろに放り投げてしまった。
ゴーンという音がして後頭部に衝撃が走った。
大木が細めた目で見上げると、毛玉だらけの靴下が4足干されたピンチが揺れているのが見えた。