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【不定期雑記 #43-4】逆噴射小説大賞2024個人的PUその3

 ドーモ、透々実生です。
 前々回、前回に引き続き、逆噴射小説大賞2024のPUピックアップ記事です。無事全作品読み終わり、ピックアップも終わりましたので、今回で完結です!
 前々回と前回はこちらから↓

 なお、何か問題あればぜひ遠慮なく仰って下さいませ。

 そして、気になる作品があったらぜひ読みに行ってみて下さい……!

ソーコー

拾ったヘルメットには、悪霊が取り憑いていた!という導入から始まる、二人二脚のロードムービー(何せ幽霊に脚はない!)。交通ルールを破ったワルな故に事故って死んだ悪霊との旅、という設定が面白いし、何やかんやでちょっと愛嬌がある(しかし逆らえば破滅させられる)悪霊の設定も良い。この悪霊の設定故に物語の全体の調子が明るくなっていて、いがみ合いながらもワイワイ旅をしたり、警察サツに追いかけられたり、何だかんだ絆を築いて、最後には良い感じに成仏するんだろうな……という予感をさせます。個人的にはこの旅の終着点が見てみたいです!
ちなみに初っ端に出てくる「環島」。私は知らなかったので調べてみると、島嶼(特に台湾)を1周することを指すようです。台湾の場合、その距離なんと900〜1000km。とんでもねえ長旅だ……!

鏡を棄てる

面白い! ホラーミステリーの導入としてかなりそそられます。
初めは飛び降りで姉・春香が死んだことに耐えられず、自殺を試みて失敗し、遂に自我が崩壊してしまった――かと思えば!という筋書。ミステリーにおいて大事な(と私が思っている)丁寧な情報の積み上げがキチンとされていて、だからこそ最後のあの描写にゾクッと来ました。しかも、800字という制限の中でそれらの情報がそつなく詰め込まれていて、何の情報を出すべきかコントロールできているのを感じます。『鏡を棄てる』という題も洒落ています。そして何より、これらを表現するだけの、明快な描写をする文章力も感じられて凄い……! このままストーリーを転がしていけばかなり面白くなる予感がするので、是非とも続きが読んでみたい一作です。
もう1作の『茉莉花という名の少女』もおすすめです。人によってはこちらが好きな方もいらっしゃるかも?

死んでま寿司! 地獄ロケランちゃん。

死後も電脳空間で生きることができるようになった世界。そんな中流れる、『電脳世界の寿司を全てAI化します』というニュース。この導入だけで面白そう!という空気がビンビンに伝わってきます。
寿司に並々ならぬ熱意を持っているOLのキャラクター性も良い(何せロケラン持って敵生物(?)にぶっ放す!)ですし、彼女の好む「職人SEが作る変態的なクオリティの寿司」の描写が特にツボ。作者の方の頭の中で、世界観が強固に構築されていることがとても伝わってきてめちゃくちゃ好きです。
これは読むのも勿論ですが、書くのもすごく楽しそうだな――と何だか楽しさのお裾分けを頂いた気分になりました。ぜひ皆さんも読んでみて下さい!

知らないラッパーが家にいる

知らないラッパーが家にいる……この冒頭1文目を想像すると、はちゃめちゃに怖い。しかしその違和感も、ラッパーとして持ち前の陽気さや『良い人』である描写がされ、「あれ、実は怖くない?」と思う。……かと思ったら、なんか最後に少しだけ不穏さが漂う。何やかんやでこのラッパーは良いやつなんだろうし、明るい青春モノが描かれもするんだろうけど、ラッパーにしては言葉も発さねえし、底知れない得体の知れなさや不穏さがある。このアンマッチな2つの雰囲気の混ぜ方が良い塩梅で、少しでも間違えばどちらかに偏り過ぎる様な、とても良いバランスで描かれています。こういうアンマッチな雰囲気を書くのはめちゃくちゃ難しい(し、私は出来た試しがない。私も書いてみたい……!)ので、「おお……凄い……!」と思わず唸ってしまいました。個人的に超おすすめです。

