フードファイト 「イー流の資格」#AKBDC2023
「会ってみたらよォ、一度聞いてみたい事があったンだ」
「何?」
入魔がピンと伸びた鰻剣――父親の形見である伝説の天然日本産だ――を突きつけながら、箱に問いかける。
「何故、俺の親を殺したのか、ってコトだよ」
「何だ、そんなコト?」
溜息を吐いて、カラメルが煌めく王冠を被る箱は、玉座で足を組み直す。
「刺激サ」
そして両親を殺した理由を、たった2文字で簡潔に答えた。流石に納得のいかぬ入魔は、「どういうことだッ!」と怒号を発すると、箱はまた溜息を吐いて講釈を垂れる。
「今の世界も食糧闘争も生温い。飽きる程の食糧で戦争は消え失せ、宗教に縋らなくても生きられる様になった。平和ボケした世界で生まれたこの食糧闘争も、所詮は子どものママゴトレベルでしかない。穏当な武器で死なない程度に戦い、終われば互いの健闘を讃え合う――世界は、随分つまらなくなったものだよ」
「……」
「だから、戦争を起こしたんだ。君だけじゃないよ? 結構な数のファイターの親を殺した。ボクの顔をきちんと見せないまま。いやあ、その後はとても面白かったネ! 誰が仇敵か分からぬまま、世界は疑心暗鬼と化した復讐鬼に満ち、あらぬ疑いで殺し合い、馬鹿げた理由で戮し合う。世界は戦争に染まった――刺激に満ち満ちたって訳サ!」
「……そンな馬鹿げた理由で」入魔は天然日本産を握り締めて言った。「俺の両親を、殺したッてのかァ!!」
「馬鹿げた理由? それこそ馬鹿言え。刺激のない平和な世界なんて、馬鹿になったまま何も分からず一生を終える以外何もない。これ以上につまらないこと、そう無いでしょ?」
入魔はこれ以上の会話は不要と判断。乾パンの床をヒビが入る程に踏み込み、突進。構える天然日本産に電流が走る!
「良いネ! 最終決戦といこうじゃないか――キミの、最期の戦いとね!」
「死ぬのはテメェだ!」
電撃を纏わせた天然日本産を振るう――天然理想流鰻剣・六の型、電切!
並の使い手なら一撃で内臓まで消し炭にするが、流石に食糧王、この程度でやられる程ヤワではない。箱は地面に埋め込ませていたバリカタの拉麺を伸長させ、盾とした。
中華四千年流・拉麺操術・防ノ型。嘗ての入魔の好敵手、ヌドル亭麺吉の防御技――曳舟箱に喰われた彼の技だ! 電撃は麺を伝って乾パン床に発散させられてしまう!
「テメェ!」
「あははっ! 燃えるでしょ! 煮えたぎるでしょ! もっとだ――もっとぶつけて来いよ入魔!」
防御に用いた麺で、今度は入魔を拘束せんとうねらせる――中華四千年流・拉麺操術・縛ノ型!
入魔は舌打ちをしながら、今度は鰻剣の粘液を増量させ、体を包む! 何の型にも入っていない、鰻剣術の使い手ならば基礎中の基礎、粘能力である。当然麺は体を滑ってしまい、入魔を上手く拘束できない!
「やるじゃん!」
箱は実に楽しそうに麺の攻撃を中断、ポケットから種を取り出す。それは忽ち葱の形を取る――秘剣ネギソード。尊敬していた剣術家、一一の愛剣と名高いものの、抜群の切れ味の真髄が秘匿された、まさしく秘剣!
その剣は粘液さえも切り裂くと知っていた入魔は、すぐさま天然日本産で受ける。
ネギソードと鰻剣が火花を散らす!
「何で、テメェがそンなにポンポン技を使える! しかも全部、殺されたヤツらの技だ! 大体、適合する食糧は、1人1つ、多くても2つが限度だろうが!」
「あれえ? 知らなかった?」
箱は、頬を膨らませる。
「ボク、食糧王だよ?」
口から、スイカの種を射出。入魔は咄嗟にネギソードを弾き鰻剣でガードしようとするが、何発か腹に種マシンガンを喰らい、土手っ腹に穴を開けた。入魔の血液が、箱の顔や服に飛び散る。
「が、アッ……!」
「ボクはキングなんだ。食糧を武器に戦うある意味での新人類の、王なのさ」
ボクもね、と掌を出す。すると掌に、どろり、と赤黒い液体が湧き出てきた。まるで血の池だ。
「ボクの本当の武器は、この唐辛子だよ――固形でも流動形でも霧状でも、ありとあらゆる形態で出すことができる」
その流動体唐辛子を、入魔の傷口に滑り込ませる。瞬間、目をカッ開き、傷口を押さえて蹲る。
「がああああああっ!?!?」
「どう? 刺激的でしょ? 刺激は良い――やっぱりコレが無いと人間は腑抜けになるからね。軟体動物みたいに」
で、説明を続けるとサ。
最早説明を聞かせる気も無いまま、箱は言葉を続ける。
「ボクはそれ以外に、喰ったヤツの食糧武器も使えるんだ。で、大体適合できる。言わば悪食ってヤツだネ」
蹲ったまま呻く入魔の下に、箱は微笑んだまましゃがみ込む。
「勿論、キミの鰻も貰うよ。天然理想流鰻剣――通称イー流。一子相伝の最強剣術。多種多様な技を鰻剣1つで成立させる――ぶっちゃけ、その鰻剣さえあれば、後はそれに適合するだけだと思うんだけど、まーボクならできるでしょ」
だから寄越せよ。
箱は剣を掴む入魔の手を踏み砕いた。更なる悲鳴。それを心地よく聴きながら鰻剣を手にする。粘液で滑っているが、じきに慣れるだろう。
まるでコレから食事でもするかの如く、箱は舌舐めずりをした。同時に、頬についた入魔の血も舐め取る。
「ふ、ふふ。電撃、粘液、攪乱、柔軟性、そして硬度などなど……あらゆる能力を詰めた剣。惚れ惚れするネ」
さて、と。
箱は鰻剣・天然日本産の切先を入魔に向ける。
「コレからはボクが天然理想流鰻剣を継いであげる。大丈夫、心配しないで。この剣術は最大限有効活用して――」
そこで、漸く気付いた。
蹲っている入魔から漏れ出る声が、苦痛の呻きではなく、いつの間にか笑いになっている事に。
「……何だよ、気持ち悪いナ。気でも狂った?」
「まさか」
アッハハハハハハ!!
