見出し画像

グッドデイズ、マイシスター。(完全版)11

11:Interlude.(1)


僕は
きっと輝くんだ
そう信じて走り出した
だけど光はまだ遠くてさ
まだ
僕は 闇を歩いている
それでも立ち止まらずに
光 掴めると信じて
僕らは進み続ける

『【歌ってみた】グローリン・ボーイ【新人Vアイドル!】』
動画サイト「2Tube」より



 ……ああ、懐かしいな。
 そう言えば、こんな曲、歌ってたっけ。

――電気を消し、青白いライトだけが光る部屋の中、彼女は1人でうずくまっていた。

 選曲した理由は――なんだったっけな。
 えーと。
 確か、この曲が好きだったから。大なり小なり闇を感じることはあって、そんな時でも、目指してることはあって。
 そのためには、前に進むしかないんだよ、と当時の私の背中を押してくれたんだよね。
 押し付けがましい歌詞だ、とか。『ボーイ』だなんて性差別だ、とか何とか。世間では色々批判や言いがかりはあったけど、私はこの曲、好きだったんだ。
 だから、選んだ。これから進んでいく決意を歌い上げるにもピッタリだったし。
 ……それがこんなに跳ねるバズるなんて、思ってもみなかったけど。

――でもなあ、と。彼女は椅子の背もたれに体重をかけ、天井を見上げる。

 でも、今なら。批判していた人たちの言い分も分かる。ジェンダー云々の方じゃなくて、押し付けがましい、って方。
 右も左も見えない程の闇に囚われてしまったら、進みようがないんだって。進もうにも、周りが見えなくて、どうしようもないんだって。
 なのに、光――希望か未来なんてのは、見えるものだって前提に勝手に立って、そこへ向かって皆進んでるものだ、って言われたらさ。そりゃあ、思想を押し付けられてるって思っちゃうよね。
 それでも。それが分かった上でも。
 私は、歌うのは好きだし、もっとたくさんの人を笑顔にしたい。もっとたくさんの人に、私の歌を聴いてほしい。
 そういう光に、まだ私は執着してる。
 思い入れって、消えないから。
 まるで、呪い・・みたいに。

――天井を見て、悲しげな笑みを浮かべてから、彼女は椅子から立ち上がる。

 うん、そう。呪いだよ。
 これだけ、事実無根なことで誹謗中傷を浴びてさ。
 死ねとか消えろとかいなくなれとか辞めちまえとか……歌うのやめろとか。特に、歌うのやめろ、お前下手なんだよ、とかはキツかったなあ。
 …………。
 ……そういう誹謗中傷受けるのが嫌で、違うんです、事実無根ですって言っても、誰も聞き入れてくれなくて。
 ……いや、誰も、は違うか。
 最初からずっと私の味方をしてくれた人がいたな。『もくもく』って名前だった。可愛い名前の割に度胸があって。度重なる誹謗中傷に、それは違う、事実無根だ、何か証拠があるんですか、と戦ってくれたっけ。
 何でそんなに親身になってくれたのかは、ついぞ分からなかったけど。
 それでも多勢に無勢で、結局押し潰されちゃってさ。
 私も開示請求で戦ったりもしたけど、結局無駄に終わっちゃったし。資金援助を受けてたのに、あんな結果じゃあ、金をドブに捨てたようなもので。
 それに活動を止めた時なんか、「せいせいした」とか言われちゃってさ。
 ……そういうのが積み重なると、さ。
 私、もう生きてない方が良いんじゃないかって。
 でも、アイドルとして輝くというのは、やっぱり目指したくて。
 そういう光を諦めきれなくて。
 でも、闇に囲われてそんな光も、もう見えなくて。
 ありもしない光に囚われて。
 なのに、まだ目指してる。
 こんなの、呪い以外の何物でもない。
 ……苦しかった、な。

――立ち上がった彼女は、椅子を所定の位置に置く。

 『もくもく』さんには、申し訳ないことしたな。せっかく、あんなに頑張ってくれたのに。
 家族に対しても、友達に対しても、本当に申し訳ない。色々と気を遣ってくれたのに、私はそんな恩に報いず、いなくなるんだから。
 でも、ごめん。
 もう、疲れちゃった。これ以上は、無理。
 何のためにここまで頑張ってたのか、分からなくなっちゃったし。
 あはは。
 馬鹿みたい。
 ばーか、私。

――彼女は、椅子の上に立つ。その視線の前には、天井から吊り下げられた、輪っかを作ったロープ・・・・・・・・・・がある。

 ……わがままでごめんなさい。
 弱くてごめんなさい。
 面と向かってこんなこと言えない子で、ごめんなさい。
 ……いくら謝っても許されないと思う。
 でももう許されなくてもいい。許されないのなんて、慣れてしまったから。



 私は。
 私は……もう死にたい。
 呪いから、解放されたい。
 わがままで、ごめんなさい。



――彼女は、首にロープをかけた。
――そして。


Seg.)

いいなと思ったら応援しよう!