限界腐女子による小説の書き方講座
自カプのPixiv検索件数がサイドンのR18より少ない全ての腐女子に捧ぐ。
はじめに
自カプが少ない!自カプがマイナー!
そう嘆いているそこのお前、お前は自カプを増やしているだろうか。
増やしているならこの記事は必要ない。お前が増やした自カプに救われる同カプの人間はきっといる。救われるのが、ひょっとしたら10年後とかになるかもしれないだけだ。
増やしていない腐女子、お前はいったい何をしているんだ?
宗教上の理由で創作活動はできないとか、毎日分単位でスケジュールが詰まっていて推しカプ検索するのがやっとだとか、なんかもうやむにやまれぬ事情があるとかではないのだろう?
自カプの小説を書くことで自身の現実生活が破綻するわけではないのなら、今すぐ自カプを生産するべきだ。
それでも無理だ?
小説なんて書いたことがない?
小説を書いたことがないから小説が書けないのではない、小説を書かないから小説がいつまで経っても書き上がらないのだ。
小説を書け。話はそれからだ。
そのための方法論をここに記してやる。
そんなものがなくても小説は書けるのなら、つべこべ言わずにさっさと書け。
書けないのなら、まずはこの記事を最後まで読め。
お前に日本語読解力が備わっているのなら、そこそこのものは書けるようになるだろうよ。
まずは妄想しろ
お前にとって自カプとはなんだ?
趣味? 性癖? 生きがい? 人生? 哲学? 文学?
なんでもいい。自カプにさせたいことをすべて列挙しろ。
桜にさらわれひまわり畑で迷子になり燃える紅葉の間に消え吹雪の日にでかけたきり帰らない、お前が好きなシチュエーションをとにかく挙げ連ねろ。
できない? ならば最終手段だ。
〇〇をしないと出られない部屋
この概念がここまで市民権を得ていることに、いちオタクとしてオレは深い感慨を覚えている。
それはともかく、まずは自カプをふたりきりにさせろ。
物語を進行するのに主役はふたりいれば十分だ。
お前は自カプの小説を書き、ひいては自カプの生産に貢献したいのであって、登場人物数が数百人をこす歴史大長編を書きたいわけではないだろう。
割り切りは大事だ。
まっしろい部屋に突っ込まれた自カプのふたりがどういう反応をして、どういう会話を交わすのか、さあここからが楽しい時間だ。
存分に妄想しろ。
そして自分の妄想に萌えるがいい。
おっと、萌えるだけ萌えて手が動いていないなんてもったいないことはしてくれるなよ。
お前の頭の中を最も正確に記述できるのはお前だけなのだから。
次に会話させろ
自カプについて存分に妄想、もとい考察はできたか?
自カプが「〇〇しないと出られない部屋」に閉じ込められたらどうなるか、結論は出たか?
出た者も、出なかった者も、ひとまず頭に浮かんだ受けと攻めの会話を書き留めるところから始めろ。
A「セリフ」
B「セリフ」
A「セリフ」
なんてお行儀のいい進め方はしなくていい。
A「せりふせりふせりふせりふ!!!!!!」
B「せりふ?」
B「せりふせりふせりふ?」
A「せりふ!!!」
順番なんてメチャクチャでいいし、ふたりのセリフ量を同じ程度にする必要もない。喋らないキャラを無理に喋らせる必要はない。それでもお前の自カプの間には親愛が、あるいは憎悪が、確かにあるのだろう?
とはいえ、おおよその目安を示すとすれば、ひとつのセリフは長くても200字程度としておくといい。
それを超える長台詞には、合いの手が有効だ。
「西方のトランシルヴァニアではまた吸血鬼が出たという噂です。教会に悪魔祓いを依頼しているのですが、どうも動きが悪い。……あそこには奇っ怪な科学者もいる。名前は――そう、確か」
「フランケンシュタイン?」 <<<ここ!
「…ご存知なのですか?」
「同学のよしみでね。直接の面識はない…学生時代はずいぶん優秀だと噂だったが――いまや奇人、変人の類。聞いた話では夜な夜な墓場を荒らして遺体を掘り返しているとか」
「ええ、ええ。そのとおりです!」 <<<ここ!
「吸血鬼に胡散臭い悪魔祓い、墓荒らしの科学者に――ヴァンパイアハンター?」
「ああ、まったく、この村は呪われている!」 <<<ここ!!
クソ適当な例文ですまんな!
