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【不定期雑記 #43-3】逆噴射小説大賞2024個人的PUその2

 ドーモ、透々実生です。
 前回に引き続き、逆噴射小説大賞2024のPUピックアップ記事です。前回に注意事項等もろもろ書きましたので、こちらから↓

 問題あればぜひ遠慮なく仰って下さいませ。

 そして何より、気になる作品があったらぜひ読みに行ってみて下さい……!

落花〈ラッカ〉

地上100kmのカーマンラインからのスカイダイビング。幻想的で壮大な舞台で行われる、2人の「相思相愛な」男女の殺し愛。極限の緊張感の中、超高高度で殺意をぶつけ合う2人の運命やいかに――。
このシチュエーションがめちゃくちゃ面白くて興奮しました! 今年1発目の『第六切断面』も、世界観が独特かつ途轍もない広がりを持つもので「スゴイ……」となりましたが、こちらの方が私は大好物! 情景の美麗さは勿論のこと、紫苑と椿の関係性もとても良さそうな予感がしており、椿も信念を持って紫苑を隣に立たせ、殺そうとしているのでは――と想像が膨らみます。こういうのも一種の『圧縮』なのだろうと思いますが、とても自然な情報圧縮で上手いと感じるばかりです。
作者の方の(多分、ガンダムなど富野由悠季さん作品由来の、宇宙的な)美的センスや独自の世界観が余す所なく存分に表現されていて、良い意味・真の意味で「これは私には書けない作品だ……!」と感じさせられます。過去の描写の量如何いかんで短編か中編になると思いますが、この行く末をぜひ見届けてみたいです!

窮栄レインメイカー 最弱激安スキル縛りでデスゲーム攻略配信

面白い! マネーゲーム×異能力×デスゲームの混ぜ方が上手く、ゲームのルールもこの800字以内で何となく理解させながら、しっかり登場人物達を動かして物語を進めており、途轍もないワザマエを感じます……! お決まりの「ゲームクリアだと思ったら、その後ペナルティが課されていき、死!」という展開も取り込まれていたり、またクセ強なプレイヤー(デスゲーム配信者……って何だ!?)が出てきたり、エキサイティングな要素も盛り沢山で、純粋に続きが気になります。
こちらのタイトルにもある通り、逆噴射小説大賞発の商業作品『Q eND A』の続編的立ち位置(窮栄→QA)にあるのですが、あの作品の世界観自体そもそもかなり自由度が高く(これ以上は伏せておきます)、なるほど確かにこうして続けても良い訳か……!と思いました。続きを書かれるとしたら、またワクワクするゲーム展開になることを期待しております!
そして、感想からは外れますが、書籍『Q eND A』は好評発売中です!本当に面白いので、ぜひ読んで下さい!

盆栽コンテストバイオテクノロジー部門

昨年の『もしもプラズマキャノンがあったなら』で「プラズマキャノン!?!?」となった記憶があり、あの作品面白かったしまた今年も参加されるかな……と思ってたら、この作品が出てきて、「盆栽コンテスト……バイオテクノロジー部門!?!?」となったのは良い思い出です。盆栽とバイオテクノロジー、出逢ってはいけない2つが出逢ってしまった! 出逢うな!!!
ものすごくぶっ飛んでますし、というか主人公が文字通りの「植物人間」ですし、荒唐無稽すぎて面白いのですが、文章は至って真顔。「このコンテスト、現実に存在するぜ。なあ、そうだろ?」と笑顔で(目は笑ってない)肩にポンと手を置かれるような印象を受けます。ヒキもバッチリで、そんな荒唐無稽に更に何がぶっ込まれるのか、楽しみです。
ちなみに作者の方はTwitterにて曰く、『盆栽作者の謎に迫ったり、盆栽トーナメントで戦ったり、禁断の遺伝子強化でさらなる盆栽の真理に近づいたり、地球が上位存在の盆栽であることが明らかになったりならなかったり』するらしいです。それを書かれるにしろ書かれないにしろ、ぜひともこのぶっ飛んだ世界をもっと堪能したいです……!

