キッズキッチンレター6月号
【タイ料理】
タイは美食の国です。郷土料理あり、タイの国の料理あり、宮廷料理があり、見て美しく、食べて美味しい。暑い暑い熱帯の国では、目を覚ますような色・脳みそを呼び覚ます香り、味、私たちの住む日本とは全く違う様相を見せています。
「タイの料理」に初めて出会ったのは、四半世紀以上前の大学に入りたての頃。ちょうどインターネットができ、インターネットで「学校の掲示板」が覗けるようになりました。その掲示板に「タイの調味料、メンダーを手に入れました。欲しい人がいたらあげます」と書き込みがありました。興味津々で貰いに行くと、メンダーというのは昆虫のタガメのことで、その時貰ったメンダーはタガメの入った味噌のようなものでした。昆虫そのものが入っているのですが、細かく砕いてあるので見た目は味噌です。味は美味しいのですが、香りがどうも口に合わず、最後まで食べきれませんでした。タガメは田んぼなど水辺に住んでいるカメムシ属の大型水生昆虫で、日本にもかつては沢山いましたが、同じくよくいた水生昆虫のゲンゴロウとともに現在はあまりみることのできない存在となりました。味噌にせず、そのまま焼いて食べることもあり、タイでは「よく見かける食材」なのだそうです。私は匂いと大きさに怖気付いてしまい、タガメその物を食べたことはまだありません。このメンダーとの出会いが、当時進学した工学部からまた料理の道へと帰ってくるきっかけとなりました。
次の年、納豆の源流を探す旅行について行き、中国雲南省のシーサンパンナ(西双版納)で傣族(ダイと読みますが、タイ族のこと)の料理に出会いました。納豆を作っているところを見せてもらいに農家を訪ね、熱帯に近い熱い太陽の日差しを受けるコンクリートのたたきの上で発酵させていました。竹で編んだカゴにバナナの葉を敷き、その上に茹でた豆を置いて、発酵するということでした。日本のものほどは粘らないけれどまさに納豆で、タイの人も納豆を食べることに驚きました。粘る納豆を日本から同行した先生が持っていっていて、向こうは向こうで「日本にも納豆があるのか」と驚いていました。ただ現地の納豆は単に発酵させて終わりではなく、塩を入れて豆鼓(ドウチー)にするものと、叩いて煎餅状にして保存する加工をするそうで、「日本人はまだ作り終わっていない納豆を食べる」と言われました。豆鼓は塩を入れてさらに発酵させた味噌のような味のもので、味噌と同じような味付けに使います。一方、納豆の煎餅は、油で揚げてスナックにしたり、スープのうま味調味料として使うものです。
2000年代に入ってようやく、本国のタイ・バンコクに行くことができました。タイは昆虫食、発酵食品、そしてハーブの国というイメージでしたが、首都のバンコクはもっと洗練されていました。たくさんの果物、たくさんの野菜、甘さと塩辛さと酸味と唐辛子の辛さが入り混じってバランスのとれたタイ料理に目が啓く思いでした。
タイ料理は北部・東北部・中部・南部の4つの地方に大別されます。北部・東北部は山岳地帯です。特に北部は中国雲南省やミヤンマーのシャン高原にも接するためか、どこか日本でお馴染みの食材によく出会います。納豆や、蒟蒻、熟鮓などもあり、筍やきのこもとれます。脂っこいのも特徴です。東北部はイサーン地方ともいい、日本でお馴染みの「ソムタム(青パパイヤのサラダ)」や鶏肉が美味しいところです。昆虫食が有名なのもこの地方で、メンダーのほかにも昆虫を食べます。また米は糯米を好み、ご飯を頼むと餅米が出てきます。黒米があり、真っ黒な甘い糯米のおこわが出てきたことがありました。
中部は最もタイらしいと言われる場所で、王宮があり、外国の料理の影響を受けつつもたい独自の料理が発展しているところ、なのだそうです。トムヤムクンやグリーンカレーが有名です。
そして南部はマレーシアと近いこともあり、イスラームの食文化の影響も受けているところです。辛い料理が多いタイの中でももっと辛いものを好むのだとか。特徴的な食材ではネジレフサマメというマレーシア原産の豆を好んで使います。生でも、加熱してもよく出てきます。ニンニクのような匂いがあります。少しビロウな話ですが、これを食べると尿が匂います。
タイ全体のイメージとして有名な野菜は「パクチー」でしょうか。
葉っぱから根っこまで余すところなく使います。ヨーロッパからアラブ、インド、中国、またメキシコあたりまで世界中で食べられている香草です。英語などではコリアンダーの葉、中国語では香菜(シャンツァイ)です。食あたりを防止し、疲れを取り、肉の消化を助ける働きがあるとされ、必ずついてくるハーブです。刻んでどんな料理にも使うほか、茎の部分を炒め物にしたり、根っこの部分は細かくたたいてケーン(スープ)などに使います。トムヤムクンにも根っこを入れると優しいパクチーの味が付きます。面白いもので、私は実はあんまりパクチーが好きではないのですが、根っこの部分は隠し味に入れたい部分です。家庭菜園で作ることがあったら是非、根っこの部分も使ってみてくださいね。
以上のように、日本ではあまり見かけないさまざまな食材が並び、市場に行くとそのまま出られなくなります。
図鑑を持って、また出かけてみたいですね。
おすすめの図鑑は、古いのですが、東南アジア市場図鑑です。https://www.koubundou.co.jp/book/b176410.html
紙は絶版ですがオンデマンド出版と電子書籍で出ています。植物編、魚介編があり、どちらも良いものです。
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