会話とはセリフとセリフを並べただけのものではない。
複数人でひとつのセリフを形成させるという方法も、もちろんありだ。
むしろこの方が会話自体のテンポが上がる。こういった軽口の応酬はオタクも好むところだ。覚えておくといい。
お前がまったく初めて小説というものを書こうとしているのなら、まずは登場人物ふたりのセリフを、50個作ることを目標にするといいだろう。
ひょっとしたら延々と会話が続いて50個を超えてしまうこともあるかもしれないが、なんとか終わらせるのだ。
いい感じのセリフを言わせてオチがついた風を装ってもいいし、未来の自分に丸投げしてもいい。とりあえず今のお前の仕事は会話の応酬を終わらせることだ。
これでおしまい! と物語に終止符を打ってやるのだ。それが小説家への第一歩となる。
そして動作を書き込め
会話文ができた。
これでそれぞれのセリフの前にキャラ名を入れれば、台本SSとしては充分に人前に出せるものになった。
それで満足したのなら、さっさとできあがったSSをpixivに投稿しろ。
お前が投稿することによって、この世に自カプがひとつ増える。こんな喜ばしいことがあるか? いや、ない。
しかしただの会話文では満足できないお前、お前はこの続きを読むがいい。
台本SSを小説の形にするためには作法がある。
ディナーの前に神に祈りを捧げるのと同じだ。何も難しいことではない。
まずは身構えずに読むことだ。
会話文を書いていく中で、お前はこんな事を考えたのではないか。
「この会話の間に、自カプにこんな動作をさせたいな」
動作に当てはまるものは何でもいい。抱き合うでも、キスをするでも、手を繋ぐでも、あるいは殴り合うでも。
会話の応酬だけでは表現しきれない、動作による表現に、お前も薄々感づいているはずだ。
気づいたのなら話は早い。会話文の間に、ふたりが何をしているのか動作を書き込め。
なんでもいい。
座る、立ち上がる、腕を組む、頬杖をつく、頭を振る、歩み寄る、突き放す。
手足の動作だけではない。
口を開く、眉を寄せる、鼻を鳴らす、頬をふくらませる、耳をそばだてる、目を光らせる。
注意するべきは、登場人物の心情を直接的には描かないことだ。
Aは悲しい顔をした。
こういう書き方は、他に何の表現も思いつかなかったときの最後の手段だ。
ではどうするか?
お前は悲しいとき、どんな表情を、あるいは行動を取る?
涙を浮かべる。顔を伏せる。肩を落とす。うずくまる。
どんな表現でもいい。ただ、悲しいという感情を表現するのに「悲しい」という言葉は使ってはならない。
悲しいかどうかは、読者が決めるのだ。
読者に想像させるのだ。
どうしても思いつかないのなら、文明の利器を頼れ。お前の目の前にある箱、あるいは板は一体何のためにあるのだ?
さて、これでひとまず小説の形にはなったことだろう。
さっさとPixivなりなんなりに投稿するといい。
しかし、今のままでは少々味気ないとお前が感じているのなら…お前には見込みがある。
ここから先の発展編へ進むがいい。
たまには引きのカットも入れろ
映画、ドラマ、漫画、なんでもいい、ビジュアルに訴えかける媒体を思い出せ。
小説を読んだことはなくとも、それらを見たことはあるはずだ。
それらは決して、人物の顔だけを始終大写しにしていたわけではないだろう。
時には風景だけのカットを入れて登場人物たちがどこにいるのか示し、時には人物を俯瞰で写してそれぞれの位置関係を描写する。
そうだ、すべてのシーンには目的があるのだ。
時系列を示す、場所を示す、登場人物の心情を示す、ときにはセクシーなカットで観る者の目を楽しませる。
すべてのシーンには目的がある。
つまり、これからお前が書くすべての文章にはお前の目的が込められていなければならない。
お前がその一文で読者に何を伝えたいのか、読者に何を感じ取ってほしいのかを込めなければならない。
文章に込めるべきは作者の気持ちではない、書き手の意図なのだ。
そして――お前の頭に脳みそが詰まっているのなら、先程オレが言ったことを覚えているはずだ。
悲しいかどうかは、読者が決めるのだ。
読者に想像させるのだ。
ここでも、表現したいものを直接的に描いてはならない。
たとえばAとBの身長差を示すシーンが必要だとしよう。
ここで馬鹿正直にふたりに背くらべさせる阿呆はまずいない。いや、身長差が物語にとって重要な要素で、この先も継続してふたりが背くらべするシーンを入れ、ゆくゆくはラストシーンの伏線となるならまだいい。そこまでするなら、それはシーンの描写にとどまらず物語の構成に関わってくる問題だ。
だが今はそうではない。
古典的で手垢にまみれていることを承知で言えば、Bには届かない高いところにあるものをAがひょいと取ってみせる、というシーンは、ベタではあるが王道的少女漫画展開で、好きな人は好きな描写だ。
ここで、Aが涼しい顔して荷物を取ればAにはクール系、王子系といった属性がつくし、逆にAにもギリギリやっと届く、くらいだとAはわんこ系だったり努力家だったりといった属性が付与される。
すべてのシーンに意味はある。
すべてのシーンで、お前の自カプがいかに萌え、いかに滾るものであるかを読者の眼前に叩きつけてやるのだ。
そして魅せゴマだ
魅せゴマというと漫画用語になると思うが、小説でも同じことだ。
ここまで書いた小説の中で、お前が最も読者に見てもらいたい部分はどこだ?
