【好き語り】大手少年漫画で本格歴史絵巻! 「逃げ上手の若君」
ダンジョン飯、スパイファミリーときて次に「今推したい」作品は。来年アニメ化が大決定している逃げ上手の若君だ!!
作者はネウロ、暗殺教室と立て続けにヒット作を生み出した松井優征先生。もうこの時点でファンとしては「面白い」ことが決定してるわけだけど、この方を知らない人にはピンと来ないだろう。
よろしいならばプレゼンだ!
私の中で松井先生は天才なので、ぜひ知って頂きたい!!!
まずはPVを両方見よう!
ああ〜〜わくわくしちゃうな! 重厚な世界観を押し出すアニメ化決定ティザーもいい、ライトに主人公時行の魅力を見せてくれるキャラクター紹介もいい! 両方見て、その上で! 私のプレゼンを読んでくれ!
あらすじ、世界観
時は14世紀、1333年日本。当時の日本を治める鎌倉幕府のトップ、北条家の跡取りとして生まれた北条時行は、武士の子でありながら誇りや武芸より楽しいこと、逃げ出すことを好み、あらゆる困難から“逃げる”毎日を送っていた。
しかしある日、北条氏直属の部下である足利高氏の謀反により鎌倉幕府が滅亡する。親族郎党皆命を落とす中、時行は謎の男に保護され、故郷鎌倉を後にする。
「貴方は2年後に天を揺るがす英雄となる」。
謎の男は信濃の神官諏訪頼重と名乗り、時行にこう予言した。若干8歳の時行は疑心暗鬼ながらも、頼重に紹介された巫女雫、便女(作中の説明曰くメイド)亜也子、武士の少年弧次郎と“郎党関係”を結び、打倒足利尊氏(改名した)を目指して策を練る。
簡単に言うと、「跡取りの王子として王を約束されてた少年が国を失い、『元家来』にして『国と親族の仇である男』を倒すために立ち上がる、ある意味復讐劇」。なのだけど、そこは松井先生の手腕で悲壮感がほぼない。
どころか、松井先生が初期から持つグロテスクなギャグセンスが満載で、いっそギャグ漫画と呼んでもいいくらい。基本、明るい。そこは天下のジャンプで人気作を多数生み出した先生ならではのテクだなぁと思う。
というか逃げ若の面白さを語るには、最初の連載ネウロの話からした方がいいと思う。
初連載のネウロ、次作の暗殺教室、そして逃げ若に繋がる松井先生の天才的手腕
2005年、2月。松井優征先生初の連載作品、「魔人探偵脳噛ネウロ」が始まる。「“探偵”とタイトルにつくんだから、それなりに謎とミステリが展開されるんだろう」と期待する読者。だけど予想に反し、この作品は事件が起きても(読者的には)ほぼ推理せず、「魔界777ツ道具」と名付けられたチートアイテムで速攻犯人を見つけてしまう。
探偵? 推理? そんなのくそ食らえ。と言わんばかりのとんでもない探偵モノがこの世に生まれてしまったのだ。
けれど、そこを除けばネウロは非常に良作だった。異常にサディスティックな主人公ネウロの言動、完全に常軌を逸した犯人たちのやばい言動、さらに当時話題になった事件のブラックな風刺具合が突き抜けて面白く、たちまちネウロは話題になった。
強いて言えば絵は比較的下手だった。なので、松井先生の作品は絵を楽しむ漫画ではない。ただし、回を追う事に緻密な感情描写が胸を打ち、意外にも王道かつ感動的なストーリーが展開され、ネウロは「トリッキーなだけ」の漫画ではなくなっていった。
その後ラストは主人公ネウロとヒロイン弥子が手を取り合い、命を賭して世界を救う……という展開になっており、The少年漫画! という結末を迎えている。まだ見てない諸兄はぜひ読んで欲しい。ていうか今度語る。ネウロは超良作。すげぇからマジで。
ただし、それは一部の漫画好きの評価に過ぎない。ネウロはアニメ化こそしたものの、あまりに過激なブラックユーモアやら突き抜け過ぎた敵役の設定により、万人受けする作品ではなかった。私はめっちゃ好きだけど。結果、世間全体に大きく爪痕を残したとは言い難い評価のまま完結。さほど掘り起こされることなく今に至る。
しかしネウロ完結から3年後の2012年。松井先生は暗殺教室という新連載を開始する。舞台は中学校、生徒は1クラス全員暗殺者を目指し、1人の教師を“殺す”ために日々研鑽する。なかなかかっ飛んだ設定の物語である。
待ちに待った松井先生の新連載。また先生の漫画が読める。嬉しい、はず。でも私は正直不満だった。絵がかなりこなれて上達したのは嬉しいけど、松井先生の十八番である極悪顔芸は減ってしまった。そもそも、先生にしては設定にせよブラック具合にせよマイルドすぎる。そこで私はピンときた。
ははぁなるほど、前回「やりたいようにやった上で描きたいこと全部描かせてもらった」(意訳/本人談)から、今回はもっとマイルドに世間ウケしそうな要素で連載することにしたのか。
なるほどね。集英社へのお礼か、さらなる高みに登るための策かわからないけど。先生は路線変更したんだ。これもまたプロの征く道。ファンは大人しく応援に徹するのみ……。
結果、私は見てないが暗殺教室はアニメ化、実写映画化、ゲーム化と幅広いメディア展開がなされ、つまり大当たりした。のだろう。もちろん暗殺教室は全巻買った。面白かった。普段趣味が合わない旦那も全巻通して読んでくれ、つまりかなりの人に「面白い」と言わせることに成功したのだろう。
でも私は不満だった。路線変更しようが何しようが、ファンでいると決めたからには文句なんて口が裂けても言えないけど。でも。
松井先生の「本当にやりたいこと」はかっ飛んでブラックで万人受けしなさそうな不条理コメディ✕王道ストーリーだろう。暗殺教室は前者が弱い。ああもどかしい。松井先生は本当に漫画が上手いのに、職業漫画家である故に世間ウケを気にしなくてはならない。ファンはちゃんとわかってるのに!!
