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【逆噴射プラクティス】haUnting
家に帰ると、玄関で水槽が砕け散っていた。
特有の生臭さを漂わせながら、金魚が皆潰れ、肉片が床にこびりついていた。
そして、飛び跳ね回ったであろう足跡も、そこかしこに見えた。
またか。
そう思ってしまった。
慣れは怖い――こんな事態を前に、いやに冷静な自分が居る。
5年前、実家で飼っていた猫が庭を飛び出し、目の前で車に轢き潰された。血溜りが足跡型。
3年前、兎を飼ったら突然血を吐いて死んだ。吐いた血が足跡を象った。
数か月前には、揚げ物をしている時にインコが飛び込み自殺。足跡型にカラッと揚がった。
足跡。
私はここ、という存在証明。
それが6年。同級生が不審死を遂げたあの日からずっと続いてる。
――散乱した床を片付ける為、玄関のクローゼットを開ける。箒と塵取りを手に、硝子片を掃き始める。
――生き物を飼いなさい。
6年前、同級生が狂い死んで一週間。母が連れて行った寺の住職はただ、そう言った。
同級生の死に様があんまりだったので、藁にも縋る思いだった。が、住職は打つ手なしとばかりに首を横に振り、「生き物を飼いなさい」と言うばかり。
クソ住職め、と珍しく声を荒げた母は、私の手を無理矢理引っ張り寺を後にした。
その後も何件か寺に連れ回されたが、結果は全て同じ。
程無くして、関わった住職全員と母が死んだ。唯一目にした母の死に様は、まるで何度も強く踏みつけられたように、小さい足跡の痣だらけだった。
生き物を飼いなさい。
その言葉通り、私は生き物を飼い続けている。
次は何を飼おう。一度死んだ動物は、もう飼う気になれない――
「……え?」
私は気づいた。
床の足跡――それらが徐々に、扉の閉まった奥のリビングに向かっていることに。
それに気付いた途端。
ぎぃぃ、とリビングの扉が開き始める。
靴下のまま勢いよく部屋を飛び出す。
ここは7階。逃げるならエレベーターか階段。迷いなく階段を一足飛びに!
後ろから、軽快な足音と。
ささげよ
という、しわがれた声。
つづく
※当作品は、逆噴射小説大賞に出そうと書いていた習作の1つです。本戦に出さないことにしたのは、本戦に出すものと物語の構造が被るから、単純に怖いし重いから、そして次の展開への期待感も薄いと感じたからです。本戦はもっとはっちゃけたヤツ出しますので、どうぞお楽しみに。
小話だけ載せると、タイトルは、『化けて出る』のhauntingと、『狩り』のhuntingをかけていて、『お前を』って意味を込めてU(you)を強調したものです。また、こちらのお話は、「壊しちゃいけないものを壊しちゃった」タイプの話を想定して書きました。もし続けるとしたら、この重いまま進めるのも気が滅入るので、多分金の亡者の最強霊媒師に対抗してもらって、厄介ごとに巻き込まれてもらうか、バケモノを食うバケモノを出して、更にそのバケモノに主人公を追いかけさせたりしますかね……。
それでは、10月8日にまたお会いしましょう。