ドリーム・キャッチャー

昨年の『ペンローズの迷宮』の世界観と描写力に圧倒され、「す、凄い……(語彙力の消失)」となっていたのですが、今年も無事語彙力が消失しました。
現代的な広告を、支配者めいた顔で征くホエールで表現しているのがまず良いです(SFと空飛ぶクジラって相性が良いんでしょうか?『サマーウォーズ』や『竜とそばかすの姫』を筆頭にした細田守作品ではよく出るモチーフですが……)。そしてそれを言わば「攻略」して広告アドブロックをするという設定も面白い。第三世代を封じてもすぐ第四世代が出てくるよ、というところに、「ああ、イタチごっこが続いているんだな」という背景も読み取れて、情報圧縮をこういう形で自然にされているのは、筆力を感じます。多分ここまでしないと、800字でSFの冒頭は書けないんだな……と痛感させられました。純粋に憧れます……!

聴く人

いわゆるシャーマン×法廷モノ! 『逆転裁判』シリーズの綾里真宵ちゃんポジションな訳ですが、そこに焦点を当てた物語というのが面白い! しかも、この被害者(死者)の切迫感ある(代理の)告白がとても良く、引き込まれました。さらにこの告白は主人公であるシャーマン(伝通者)の存在を際立たせる役割も存分に果たしていて、始まりのインパクトは抜群でした。
最後に寄越した視線も気になりますし、これだけ自由度の高い設定であれば、別の裁判も題材にできる上、ドラマみたく複数の裁判を経て司法の闇とかに触れる――なんて展開も想像できますから、作品としてめっちゃ強いな……と思います。

I meet MIDNIGHT.

表現がめちゃくちゃ好き! ヒキもホラーめいた緊張感があってバッチリですが、この「表現が好き」を1番の理由にしてピックアップです。
特に「冬は夜になると空気が音を吸い込むのだろう」「周囲の音を含んだ空気を大きく吸い込むと、なんだか特別な味がする。冬の夜の味とでも言うのだろうか、肺が冷やされる感覚がなんとも言えず心地よい。全身が澄んでいく心地だ。」のあたり。五感をフルに使った冬の空気感の描写が、情感たっぷりで好きです。
逆噴射小説大賞は、血や臓物が撒き散らされるちょっと(どころではない)野蛮な物語もまあまあある(私のもそう)賞なので、そういう作品群からは外れています。が、確かな足腰のある文章力を感じられるのはそれだけでも強い。この美しい文をもっと堪能してみたい――それもまた「続きを読みたい!」の原動力になることを、この作品で再認識致しました。
スキの数は他の作品に比べて少ない方ですが、ぜひに推したい1作です。

DO LIVE

まるでゲーム『パラノイア』じみた1文目から始まる文。とんでもねえモノを運ぶドライバー。薬をウイスキーで流し込んで堂々と飲酒運転する、妻を切り刻んだ異常犯罪者を切り刻んだ、ヤバい男。
全体的にカラッとした明るい雰囲気があるのに(ヘッダー画像も相まって)、どこかドス黒いモノが奥底に流れているのがクセになる。「良い肉って言ってくれたなぁ」のセリフで、「あんさん……そのお肉、どうするつもりで?」と不穏さを感じますし、「あと7つ」という、余裕さや風格さえ感じる悪意を孕んだセリフにも、背筋がゾクっとしました。空気感とストーリーとが良い意味でアンマッチしている、不思議な味わいの1発。

ザ・プレイ

不思議な魅力がある……! 普通にヤクザモノとかそっちに転じるかと思ったら、人類史をかけて行っている、人ならざるものとの野球! この突き抜けた荒唐無稽さが何とも心地良い。
相手が何者なのか、その片鱗だけでもめちゃくちゃ見てみたいですし、この野球が一体どんな展開を辿って行くのかも楽しみなので、このまま勢いのまま続いてほしい……! そんなことを思った作品でした。
なお、2発目の『大殺壁』もかなり面白くてオススメです。

