眠れる森
3月のnoteに娘の話を書いたのだけど、彼女はいまも休職中。
最初の頃こそ、何も手につかずベットに潜ってばかりいたけれど、2ヶ月の間に少しづつ気力が戻ってきて普通に過ごせる日が増えた。そして、本を読んだり好きなアニメやドラマを見ることが出来るまでに回復した。
ドラマといえば、最近わたしたち母娘に中国ドラマブーム(というか『陳情令』ブーム)がやってきた。世の中では、とっくの昔に話題になっていたドラマだったようだけれど、母娘そろって何事も奥手、というかブームを疑う気取った体質なので、どんなトレンドも遠洋漁業に出かけた夫なみに1年以上かけて到来する。
そんなわけで、毎日のように2人して、そのドラマを4〜5話くらいづつ見ていた。ちなみに1話45分くらいで全50話あるのだけど、10日くらいで見終わってしまった。どれだけ暇なのか。
さてこの『陳情令』ですが、さすが話題になっただけあって、とっても面白かった。内容はダークファンタジーなので、いきなり宙を舞いながら移動する人たちや、わけわからん術やら楽器やらで戦う人々に最初こそ面食らってしまったものの、気づけば足元には沼ができていてズッポリと首まで浸かっていた。
なにしろ、画面が美しすぎた。主だった役柄の人たちは、美くしくないと出演できない決まりでもあるらしく、ため息が出るほどの美男美女。さすが大陸は規模が大きいので、美形が畑で取れるらしい。すごいなー。うっとりと画面に見入っていると、漢字が多くて耳慣れない言葉の多い字幕が追い切れず、一瞬で話から置いて行かれてしまうので、あっちみたりこっち見たり、忙しいったらない。
誤解されると困るので言っておきますが、イケメンに魂を吸われただけではもちろんなく、ストーリーがね。もうヤヴァイ。「闇堕ちするヒーロー」とか、原作者の方あなた私の性癖をよくご存じですねありがとうご馳走様ですといった内容で、この闇堕ちくんは、起こってしまった悲劇の責任を全て背負い込み、愛する人たちのために散っていく。深い友情と、それを超えた愛のようなもの、が美しく表現されていて、「関係性フェチ」のわたしの心は完全に持っていかれた。
しかも謎があちこちに散りばめられ、わかりやすくエモいシーンが連発され、最後の最後まで面白いでしかなかった。こんな説明じゃまったくわからん!とは思うので、気になったら見てください。アマゾンプライムにありますので。
そして最終話のエンディングまで見届けた日。娘とわたしの心には、ポッカリと大きな穴が空いてしまった。ああ、これがかの有名なロスですねと母娘ふたりしてその病いの恐ろしさを実感し、それで何をしたのかといえば、また1話目の再生ボタンをポチッとして2周目に入った。
ついには娘が、母さん吹き替え版あるってよ的な情報を仕入れてきて、しかも推しの声優さんが声当ててるってよなどという素敵な追加情報まで耳うちしてきたもので、独占放送権を持つWOWOWを光の速さで契約し、吹き替え版も見始めた。吹き替え翻訳が素晴らしくわかりやすいので、謎だった部分が解明したりして喜んでいる。
ここまで2週間ほどの出来事なのだけれども。
あまりにも濃密に一つのことに集中してしまったため、突然娘の体に副作用が出てしまった。
先日の朝、唐突に「何かしようとすると気持ちが悪くなる。テレビも見れないし音楽も聴けない。」と蒼白な顔をして娘が言った。
聞けば、最近調子がとても良くなってきていたので、嬉しくなってしまい、ドラマにハマる他にも本やらゲームやらTwitterやら、好きなものの情報を浴びるように摂取していたらしい。
ああ、それは。
一気に脳の容量を使い切ってサーバーがダウンしてしまったのだわ、と思った。何事も用法容量を守らないと体に悪影響が出てしまう、ということを改めて理解した。
それからというもの、眠ってばかりいるようになった。
夜もちゃんと眠っているらしいのだけど、昼間もしばしば眠気に襲われてベットに潜る。
しばらく出てこないなー、と思って部屋に様子を見に行くと、いまだ捨てずにいる子供の頃からのお気に入りのタオルを丸めて抱え、布団に埋もれるようにして眠っていた。その白い小さな横顔のほっぺたのあたりを見ていたら、娘の小さい頃と重なった。
あまりあの頃と変わってないように思えるのにな。もうアラサーだけど、わたしの中では変わらず可愛い娘のままだ。
むかし無邪気な寝顔でおひるねをしていた小さな娘が、今もあまり変わらない横顔で眠っているように見えるのに、やっぱり心には色々抱えていて、当たり前だけどあの頃と一緒ではないんだなとしみじみしてしまった母なのでした。