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【不定期雑記 #43-2】逆噴射小説大賞2024個人的PU

 というわけで、逆噴射小説大賞2024の個人的PUピックアップです。つまり、私が「これ良いぞ」「面白いぞ」という作品をピックアップして好きに感想を述べていきます。ぜひ気になる作品があれば読んでいって下さいな。(ちなみに本当に個人的好みと趣味で選んでますので、これに選ばれなかったところで何も起きません!)(あと、普通に続きが読みたいと言ってますが、書くも書かぬも自由なので……!)

※前回から続けて重ねて言いますが、なんか問題あれば対応しますので、何卒……!


空騒ぎフラッパー

学園モノじみた会話文に突如として割り込む、空からの鉄骨。主人公はそれに対して不思議な力でマシュマロを召喚し、鉄骨と対消滅させる――。こういう日常系の中に突如異常が入り込む、という展開はライトノベルなんかでよく見ますが、この作品はペンやコンパスといった学校生活用品を能力の起点とすることで日常と異常がうまく溶け合っている点がすごく良いです。このお蔭で、800字という制限があったとしても情景が浮かびやすく、スッと物語を受け入れやすい。また、鉄骨や電車という、分かりやすい脅威や、でっかいマシュマロといったぶっ飛んだ発想をする辺りも、いい意味で若者らしさが出ています。もっとこの戦いを見てみたい!と思わせる作品です。

創世神話

もう完全に私の好みの世界に入ってしまいますが、めちゃくちゃ真面目に創世神話から入ったのに、その後すぐにギャルっぽい会話文・地の文がやって来て、良い意味でハシゴを外されたのがとても好き。もうロクなことにならなさそうな未来しか見えませんが、ロクなことにならなくなって、そこからどうにか学んで、成長して、上手く世界を創っていって欲しいな……と、なんだか応援したくなる気分になります。
しかしこれ、文体から勝手にギャルじみた女性をイメージしてますが、もし髭面のお爺様がこんな会話してたら面白くないですか??

【アルティメット・クソグラフ・チャンピオンシップ】

毎回ブッ飛んだ発想と真顔の文体で面白い物語を作り出してくれるこの方、今年もすごい面白い! クソグラフ、現実にあると(私の職業柄)ブチ切れてしまうのですが、もうここまで情熱を傾けてくれるのであればいっそのこと清々しい! どんなブッ飛んだ真顔のクソグラフが出てくるのか……ぜひ本戦も見てみたい! しかしそのために、作者が誰よりもクソグラフマスターにならないといけないという、とんでもねえ業を背負う訳ですが……!
逆噴射小説大賞のフォーマットに、全文インタビュー記事的な構成で挑むのは相当チャレンジングだな……と思いましたし度肝を抜かれましたが、面白いのでヨシ! まあ真面目に言えば、インタビューというのは(インタビュアーの腕にもよりますが)基本的には対象者の本質を抉る質問をする行為なので、上手く書けばキャラクターの深掘りにもなるし、表現技法としてはアリだな……と思ったりなど。そこに、クソグラフというパワーワードをぶち込んでいるので、この作品は途轍もない強さを誇っているのだと思います。

ぶん回せ!

1作目『御研話』も好みですが(何よりものすごく読みやすい! 個人的には、『ボニン浄土』めいた雰囲気を感じる……!)、個人的には2作目のこちらが好みです。ラリアットしたくなる時、ありますよね!(あるか?)
この方が書かれた雑感記事にも『800字でオチている』という記載はあり、確かにそうなのですが、こういう軽妙で人が軽々しく殺されていくテンポの良さこそ、逆噴射小説大賞らしくてとても良い。何より文章によって情景が浮かびやすく、かつ自然な流れなので読みやすい(これを『文章力』と呼ぶのでしょうか)。
昨年の柴コーンといい、凄く幅のある作品を書かれる方だと思いましたので、色んな作品を読んでみたい……!