キリング・クッキング・ダイニング

今年は、私も人肉食っぽい何かを書きましたが、こちらの作品はまた違う良さがある……!
最後の傾れ込むような怒涛の展開が凄まじく良い。このカルト教団での皆殺しを機に一気にギアが上がった感覚! 食に異様に執着するどこか普通からズレた男と、やべえ教義を掲げる教団のリーダー。設定の開示や情報の配置も、ここまで要素が多いのに全くとっ散らかってないのもスゴい。そして何より、この物語の続き、物凄くイヤな予感しかしない……! そしてこれはブロマンスになるんだろうな、という(すごく個人的な)予感もあり、続きが気になります!

切り札は遅延だけ

うーわ面白え!と真っ先に思った作品。
初っ端の「獣のカードには下の方に様々な数字と模様、そして矢印が書かれている。幾何学模様は魔法のカードらしい、任意のタイミングで出すことで効果欄に書かれた効果を発揮することが出来るようだ。」でイヤな予感はしたけど、やっぱりゲームルール分かってねえじゃねえか!とマジで笑いながら突っ込んでました。こういうコメディモノを書かせたら本当この方はピカイチ。初めから最後まで笑いながら読んでたのは今のところこの作品のみです。
ゲームのルールが分からないから、『切り札は遅延だけ』というのも見事にオチがついていて、でもこのクソやべえ状況は抜け出せていなくて、ここからどうするのか気になる!
現状、完全に短編向きだと思うので、このまま書き切って結末を見てみたい! しかし本当にこの方の物語は面白い……!

麒麟の首

荒唐無稽にも程がある! しかしその荒唐無稽な設定に、訳のわからない強度があって、有無を言わせない凄みがある。
どこかの部族が、首が長いほど良いなんて風習(という言葉で合ってるのか?)があった気がしましたが、それをそのまま政治闘争に持ってくる真顔さが好き。麒麟の首。それは一体何なのか、この「権力」を手にすることの代償は、そして物語の行く末は――既にこの800字の中にも不穏な要素盛り沢山で、このまま一本の物語として読んでみたい!

一軒家、死体付き

本大賞の「嫌なホラー」枠その3。2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の『俺が家庭教師で行ったヤバい家の話』を筆頭に、「明らかに生きていない者を、まるでまだ生きているかの様に認識する」のは、狂気と恐怖と、生理的な嫌悪感を感じます(無論いい意味で!)。これも所謂、その型の話な訳ですが、普通なら主人公は意味の分からない状況に投げ込まれ、不安や恐怖を抱くものです。けど、この家にやって来た医者は、何かが違う――この医者が物語を更に転がし(或いは引っ掻き回し)てくれることへの期待感があります。
いや、まあ、この状況を前に平然としている医者がいっちゃん怖いんですけど……。

ロードキル・キャット

轢き殺した猫の供養。悪いことをしてしまった、せめて供養を……と掘り返していると――というところから始まるホラー。
この小説のスゴいところは、800字の中に2つの展開があって、しかもその展開の仕方が綺麗であるところ。『綺麗である』をもう少しちゃんと言うと、大きく2つの要素に分けられると思っていて、①繋げたい展開前と後の話にしっかりした共通項があること(結節点みたいなもの。今回で言うと「穴(に埋まっている、埋めている)」。②因果がハッキリしていることの2つ。ここがキッチリしていると「展開が綺麗(かつ情報を詰め込める)」ということに繋がるんだな、と学べました。
だからこそ、最後のシーンで本気でゾッとしましたし、とても印象に残る冒頭になったので、ピックアップさせて頂きました。

まだ続くのじゃ

 ということでまだまだありますが続きます。多分次で終わる――と、いいなあ……なんて思ってます。

(追記)終わります。次はこちらへどうぞ!↓

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