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【創作】ラーメン味戦争3

……お前さん、見かけん顔だね。

その服装……都の連中とも違うようだが……お前さんどこから来た?……まあいい、ここはそういう訳ありの奴らの集まりだ。儂に問い質す権利はないよ。その様子だと、ここいらの事を知らんのだろう?
ちょうどいい時間だ。茶でも飲んでけ。


アンタ、歳はいくつだい。……へえ、随分と若いな。
……ちょうどお前さんぐらいの歳だったな。世界がこうなっちまったのは。

お前さん、歴史はわかるかね。今じゃ何処行ったって教えてはくれなくなっちまったが……。
やっぱり知らんか。いい機会だ。少し聞いていくといい。


まずは……そうだな。そもそも、なんでこんな世の中になっちまったか、だな。

都の連中……イエケイ連邦政府が樹立されたのが今から58年前。ちょうど今の時期、冬になる前ぐらいの事だった。
連中は、突然現れて都を占拠すると、今みたいにぐるっと城壁を作っちまったのさ。
今の子供、いや、アンタらぐらいの世代でも、あの壁は世界ができた時からあるように考えてる奴らがいるがな、元々はなかったんだよ。あんなものなんてな。


なに?なんでみんな抵抗しなかったのかって?
簡単だ。“みせしめ”がいたのさ。

背脂爆弾、通称「ベンケイ砲」でな、街がひとつ吹き飛んじまったのさ。それからだよ。こんなことになっちまったのは。


「完全栄養食である、イエケイを国民食とする」なんて、当時のイエケイ連邦首相が声高々に宣言して以来、儂らの食事は知っての通りさ。
味の濃い豚骨醤油スープに、太めのストレート麺。チャーシュー、ほうれん草、ネギをトッピングした、この丼だ。毎日配給に並んではこれを食べさせられて、いつの間にか舌は味を忘れちまった。


まだ、最初の頃は良かった。煮干し系やインスパイア系の過激派なんかが政府を相手に大立ち回りを演じてな。中でもシオ・ラーメン解放戦線とかいう連中は凄かった。連中はな、誤魔化しの効かない塩ラーメンを武器に盛大にやりやったのさ。
濁りのない透明なスープにちぢれ麺が絡んで、麺をすする度に出汁の香りが鼻を突き抜けていった!チャーシューだって凄かった。余計な脂の一切を取り除いたそれは、豚ということを忘れさせるような淡白な、それでいて力強い味わいだった。

……後に味戦争と呼ばれたその戦いは一瞬で終わってしまった。新型の背脂爆弾によって彼らはなぎ払われた。
はじめはどうにかその勢いを盛り返そうと儂らのような市民も立ち上がろうとした。
……だがな、人々は抗えなかったんだよ。毎日配給されるイエケイはな、人々の心を掴んで離さなかった……。どうしたって舌は、イエケイの味を求めて仕方がなかったんだ……!

ああ……あああ!……ああああああああッ!!
儂らはなんて無力だったんだ……。あの頃の日々はもう戻らん……!儂らはお前さん達に顔向けできない……!!


……すまないね。儂から呼び止めておいて、見苦しいところを見せてしまった。
……ところで、もしお前さん。
アンタが、この世界を良しとしないなら。

もしもその覚悟があるなら。

……明日の夜、東34番地に行くといい。


彼らはシオ・ラーメン解放戦線。

儂らの最後の希望だ。



―城外中下層番外地にて



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