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Allen Strange『Electronic Music: Systems, Techniques, and Controls』(1972)読書ノート②Chapter 1 「Preliminary Statements about the Subject Matter」

 高円寺マッチングモヲルにて概ね月一で開催されている、Allen Strange『Electronic Music: Systems, Techniques, and Controls』の輪読会に参加しています。現在第2回が終了し、Chapter6まで進んでいます。書籍の概要をまとめた前回のnoteはこちら。

 本記事では、読書ノートとしてChapter1の内容まとめと、個人的な考察を記載します。

 Chapter1のタイトルは「Preliminary Statements about the Subject Matter」。「主題に関する予備的声明」などと訳すことが出来るが、どちらにせよなんか難しい。本題に入る前に、といった感じですかね。要約に、周辺情報や考察を織り交ぜて文を進めてみましょう。

 まず最初に、「電子音楽」誕生当時のイメージなどについて触れられます。以下要約。


「電子音楽」という言葉は、1950年代以降に広く使われるようになった。しかし、1960年までは電子音楽といえば「録音されたテープ音楽」を指すことが多く、そのイメージは「不協和で、角ばった鋭利な響きを持つもの」と一般的に認識されていた。
 フランスでは、ピエール・シェフェールらが「ミュージック・コンクレート」を発展させた。ミュージック・コンクレートでは、ディスク、ワイヤー、テープなど、手に入るあらゆる音源を用いて音楽を作り出した。
 ドイツでは、カールハインツ・シュトックハウゼンらが、電気的発振器(オシレーター)を使った「純粋な電子音楽」の可能性を示し追求した。
 アメリカでは、コロンビア=プリンストン電子音楽センターが高額なコンピューターを用いて音を生成し、音楽制作を行った。
 それぞれ手法が異なる別の音楽であるが、当時はミュージック・コンクレートや純粋電子音楽の区別は曖昧だった。1950年代にこうした人々や流派が創り出していた表現手法は、今日多くの一般聴衆が「電子音楽」と聞いて抱くイメージの形成に大きく貢献した。


 ミュージック・コンクレートってのは、人や動物の声、鉄道や都市などから発せられる騒音、自然界から発せられる音、楽音、電子音、楽曲などの音素材を録音、加工し、再構成を経て創作される音楽を指す。ってWikipediaに書いてありました。例えばこんなの。

 あるいは、これはポップスフィールドにおけるミュージック・コンクレート。

 一方、「純粋な電子音楽」と言われているのは例えばこんな音楽。

 具体音を用いるミュージックコンクレートと、オシレーターを用いる電子音楽はだんだんと折衷的にそれらの技法が用いられるようになり、当初存在した明確な差異を無効化していった。

 コロンビア=プリンストン電子音楽センターにはでっかいでっかいThe RCA Mark II Synthesizeなんてのがあるんですが、いい音源が見つからなかったので写真が沢山あるサイトを貼っておきます。

 いずれにしても大事なポイントは、この段階ではまだ我々の知るいわゆる「シンセサイザー」と呼ばれるものは存在していないということです。ここまでで紹介してきた音楽もそれぞれ大変素晴らしいものなわけですが、音楽とは別の目的で作られた科学的な機材(オシレーター、テープレコーダー、コンピューターなど)を何とか使って音楽に使ってた、ということを押さえておきましょう。
 当時の電子音楽は、伝統的な音楽を演奏するための楽器として開発されたものではないものを使って何とか音楽を作ろうとしてたわけだから、そりゃあ「不協和で、角ばった鋭利な響きを持つもの」にもなってしまう。けど、このことがむしろ「楽器」や「音楽」とは、といったそもそも話を再検証させ、今日に至るまでの電子音楽観の形成に大きく寄与することとなった。といった形で整理をし、話が先に進みます。次の要約を見ていきましょう。


伝統的な楽器は「弾く」「吹く」「叩く」といった物理的な操作を必要としたが、電子音楽では「プラグを差す」「ノブを回す」などの新しい操作が必要になった。楽器というものは「入力(演奏方法)・構造・出力(音)」の3要素を持つものであり、この3要素による特性がそれぞれの楽器の音楽的特徴を決定する。あるものが音楽的な楽器であるかどうかは、本質的にはそれを実際に音楽家が音楽制作に用いるかどうか、つまりあるものが備える3要素から成る音楽的特性により音楽を実践することによるのである。
 なお、1950年代から60年代にかけては電子機材は発達途上であるため、時間軸に沿って、伝統的な音楽を奏でる意味での演奏は困難だった。しかし、伝統的な楽器には不可能な特異な音は容易に鳴らすことができた。このことから、電子機器の特性を活かし、テープレコーダーによる録音と編集という「時間操作」を用いて電子音楽が作られていくこととなった。
 そして、1960年代以降は電子楽器の改良が進み、特異な音に限らず伝統的な楽器の模倣や、レコーダーによる時間操作に頼らずリアルタイムで演奏が可能になるなど、徐々にその制約は解消されていった。