どこでもいい。クライマックスで思いの通じ合ったふたりが抱き合うシーンでも、青空の下飛んでいく飛行機を見送る受けの横顔でも、攻めが受けのリコーダーを舐めるシーンでも。
風景として美しいかどうかは問題ではない。お前が描きたいと思っているかどうかが問題なのだ。
リコーダーを舐めるシーンが物語の最重要点であるなら、濃密に念入りに執拗にえげつない解像度で描写するべきだ。むしろそこを軽薄に流してしまえば、リコーダーを舐める攻めフェチの自カプ民からは嘆きの声があがることだろう。
腐女子はカプで繋がり性癖で残る生き物だ。
戦友は多いに越したことはない。戦友となる者を見定めるチャンスを、みすみす逃す必要はないのだ。
もっとも見せたい場面は決まったか?
その場面は物語の冒頭か? クライマックスか?
そのどちらかであれば、お前が書きたい冒頭とは相反する描写をクライマックスに仕込め。
お前が書きたいクライマックスとは相反する描写を冒頭に仕込むのだ。
青空の下でハイタッチするラストシーンなら、冒頭では曇天の空を書け。
咲き始めた桜を冒頭で書いたのなら、ラストシーンでは満開の桜吹雪を書け。
そしてついでにタイトル回収をしろ。これはついででいい。なんなら、終盤付近で出てきたそれらしい単語をタイトルとして据えればいい。
クライマックスでのタイトル回収、これもオタクが好むところだ。
もっとも読者に魅せたい場面は、序盤でも終盤でもないお前…お前は作劇というものをわかっている…
イメージするべきは、漫画でよくある見開きぶち抜きの大ゴマだ。
そしてその大ゴマを引き立たせるための、直前までの細かい描写が続くカットだ。
人間、ことオタクは、転調というものに弱い。
それまで続いていた流れからは正反対の流れに変わると、一気に意識がそちらに向く。
もちろん、荒唐無稽で支離滅裂な転調ばかり繰り返せばいいというものではない。
オタクは文脈を大事にする生き物だ。
これまでの流れとは正反対、けれどもベクトルが違うだけで根本にあるものは同じでなければならない。
見開き大ゴマの直前、タメの部分ではあえて読者に負荷を与えろ。適度な負荷は、その後の見せ場をより輝かせる。
そう、適度な負荷だ。
読者に与える負荷は、適切な程度でなければならない。
そしてお前が想像するより十倍、いや百倍は、読者は負荷に弱い生き物だ。
それは話の面白い・つまらない、文章の読みやすい・読みにくいといった問題だけに限らない。
忘れるな。お前が書こうとしているのは自カプの小説だ。
自カプの小説を読みにきたのに、どこの馬の骨ともしれないモブ女が受けに罵詈雑言を吐いている…こんな小説を、お前なら読むだろうか。
いや、わかっている。お前にも言い分はあるだろう。
そのモブ女は、後に改心するか、己のしたことに相応しい罰を受けるのかもしれない。少なくともお前のプロットではそうなっているのだろう。
しかし読者は、お前のプロットなど知らない。この物語がどういう経緯を経てどういう結末を迎えるかなど、知りはしないのだ。
ゆえに、読者は作者が考えている百倍、いや万倍は物語中の挫折描写に弱い。
忘れるな。お前が書こうとしているのは自カプの小説だ。
何はなくとも自カプをイチャイチャさせろ。存分にイチャイチャさせたあとの挫折描写であれば、読者も多少は受け入れてくれる。――多少、ではあるが。
ともあれ、読者に負荷を与え、その後に開放感を与えるというギミックは、上手く働けば爽快なものだ。
働かなかった場合? 知らんのか、それを人はオナニーと呼ぶのだ。
おわりに
これで一編の小説が書き上がったことだろう。
まずは、おめでとう。
この世に自カプが増えたことに、そしてお前が小説家となったことに。
さあ、書き上がった小説をPixivに投稿するがいい。小説は他人に読まれて初めて完成するのだ。
しかし、オレは未来人なので予言しておくが、お前が初めて書いたその小説は、びっくりするぐらい読まれない。感想なんてひとつもつかないし、ランキングなんてかすりもしない。
だが、読者はゼロではない。
お前が書いた小説を、たとえどんなに拙くとも読む人間はいる。それは、自カプを愛する同好の士かもしれないし、検索でたまたまたどり着いただけの人間かもしれない。
だが、その誰かは必ず、程度の差はあれ、お前の書いた小説に心動かされたはずだ。身が打ち震えるほどの感動ではなくとも、ほんのわずかな感情の揺れだとしても。
これまで何の武器も持たずに荒野にぽつねんと立ち尽くしていたお前は、今や小説という武器を得た。数多の腐女子を、紙とペン、あるいはスマホひとつでなぎ倒しうる武器だ。
今はまだお前の書くものはなまくらも同然だ。しかしこれから先も書き続けていけば、その刃は研ぎ澄まされていく。
書き続けろ。刃を研ぎ続けろ。お前が書き続けることで、救われる腐女子は大勢いる――救われるのが、たとえ十年先だとしても。
お前が書く意味は、お前にしか書けない小説を書く意味は、必ずあるのだ。
最後に…この記事を読んで「自カプの小説書くか~!」と思う人間が、ひとりでもいれば幸いだ。
P.S. 中途半端にパルプ小説っぽい文体にしてしまって、その筋の方にはごめんなさい。