KAC 〜Kaleido Aspiring Compiletion〜(7/7)
7:X-Excuse.
――天井から吊るしたロープが切れ、体が床に落ちた所で目が覚めた。
メタバース没入ヘッドセットを外す。見慣れた自室が視界を充す。
自殺に失敗した。
悟った途端、再びロープを吊り下げんと椅子を立てる。
死ぬ勇気が無かった。
無いから、意識をメタバースに飛ばして、苦しまぬ間に死ねたら良いなと思った。
そうしたら、あの変な本屋だ――仕方なく本を読んでいたが、存外楽しんでいたらしいとほとりんに指摘されて気付いたのを思い出す。
ロープを吊りながら、そもそもの自殺の理由を思い出していた。
誰も自分の事を分かってくれない。それどころか、価値観を押し付け「これをしろ」だの「あれをした方が良い」だの節介を焼く。従わなければ蔑まれ、従ってもまた別の勢力が指南してくる。本人は善意でするのだから始末が悪い。
自分が何も知らないからと、人が寄って集る。
自分の事を何も知らない癖に。
そう思った瞬間、急に世界が自分の手から零れる様に感じ、死にたくなったのだ。
自殺なんてそんなモノだ。
ロープを吊り下げ、ギュッと縛った所で、ふとほとりんの言葉を思い出す。
『絶望の先は絶望しかないのです。希望を見出して掴むのは、他でもない貴方だと、私はそう思います』だったか。
節介を焼くなよ、と思いつつも、然し不思議と心に残っていた。
今自分は、絶望へ向けて直走っている。
自分の物語のエピローグを、首絞めのバッドエンドで締めようとしている。
それも、ただ周りの言葉にうんざりして、世界が自分の手から離れた感じがした、という理由だけで。
そう思うと急に笑いが込み上げてきて、ふと、図書館に行こうと思った。この悩みすらも、本は解決してくれるかもしれない。聞こえない本の声に従ってみても、良いかもしれない。
死にたがりがまだ死なない理由にしては、良い言い訳じゃないか。
鋏を手に持ち、天井から下げたロープを、未練と一緒に断ち切った。
Life goes on, not ends.