ポエジイ・パンク・ナイト

昨年の2作『アローン・イン・ザ・メイズ』『一方そのころ、残りの1/2は』共にめちゃくちゃ面白くて印象に残っている作者の方。今年の1発目もものすごく面白い!
「海を見たことがなかった」という序文で、「まあ、そういう人もいるよね」という感想を抱きながらも読み進めていくと、「感動量」という聞いたこともないSFじみたワードが出て来て、私の頭を死角からぶん殴る。そしてその感動量という、何かのエネルギーじみた概念を軸に、物語が進んでいく――良い意味で予想を裏切りながら展開力もある、強い作品です。
最後のあの1文も、「その状況を前にした感動量や何らかの感情エネルギーが、どれほどの量・質で出てくるのだろう?」と、続きが気になります。途中に出てくる『ドリームマシン』という存在がめちゃくちゃ気掛かりですが……。
この作品の感想から外れますが、個人的には2発目も楽しみにしております!

肉喰災戴(にくじきさいたい)

通常なら悲哀や絶望を表す所で笑顔を表したり、忌避すべきモノにむしろ近づいて行ったりするのが、分かりやすい「嫌なホラー」の例なのですが、その「嫌なホラー」が綺麗に詰め込まれているのがこの作品だと思います。読み終えた瞬間、「イヤッ!イヤッ!」となりました。ええ、なりましたとも!
こんな状況に遭遇したら間違いなくトラウマになりますね……。果たして、死体を埋めてしまった2人の行く末や如何に(ちなみに兄はもう"助からない"と思ってます。タイトルも併せて考えると、食った瞬間終わる何かがあるんじゃないかと)。こういう「嫌なホラー」大好きなので、続きがあればどう転がるか見てみたい……!

泥とプラチナ

昨年最終候補作の『セイント』もそうですが、こういうアウトローを書かせたらこの方は一級品だと思っています。中山文則作品や佐藤究作品の様な、ダークでハードで、しかし確実な芯や感覚を持ち合わせている悪人。明らかに関わっちゃダメだけど、絶対的なカリスマを持っている人物。こういう人物を書けるのは素直に羨ましいです。
スリの描写も緊張感がありつつ、定量的・外見的な側面から分かりやすく「全てを盗る」様子が描かれており、スリの世界を一切知らなくても「コイツは……相当なやり手だぞ」と思わせる説得力があります。なのに、それを遥かに上回る実力を持つ、謎の老人の登場。「盗む時に、盗まれちゃ意味がねえだろ」とでも言わんばかりのこの老人は一体何者なのか、ユキオは彼を前にどうするのか――と続きが気になる作品です。こういう形でも、ヒキを作ることができるのだな……という意味でも学ぶところのあった作品でした。

天国経由地獄行き、自由席にて

設定が途轍もなく面白い! この方の作品は毎回、一体どこからそんな設定が湧いてくるのか気になります(八尺様がくねくねをヌンチャクにして鬼に金棒状態になる小説然り、三大欲求より殺人欲の方が強い激ヤバ刑事の小説然り)。
自殺することで天国へ行き、悪人を天国から地獄に引き摺り下ろす、という正しく『地獄の沙汰も金次第』な、バカバカしくもストレートな設定。それを彩る設定開示の妙と、軽妙洒脱な会話文。興味を引くタイトル。どれをとっても相当自然に書かれており、逆噴射小説大賞の1つの型として学ぶべき所の多い作品だと思っています。
この冒頭からするに短編レベルの長さの作品だと思いますが、ぜひとも短編として完成させていただき、完全版を見てみたいと思ってます!

歌舞伎町オーバーボディ

やってることがヤクザモノのソレなのに、着ぐるみが登場人物(?)であることで、名前も「ライ太郎」や「ぷに丸」となっていて、シュールさも加わっているこの作品。しかも、着ぐるみである設定を上手く利用し、「実は主人公は『着ぐるみ生命体』ではなく、本当に『着ぐるみを着た人間』なのだ!」という設定も用いて、緊張感も演出しています。いわゆる「潜入捜査」の型ですが、こういう形で活かすことができるとは!と脱帽しました。
こういう作品に出会うことができるから、逆噴射小説大賞は面白いのです……!