入魔は笑う。笑う。その笑いに気味悪さを覚えつつも、殺せば済む事だ――と鰻剣を振るう。
その時だった。
「テメェにイー流の資格なんざねェンだよ、曳舟箱」
何を、と当惑すると同時。
ぐらり、と体が突如傾くのが分かった。
「っ!?」
箱は突然のくらつきに頭を抱えながら何とか踏ん張ろうとするが、踏ん張る筈の脚に力が入らない。そのまま地面に倒れ伏してしまった。
「な、にが……!」
「資格がねえって言ッただろ」
腹に穴を開けたまま――しかし出血は既に止まっていた――箱から鰻剣を奪い返す。しかも、踏み砕かれた筈の手で。
倒れ伏したまま立ち上がれない箱から、苛立ちと困惑の声が上がる。
「資格……!? 資格だと! ふざけるな、ボクは王だぞ……っ!」
「身分に拘泥するヤツは大成しねェぞ? 冥土の土産に覚えとけクソガキ」
箱を見下ろしながら、入魔は続ける。
「まあ、種明かしはしてやらねェが――大体想像付くだろ? 原因くらいは」
原因。
毒で揺らぐ思考でそれに到達するのは容易ではなかったが、ただ1つ分かったのは。
曳舟箱に、イー流の資格がないという、絶対的事実であった。
「う……」
「さて――テメェは俺の両親の仇で、俺の戦友の仇だ。相応に、最大限のもてなしをしてやるよ」
箱の背筋に、嫌な冷感が走る。
それは、入魔から放たれた、有り得ない量の殺気。復讐による恨み辛みもあるのだろうが、それ以上に。
その殺気は、入魔生来のモノであるように、箱は直感した。
「……あ、悪魔……っ!」
箱は立ち上がりたかった。しかし、全く体が言うことを聞かない。まるで、毒でも浴びたかの如く――。
「行くぜ」
入魔に容赦も情けも無い。討滅対象を前に慈悲など無い。
鰻剣・天然日本産を構え、一突き――鰻剣の先端が、箱の体に吸い付いた。
そして。
天然理想流七奥義、四。
救急吸命。
――鰻には切れ味や鋭さが無い。
代わりに、数々の強力な補助が付加されている。
例えば電撃。例えば粘液。例えば――吸血。さながら八目鰻の様に一瞬で吸血、対象を干からびさせる事ができる。
曳舟箱は、断末魔を上げる間もなくミイラと化し、その場に倒れた。いかに食糧王とて、所詮は人間。人体の半分以上の血液を吸われればショック死は免れない。
「……」
入魔は鰻剣を箱の体から離した。悪魔の如き技を放った彼の顔には、何も浮かんでいなかった。
否。何を浮かべたら良いかわからなかった。
達成感と虚脱感。同時に襲いかかってきて、どういう表情を浮かべれば良いか分からなくなったのだ。
「……だが」
俺はやった。やってやったぞ。
殺された、近しかった者達の顔が次々浮かんでは消えていく。四天王を倒し、食糧王を倒した。これで世界はまた平和に戻る――。
「……っ!?」
その時だった。
ミイラと化した曳舟箱の遺体が、突如砂となって崩れた。
普通ならば、「勝手に風化しただけだ」と。そう思うものだが。
戦士としての勘が――身につけたくもなかったその直感が、「違う」と告げていた。
奴は、生きている。
目の前で倒れたのは、何らかの食品により偽装された分身なのだと。
ぬらりと光る粘液ごと、鰻剣・天然日本産を握り絞め、入魔は自身の背筋を右往左往と這いずり回るイヤな予感を感じていた。
完
☆なぜなに! 恒例・豆知識コーナー!☆
以上だ!
(以上です)
P.S. akuzumeさん、お誕生日おめでとうございます🎂 なんかやり過ぎた気もしますがご笑覧下さい。
というかコレは何ですか
詳しくは下記の記事を参照! 以上!
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