なんて、強火ファンな感情を拗らせていた辺りで、「逃げ上手の若君」の連載が始まった。私は元々歴史もの好きなので、松井先生が歴史ものに手をつけてくれるとは! とそれだけでウキウキわくわく手に取った。そして読んで思った。
これだよコレええええええ!!!!
松井先生!! 貴方の魅力はやっぱこっちだよ!!!!
歴史もの✕少年漫画✕独自センスのコメディ
まず、逃げ若の舞台は歴史モノとしてはあまり世間に馴染みのない時代だ。私ですらウィキペディアを引いてしまった。南北朝時代ってなんだっけ? あ、鎌倉時代。そうなの。…………地味だな。世間の人、ほとんどここのこと覚えてないだろ。
でもそれをお話として眺めてみると、主人公時行のおかれた状況は非常に“少年漫画っぽい”。極悪な敵が1人いて、裏切られて、父も兄弟も大事な部下たちもみんな死んでしまった。
そりゃあ彼にも事情やら野心やらあるんだろう。それでも許せない。取り返したい。僕が受け継ぐはずだった民も国も土地も全て、返してもらおう。
なんかこれだけで往年の名作RPGの数々やらなろう系の物語やらが頭を巡って胸が熱くなってしまう。そうだ、やれ、「敵」を倒し「希望」を取り戻せ!
そこで仲間として現れるのが、同年代の少年少女。控えめな性格でありながら時に毒っ気ある態度が可愛い雫、強く頼りになるお姉さん亜也子、いかにも仲間! 強い! 這い上がれ! な弧次郎。
さらにスケベだけどトリッキーなひっかけが得意な忍者玄蕃、二刀流の凄腕剣士にして軍師としても有能な吹雪など、個性的で賑やかなメンバーが時行を盛り立てる。
連載最新部の時行は10歳ということで、親しい仲間もどれかというと本当に「子供」なのだけど。それがまた少年漫画っぽくて良い。なにせ、郎党と呼ばれる仲間たちはともかく、北条時行は実在の人物。実際に10歳の少年が世間を揺るがす事件を起こしていると言うのだから、本当に浪漫の固まりだ。
一方、時行たちの前に立ち塞がる大人たち、敵はというと、
キター! 帰ってきたー!!
松井節炸裂の奇人変人変態のオンパレードだぁ!!
もう、それがわかっただけで私はバンザイしてしまった。す、すき……松井先生の描くかっ飛んだ変な人たち……また見たかった……。
結論、みんなすごく、変だ。でもそれが逃げ若においては「歴史モノ」の堅苦しさを解く良い緩衝材になっており、少年漫画としての読みやすさにも繋がって、非常に良い塩梅だ。まさかネウロ、暗殺教室ときて松井先生の個性がこんな形で花開くとは。逃げ若は先生の良いところを全て凝縮したような超良作だと思う。長く先生の漫画を読んできた身だからこそわかる。
多分逃げ若は、先生のやりたいことを限りなく全てぶっ込める良い作品だと思う。
まぁ作画コストが異様に高いのはネックだけどね……そこは賢い先生のこと、先に資金を投じてフルCG作画環境を整えてしまったとのこと。よし最高だ、もっとやれ。そしてもっとかっ飛んだ敵、熱くなる最高のストーリーを見せてくれ。あの人ならやってくれる。ああ楽しみだ。
アニメ化でさらに飛躍出来るか? 今後の展開が非常に楽しみ。
そんなこんなで、逃げ若は松井優征という一人の漫画家の試行錯誤が結実した、最高の漫画になると思う。
個人的にはネウロが未だに大好きなので、今の作画力でもっかい描いてほしい……気もするけど……まぁ、あの荒削りさであんだけ面白かったのがネウロの良さだから、今更画力オンリーの焼き増しなんて野暮なお願いは脇に置いとくか。
それはさておき、逃げ若。来年アニメ放送! 今度こそ王道少年漫画の系譜を引き継ぐ、次の世代のかっ飛んだエンタメとしてもっともっと評価されてほしい。だってね、うん、いやぁ変な敵ばっか出てくるから。にこにこしながらみんなに見て欲しい。そしてその裏にある、彼らの意外にしっかりした信念を見て欲しい。
こいつ絶対頭おかしいだろ!! からの、ああうん……それは……そうなるか、ごめんな……への、メンタル急降下がめっちゃ面白いので、ぜひ皆さんにも体感して欲しい。良い奴らなんだよ…………。
逃げ若、今充分面白いジャンプ作品なのでさすがに全話無料で読むのは難しいか……。でも一応ジャンプラなら途中まで無料で読めるので。読もう。ハマって。ていうか、ホントゲンバと吹雪加わってからがめっちゃ面白いから。ぐんぐん面白くなってくから。無料のとこだけで判断してもらわないといけないのが悔しい!
歴史モノ読めて少年漫画好きなら!
「全てを失った王子が全てを取り戻す物語」
なんてアオリでワクワクしちゃう人は!
ぜひ読んでくれ……!!!!!
この記事が参加している募集
私の夢は本を出版して、その本を本屋に並べてもらうことです。本好きとして一度でいいからこの光景を見てみたい! 応援するね!という方、あなたの作品推します!という方、よろしければサポートしていただきたく思います……!