関所破り二人

逆噴射小説大賞では一定数時代劇モノが投稿され、賞の性質上、トンチキな題材と混ぜられることもあります。そういったお話も面白いのですが、その中においてこの方は、真っ直ぐに時代劇を書かれています。
ともすれば説明過多になり得るこのジャンルにおいて、読者を置いてけぼりにしないレベルに必要な情報を絞り込み、800字の中でドラマ――事態の進行だけでなく、感情や関係性の変化、キャラクターの個性や人情を描く。この情報量のコントロールと続きを読みたくなる筆致・キャラ立てが凄まじい!
一昨年の『背番号74の叫び』でこの方を知ったのですが、そこから『ヒュドラを運ぶ』『旗片の風』など過去作も読ませていただき、どっしりとした文で情感たっぷりに描かれる魅力的な物語を引っ提げて、毎年参戦されててスゴい……と勝手に思っております。2発目の『かくて棺の灰を飲む』も含め、今年もめちゃくちゃ面白かったです!

砂脈

怖い!! めちゃくちゃ怖い!!!
特に突然現れたこの異形の描写――「目も鼻も口も頬も、砂粒が集まって形作られていた。その一粒一粒がぞわぞわと動いている。」という文で、むず痒くなる様な怖気を覚えます。こんなの見たら確かに冒頭の文の様に忘れるわきゃないよなあ!とかなんとか心の中で叫びながら読んでました。めちゃくちゃ良いホラー!
しかも「ソレ」が出てきて終わり、ではなく、母親と何か因縁めいたものを予感させるラストも良いです。一体どんな事態に巻き込まれてしまうのか――忘れられるはずもない、14の時の記憶。この顛末をぜひとも読んでみたいです!

僕の考えた超人

面白い! 絵が上手い子のオリジナル漫画がその学年でブームになっている、そこに別の子が考えた怪人が出てきて戦う(しかも恐らくは殺される)というスクールカースト的な描写が上手いですし、その子にバカにされるようにして自分の考えた超人が殺されてしまう、というこの後の行動の動機への繋げ方がとても自然。しかも、ここまでであれば普通の学園モノの文脈なのに、敢えてその流れから外してきている(それも、違和感のない形で!)のに度肝を抜かれる! 最後のアレは、ただの偶然か、それとも――!
ともかくも続きが気になる1作!

時計台の猟犬

めちゃくちゃかっこいい。この襲撃者2人のビジュアル描写もイカしてて、「かつては星空の濃紺であったことを偲ばせる、夜明け前のように色褪せた外套」なんて、かつての栄光と年老いても尚現役であることの示唆になっていて、この表現の仕方に痺れます。そして何より、最後の「間に合わなかった」「間に合ったな」の重ね合わせがとてつもなく良い。目的物が全く違うために、このバディのズレが見事に表現されていて、「こんなスタイリッシュな関係性の表示があるのか!」と思わされました。

みかぱんち! または『シスター系Vtuberみかちょ』は如何にして地上最高のスーパーヒーローの栄誉に輝いたか

800字に詰め込める情報量じゃない!! なのに収まってるのがスゴい! 動画のチャットも雰囲気を作り出したり能力開示をするのに大事だとは言え、文字数を結構食ってしまうので、よく入れる決断をされたな……!とそれだけでも拍手を送りたいほど。肝心のみかちょの異能力も面白く、めちゃくちゃ便利なんだけど実戦には使えず、という塩梅が良いバランスになってます。
この後の場面転換――対戦相手の男の視点に移るのもスムーズで、対戦ゲームという、顔合わせをしていない1対1のゲームである性質を上手く利用されています。そして「やべえ、このままじゃまた男の犯罪が起きるぞ」という予感がした後に、それを全部ぶち壊す(いい意味で)最後の襲撃者。あの絵面、想像するとシュールで笑えてくるんですよね。
とにかく要素てんこ盛りなエンタメ小説。読んでて元気になりますし、この勢いのまま突き進んで欲しい!

泉より湧くそれと

スチームパンクならぬ温泉スプリングパンク! この掛け合わせは実は見たことがないので、設定からして面白いです。そして特殊な舞台設定であるにも関わらず、高い筆力のお蔭で情景や戦闘の躍動感が頭に浮かびますし、登場人物の掛け合いも、それだけで何となく普段の関係性が想像できます。何より最後の大陸間弾道温泉弾の支援射撃が、この世界の面白さをより際立たせると同時に、戦いが激化してゆく予感がしてとても良いヒキだと感じました! 続きが気になる……!

