暗い気持ちに押しつぶされないように
私の胸の内にあるどうしようもない感情を吐き出すためだけに書きます。
この1年間で、今までの自分とは違う自分になってしまったような気がする。時々、2つになって自分を俯瞰しているような気持ちになる。
悲しい気持ちを奥底に封じこめて、勉強したり、ご飯を食べたり、好きな本を読んだり、誰かと会って話したりする。
何でもない顔をして笑って、普通に生活する自分がいることを離れたところから意識している。
でも時々――大抵は夜、どうしようもなくなる時があって、誰かに話したい、打ち明けたいと思いながらも、相手の負担になることを考えて、結局自分の中に押しこめて一人で泣きながら眠る。
ずっとそうしてきたけれど、中に閉じ込めたままではいつか自分がそれに飲みこまれてしまいそうで、だからせめてここできちんと言葉に出しておきたいと思う。
去年の夏、兄が亡くなった。
あまりにも突然のことで、私はまだそれを現実としてきちんと受け止め切れていない。
その頃、私は就活真っ只中だった。ひとまず内定を1つもらってはいたものの、第一志望だった職種にことごとく落とされ、この後就活を続けようかどうか迷っているような時期だった。自分の将来をどう選択すればいいのかわからなかった。
選考に落ちたことを電話で母に報告すると、気持ちの糸が切れてしまったのか泣いてしまった。そうしたら電話の向こうの母も少し泣いているような気配だった。実際本当に母が涙していたのかはわからない。だが私は泣きながら「母まで泣くことないのに……」と思っていた。しかし、その時すでに兄は入院していた。娘に本当のことを言えず、母も苦しんでいたのだと思う。
兄が入院したのをわたしが知ったのは、それから数日経ってからだった。電話で告げられ、しかし理由を聞いても「帰ってきたら話す」としか言ってくれなかった。言いようのない不安や恐怖を抱えながら荷物をまとめ、翌日、病院へ向かった。
病院の待合室で父から話をされた。入院の理由は自分が想像もしていないことで、あまりにも現実感がなくて、何がなんだかわからなかった。
兄がいたのは集中治療室だった。ベッドの上でチューブに繋がれた痛々しい姿は見るのも辛かった。知らない人みたいで、見るのが怖かった。
それから一度も言葉を交わすこともなく、2週間も経たないうちに兄は旅立った。
「どうして」「なんで」をずっと繰り返している。
なんでその選択をしたんだろう。もっとできることがあったんじゃないか。
もしあの時ああしていれば変わったんじゃないかって。
自分を責めないでね。両親をよろしくね。帰ってこれるなら安心だね。あなたが背負わなくていいんだよ。あなたの人生だから自分で決めればいいんだよ。
誰に言われたかも覚えていないけれど、そういった言葉に埋もれて溺れてしまいそうだった。みんな、わたしのことを考えて言ってくれているのはわかっている。
同情も共感も慰めもいらない。
そっとしておいてほしい。
でも、わかってほしい。
私は兄と年がかなり離れている。兄は10年以上前に家を出ていたから、一緒に暮らしていた時期は短かった。お互いシャイだから、帰ってきてもあまり話さなかった。でも、兄はいつだって優しかった。
なのにどうして、あんなに優しい人を私はちゃんと大切にできなかったんだろう。
社会人になったらきっと相談したいことがいっぱい出てくるのに。これから一緒に親孝行したり、家の手伝いをしたかった。私だって、叔母さんになってみたかったよ。
たらればを繰り返してもしょうがないことはわかっている。それでも、そう思わずにはいられない。
ずっと気持ちを消化できずにいる。今でも。
まだ、家に帰ってきていないだけな気がして。
就活は結局終わりにしてしまった。このまま続けられるとも思えなかったし、実家から通えるならいいかなと思った。両親が安心するという以上に、自分が一人でいたらいつか壊れてしまいそうだった。
それからしばらくは何もできなかった。あんなに大好きな本もアニメも見たいと思えなかったし、食べたいものも、行きたい場所も、やりたいことも何もなかった。1、2ヶ月くらいの記憶はぼんやりしている。
夏休み後半になって、ようやく卒論に取りかかりはじめた。バイトも始める気にはならなくて、そうしたらあとは卒論くらいしかやることがなかったから。卒論に取り組んで、いろんな気持ちに蓋をして、そうやって平常心を保っていた。
気持ちを抑えるのは上手くなったけど、それを吐き出すことは難しいままだった。
悲しむのはきついから、段々思い出さないようになっていた。意識的に思い出さないようにしていた。普通にゼミに出て、買い物して、ご飯を食べて、掃除をして、好きなことを少しずつできるようになった。
私は感情を出すのが苦手だ。だからいくらでも平気なフリができる。大学の人には言わなかったから、特に何も変わっていないように見られていたと思う。
今はちゃんと普通に生活できている。友達とも遊べるし、冗談も言えるし、面白いことがあったら思い切り笑える。だからたぶん大丈夫なんだと思う。大丈夫だと、自分に言い聞かせている。
でも、時々生きるのが辛い。私だけは絶対に親より先には死ねないと、その気持ちを持って生きているだけなのかもしれないと思うと、怖い。
きっと、自分の中で折り合いをつけていかなければならないんだろう。誰かと比べても、たぶん意味はないから。
兄の死によって、自分の確たるものが崩れてしまった。だから私は、たぶんしんどくて辛くて一人で泣いてしまう。きっと、立ち上がろうとしている最中なんだと思う。
今はまだ手探りの状態だけど、少しずつ前を向いていけるようにしたい。
今は自分の好きなことを、やりたいことをやってみようと思う。
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