 楽器とは何か?みたいな話ですが、ある入力に対し、それの持つ構造から何らかの出力が出るもの、とまるで関数のような概念的なところまで抽象化されています。で、要はぶっちゃけ何でも良くて、この「入力→構造→出力」という働きを音楽に使うかどうか、によってあるものが楽器になるかどうかが決まる、と言っていますね。
 伝統的な音楽、伝統的な楽器の発達が極まった時代だからこそ、このような原点回帰が必要だったのでしょう。電子楽器に限らず、例えばそこらの空き瓶だって十分に楽器として使用することは可能だよね、なんて考えは現代では割と受け入れられるものだと思いますが、西洋的な伝統音楽が長い歴史の中で築き上げてきた常識からするとかなり急進的な考え方だったのでしょう。
 そして電子機器特有の音楽的特性と制約から、例えば10オクターブくらいジャンプする極端な音程変化、極端なロングトーン、変化が少ない安定した音色等を、リアルタイムは無理なのでテープレコーダーに少しずつ録音を重ねていくことにより成立する音楽が初期電子音楽だったんですよ、だから、ピーギャーガガガみたいな、そういう音が多いんだよと。
 もちろん音楽としてそれらの音を組織するための理論立てや研究がそこではなされていたのでわけなので、適当にいじって変な音出して遊んでいるわけではありません。当時全く未開拓だった、電子機器による音楽をいかに成立させるかの研究の足跡なのです。
 で、研究が進むにつれてもっとああしたいこうしたい、と元々音楽用途ではなかった機材の機能向上が進み、最終的に我々が手にしている電子楽器が生み出されていった、というわけですね。
 さて、ここまでの内容を押さえることで我々は「電子音楽」あるいは「電子楽器」の成立過程の認識を得ることができました。次行ってみましょう。


現代の電子楽器は固定されたものではなく、音楽的な変数やパラメーターの集合体として存在する。電子音楽の技術とは、それらを構造的に整理し、演奏方法を決定し、実際に音楽を生み出すプロセスである。
 電子音楽の初心者は、まずは音高や音色、時間などのパラメータの構成、電圧制御、パッチ接続といった電子音の語彙を習得し、演奏や制御のスキルを身につけることが重要である。作曲とは、音の発生タイミングや持続時間を決める判断を含み、本書ではそれらを実現しコントロールするための技術を提供する。
 電子音楽の有能な実践者とは、(1) 自身が考案した、または他者が創作した音楽的出来事(イベント)を思い描くことができ、(2) その要求される音を生み出すために楽器を設定する音楽的知識と技術的スキルを示すことができ、(3) 最終的にスタジオやリアルタイム演奏の現場を問わず、その音楽イベントに生命を吹き込む芸術的な感性を持っている人を指す。本書では(1)と(2)に焦点を当てる。
 現代の電子楽器に共通する基本原則として、「パラメトリック・デザイン」と「電圧制御(Voltage Control)」という概念がある。
 「パラメトリック・デザイン」では、音の高さ、音量、音色などを独立したパラメータとして捉え、それらが相互に影響し合う関係性を理解する。電子楽器では、モジュールと呼ばれる回路が音楽的要素を制御しており、望む音を得るためにはその役割や限界、心理音響的な性質も考慮する必要がある。
 「電圧制御(Voltage Control)」は、電子楽器の各部分を信号で制御し、スイッチ、パッチコード、ノブ操作などを通じて演奏を可能にする技術であり、現代の電子音楽の基本的な操作原理となっている。


 電子音楽の学習者は、まず電子楽器の諸要素のコントロールについて学び、それらを駆使して音楽的なイベントを展開する、といった学習順序が語られています。何の文句もないですね。ピアノのどこを触ったら音が出せるのか分からず、蓋や足をぶっ叩いている(それはそれで何らかの演奏にはなるのだが)ようではピアノ曲の演奏や作曲はできません。電子楽器も同じです。
 この際、我々が意識すべきなのが、本書の中心的な概念である「パラメトリック・デザイン」「電圧制御(Voltage Control)」という2つの要素です。
 音を要素分解すると、高さ、音量、音色などを独立したパラメータとして取り出すことができます。もちろん実際にこれらのパラメーターは相互影響の関係です。高い声を出そうとすれば基本的には音量は大きくなるでしょうし、がなり声のウィスパーボイスはあまり想像ができないように、どれか一つだけ、というのは本来的ではない。しかし、電子楽器はそれぞれのパラメーターを個別に制御する「構造」を持っているため、我々はパラメトリックに音をデザインする必要がある。
 また、電子楽器において音の各パラメーターを制御するにあたり、我々は大きな身振りをするのでもなく、腹式呼吸や脱力が必要なのでもなく、電圧により各パラメーターを制御する、という発想を身に付けなければなりません。当時はアナログシンセサイザー、モジュラーシンセサイザーしかない時代なので、現代ではMIDIだとかプログラミングだとかまあ別の要素もあるわけですが、それはまた別のお話。というか、パラメトリックデザインを意識する限りにおいてはどれも一緒です。

まとめ

 Chapter1のまとめは以上となります。ここまでで約4,300字。原稿用紙10枚ちょっとです。本文ではもっともっと細かい記述もあるので、これはあくまで私の要約、読書メモであることをお忘れなきようお願いいたします。
 『Electronic Music: Systems, Techniques, and Controls』ってどんな本なんだろ、というどこかの誰かの疑問のヒントになれば幸いです。
 Chapter2以降も公開していく予定です。ここまで読んでいただいた方、大変お疲れ様でした。感想、SNSでの共有、労いの言葉、チップ等いただけると励みにあるので気が向いたら是非!


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