ところで作品から外れますが、タグに『無数の銃弾』とあります。こちらは有志のパルプスリンガーが作品を持ち寄って発行しているエキサイティングな本で、こちらの作者の城戸さんが編集長をされています! 興味ある方は下記リンクからぜひ覗いていってみて下さい!(そしてタグに載っているということは、きっとこの『泉より湧くそれと』の続きもいずれ読めるはず……!?)

再生可能世界伝説【挫折編】

近年SDGsが声高に叫ばれています(昔はISOとか呼ばれる認証があった)が、それを神話的な文脈に繋げてしまうとは! この設定の接続の仕方が面白く、調理の仕方も上手いと感じたためにピックアップです。
SDGsは(守ってるかどうかはさておいて)人々にそこそこ浸透した概念だとは思っており、そういう意味で既に下地ができています。だから話の筋が理解しやすい。そして「惑星という環境を守るために、それを1番ぶち壊してる人間を殺戮すれば、全て上手くいく!」というトンデモ論理は「まあ……そうなんだけどね……」と当惑でき、だからこその面白さがありますし、姉と弟の争い(というか最早きょうだい喧嘩?)の断絶の原因としても機能しています。
姉と弟の争い、そして人類と惑星の運命やいかに――! 後ほど人類サイドで誰か入ってくると面白くなりそうだなあ、とか思いながら読んでました。

"お嬢様学校”私立ファイトバック女学園

良い……良いぞ……武闘派(殺人派?)お嬢様は良いものだ……!
もうこの設定のストレートなバカバカしさが気持ち良いし、お嬢様言葉の処理の仕方が面白い。『ちなみに先ほどから、お嬢様たちが発している「ごきげんよう」とは、「お前をぶっ殺せるから私は機嫌が良い」という意味だ。』とかパワーワードが過ぎて、もう読んだ瞬間に「この物語、私の好きなヤツだ!!」となりました。
こういう学園×バトルモノって『緋弾のアリア』『めだかボックス』『武装少女マキャヴェリズム』など沢山ある訳ですが、意外にお嬢様学校と掛け合わせた例は見たことがないかも……?(私が不勉強なだけの可能性もある) そういう意味でも新鮮味を感じたので、面白いと感じピックアップしました。
ちなみにお嬢様言葉、他にも『ですわ』があるワケですが、どう調理されるかは本編を見て頂くとしましょう。

【1DK】ワン・ドラマー・ケー

主人公が寝た時に主人公の部屋にだけ響く家鳴り。普通なら末恐ろしい状況であり、このままホラーに突入しそうなものですが、最後に家鳴りの主が音楽に合わせて8ビートを刻み始める。あれ、なんかノリが良いというか、可愛らしいというか……! しかしこの謎の存在の正体は明かされておらず、不気味さも残り、何とも言えない感情を抱かされたまま800字が終わる。
展開の仕方も自然で面白いですし、読み手に「こういう感情を抱いて欲しいな」という意図が明確に感じられ、しかもその意図を実現させることに成功しています。ホラーに転ぶというよりは、言葉ではなく音を通じて何か人ならざるモノとの交流が始まりそうな予感 も良い。純粋にこのまま続きが読みたい一作です!

以上!

 ということで、全3回にわたってお送りしましたピックアップは、これにておしまいです! いくつピックアップしたんだろう……と数えてみると、45作品でした。とても大変でしたが、「この作品の何が良い・面白いと私は思ったのだろう?」という言語化のプラクティスにもなったので、楽しかったです! ピックアップさせて頂きました方々、ありがとうございました!
 他にも逆噴射小説大賞では、339発というとんでもねえ数の弾丸さくひんが飛び交っています。私に刺さったのとまるきり違う作品が、貴方に刺さるかもしれません。ぜひ、お気に入りの作品を探してみてください!

 最後に私の作品も載せておきます。ご興味ありましたらぜひ!


おしまい

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