ボーイ・ミーツ・ガールズヘッド

タイトル通り、『ボーイ・ミーツ・ガールズヘッド』! 突如少年が、少女の生首と出会う! しかもその少女を殺した犯人を探す展開に! 異常設定のミステリの導入としてとてもストレートで分かりやすく、良いと感じました。これは素直に続きを読んでみたいです。特に、少年と少女の因縁について、結末を見届けてみたい。そういう意味で、ホワイダニットの要素が強いと良いなあなんて思ったりします。
それにしても、主人公がこの状況を前にしても何やら落ち着きすぎなのは、何かありそうで気になりますね……。

カルヴェニ

本大賞の「嫌なホラー」枠その2。もうコッチはストレートに「関わりたくねえ!!」って思いました(褒め言葉です)。Twitterの感想にも書きましたが、第一印象が「不気味の塊」なんです……!
次から次へと、一般や普通から外れた、意図不明の行為の連続を叩きつけられるだけでなく、その描写力が高い=情景を脳に思い浮かべやすいため、ものすごくリアリティを持って立ち上がってきます。故に「不気味」だし「気持ち悪い」し「関わりたくない」。コレは中々しようと思ってできる芸当ではなく、こういった系統の作品を書いてこられたからこその筆力が成せるワザだと思います(最近だと『翳す人』とか)。このまま進んだ先が見てみたい作品です。怖いモノ見たさで。

言霊交差点

面白い! 単純に言霊使いという能力者の話としても面白いですが、何より面白いと思ったのは物語の広がりを感じられたところ。「必殺キック」やら「水の中で息ができる」やらの子供らしさが十二分に出た良い言霊使いの子がいたり、いたずらで「白線を飛び出たら死ぬ」をやり、本当にワニに喰わせる世界にしてしまった悪い言霊使いもいたり。ということは、ガチで悪いことに使う言霊使いがいても不思議じゃないし、いつの間にか巨悪に立ち向かう事態に巻き込まれてもおかしくない――往年の少年漫画じみた冒頭だな、と感じました。「続きが読みたいエキサイティングな冒頭」という題意を、ストレートに達成している作品なのでは!
ちなみに個人的には、いたずらな言霊使いの正体はまたそんなに歳の離れてない子供で、今回懲らしめられることでライバルになったり仲間になったりするのかなあ……なんて妄想しています。普通に続きが読みたい。

偸盗の祀り

今までの作品とは全く質感が異なりますが、私はこちらの話も好みです。咳と微熱が続くという病状と純文学の性質のある文から、「結核」のようなものを想定しているんだろうなあ(舞台が現代寄りなのと、病名が明言されてないので別の病気なのだろうとは思います)と思うのですが、その流行病を機に、一人称が少しだけ変化する。それを、「暮らしのなかに突如として〝僕ら〟という語が割り込んできた。」という文で書くのが凄い(語彙力が足りない!)ですし、流行病の伝染と一人称の伝染をアナロジー的に配置しているのも面白い。最後の文も「僕ら――私は誰かと話がしたいと常に願っていた」と『病状』が少し進んでいて何とか抵抗している様が読み取れるのも良い。
現代的な(?)人間の奥底にある、「他の皆と一緒でありたい」という所を真正面から向き合って書かれそう、という意味で、とても続きが読みたい作品です。
ちなみにタイトルの「偸盗」は「とうとう」と読むそうです。仏教の十悪の一つで、盗むこと。タイトルの意味も気になります。

環八通りの死神

一文目の「死神がクレジットカードの審査に落ちた。」のヒキが物凄く強い。続けて読んでみると、とても死神が人間臭く(というより、元が人間か何かなのだろうか?)、主人公達もカラッとしていて、全体から明るい空気感が漂ってくる。日常の延長線上にあるような会話文もあって、グイグイと引っ張られる不思議な強さのある作品で、このまま続きを読んでみたいです(トランクの中の、顔と指紋を潰された男から目を逸らしながら!)。

「インドラの僕(しもべ)」

正しく『神鳴り』により地獄絵図と化す中においても、ただひたすらに美しい雷に魅せられ、写真に収める写真家達。彼らの会話も、十年来の相棒に相応しく気心が知れたものになっていて見事に圧縮されていますし、何より雷の鳴り響く情景描写が、頭に映像が鮮明に浮かび、さらにはとてもカッコいい。
最後の一文『雲間に走った赤い稲妻は、血の管に似ていた。』も、ヒキとしてスタイリッシュでカッコいい! どこか稲妻が脈動しているような不気味さを際立たせ、不吉な予感を抱かせる。その上、甚大な被害に見向きもせず、ひたすら雷の威力に魅せられた2人の旅路の果てが碌なことにならないと想像させます。
果たして彼らは、神の雷鎚を下されてしまうのか――。その結末が見てみたい……!

テトリタス

逆噴射小説大賞の冒頭800字というフォーマットでSFを書くのは、極めて難しいと私は考えている(少なくとも、私は書こうとトライして全部玉砕した)のですが、それでも書けるのだ!と思えたのがこの作品。
「人が死ぬと肉体はとろけて土にしみこんでいくが、魂は肉体を離れて天に昇る。」という最初の文で一気に世界観に引き摺り込まれます。また、固有名詞も極力使っておらず(あるとして、「累積の丘」くらい?)、他は一般名詞を用いて描写しているため、情景も想像しやすく文を読ませます。なるほど、冒頭で読者を置いてけぼりにせずSFを書くにはこうすれば良いのか……と思う一方で、これを実現できるかは、世界観がどれだけ作者の頭の中にできあがっているか、またそれを誰もが想像できる形で記述できるかに左右されるので、スゴい作品だ……!と思いました。この不思議な味わいの世界を、もっと堪能してみたい!
ちなみにタイトルは「デトリタス」(生物遺体やその破片などを起源とする有機物の粒子)が元でしょうか。

プロ詐欺師のサツジン

とにかくこの作品が凄いのは、スピード感。話を転がしてくれそうな激烈にやべえ女が出オチとばかりに1段落で殺され、その死体処理までなんと800字も経たずに終わってしまう。そこには一縷の躊躇も迷いもない。しかも文にぶつ切り感がないと感じたのも凄いと思いました。「詐欺師が詐欺以外の罪で捕まる訳にはいかない」というのも、倫理観が絶妙にズレていてキャラとして立っている。最後の宇宙警察の罪状だけは、なんかもっとブッ飛ばしても良かったんじゃないか、とは思いましたが、それでもこのスピード感はとても気持ち良かったのでピックアップさせて頂きました。

翼ちゃんは絶対に負けない

今年1発目の『福呼び村に鬼来たる』も面白かったし好きですが、私はこちらの方がより好きです。異世界人にモテモテ属性の完全『主人公体質』の少年を軸に繰り広げられる、『絶対に勇を異世界に連れて行って勇者にしたい美少女たちVS絶対に勇を異世界に連れて行かせたくない少女、ファイッ!!』というお話。所謂『天丼』なんですが、800字という逆噴射小説のフォーマットでスパスパとテンポよく進められたら、そりゃ面白いよな〜!と思いながら読んでいました。ちょいちょい忍殺の影響を感じさせるのも、流石DHT主催の大会だ……と思わされます。いやあ、本当に続きが気になる。
果たして翼ちゃんは、無事に魔王の指をへし折り、勇君を取り戻せるのか! 次回、『魔王、死す!』デュエルスタンバイ!(くらいのノリで進んで欲しいという個人の願望)

キミがいるから明日がある

この方の文章は、確かパルプアドベントカレンダー2022で知った記憶がありますが、その時からとても読みやすく、だからこそストーリーラインも分かりやすい方だと思ってます。だからこそ、こういう何か譲れないモノを抱えた2人の攻防戦、という題材で書かれると、カチッと噛み合って面白い! 読み終えてからタイトルを眺めると、また違った意味に見えてきて味わい深いです。
しかし、最悪な隠し事を抱えたまま始まる同居生活……不安しかない……!(めちゃくちゃ面白くなる予感)物語がどう着地するのかも含めて、気になる作品としてピックアップ致しました。

一旦ストップです!

 ピックアップしたいものが多くなりすぎて長くなってきたので、次回に続きます! もうこの時点で19作品もある……!

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