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Modular Theater感想文

2025年1月11日、高円寺シアターバッカスにて『Modular Theater I Dream of Wires & SUBOTONICK』を観てきました。猫又は第一部に参戦です。

モジュラー同期のお雑煮くんの渾身の企画、観る前から2025年ベストイベントの一つだなと思っていましたが、実際とてもとても良いイベントだったと思います。

後年、こんなイベントがあったんだなと誰かが知ることが出来ればいいなと思うので、記憶が新鮮なうちに感想と共に色々書いておきます。スマホで鬼の打ち込み一発勝負。

イベントの発端は、聞くところによるとみんなの師匠Z_hyper師匠とお雑煮くんがなんやかんやあって「I Dream of Wires」をDVDで観たのがきっかけらしいです。そこから本家にコンタクト取って、単なるリバイバルに留まらず恐らく本邦初公開(なんだよね?)の「SUBOTONICK」との同時上映(日本語字幕付き!)まで持って行き、実力者達のライブまであるという充実のイベントにまで育て上げたのは本当に素晴らしいことだと思います。

第一部は、
①「SUBOTONICK」上映
②MiztaMaライブ
③「I Dream of Wires」
④isei benライブ
といった進行でした。この進行や順番の配置もとても良い流れでした。

まず、①「SUBOTONICK」について。
電子音楽、特にモジュラーシンセサイザーをやる上でMorton Subotnickは避けて通ることは出来ない名前です。なのですが、日本語であまり詳しい情報がないんですね。検索してもせいぜい、名盤『Silver Apples Of The Moon』のことくらいしか出てこないと思います。
自分自身、『Silver Apples Of The Moon』以上のことは、例えばサンフランシスコテープミュージックセンターの中心メンバーだった、とかくらいしか知らなくて、人となりというか、人物像は正直よく知らなかったです。
そのサボトニックの肉声を聞き、生い立ちを知り、電子音楽のパイオニアとして何を成し遂げ、そして現在何をしているか、といったことを一気に知ることが出来たのはすごいことだと思います。

上映も終わったので、めちゃくちゃ大掴みにまとめておきます。

サボトニックは、クラリネット奏者として活動するも徴兵されたけどなんのかんのあって兵役免除、新しい音楽を求めサンフランシスコで先進的な各界のアーティストと活動を共にしテープミュージック制作を始める。その拠点としてのサンフランシスコテープミュージックセンター。
その後、次第に電子楽器のアイディアが生まれたためエンジニアを募集し、ドンブックラ登場。みんな大好きBuchla誕生の経緯。
サンフランシスコはヒッピーがどんどん集まり、馴染めなかったのでテープミュージックセンターは解散、単身NYへ。そこでBuchlaシンセを使ってひたすら制作に励み、少しずつ仕事が発生し、なんのかんのあってノンサッチから『Silver Apples Of The Moon』リリース、現代音楽としては大ヒット。
その後も演奏活動を行い続け、最新の姿としては映像や身体表現も合わせた総合アートの公演なども行ってる。
みたいな感じでしょうか。固有名詞や人物名がしっかり覚えられてないので、大体です。

個人的な感想としては、サンフランシスはサイケデリックカルチャーの地、というイメージだったし、Buchlaとヒッピーカルチャーには何らかの関係性があると思っていたのに、サンフランシスコテープミュージックセンターの中心メンバーがそれらを嫌がって離れていった、という経緯があったのには単純に驚きました。

また、細かい話ですが、テープループの代わりとしてシーケンサーが作られた、という点は重要なポイントだと思います。
これは多分、電子音楽の技術的な経緯を知らないと意味が分からない話だと思うので、ざっくり書いておきます。
昔のオシレーターは、ツマミで周波数をコントロールすることは出来ても、それを電圧でコントロールするのとはまだできなかったわけですね。なので、テープに特定の周波数を録音し、また特定の周波数に設定してはそれらのテープを切り貼りしたりオーバーダブしたり、みたいな感じで音楽を作っていたと。
しかし、シーケンサーは各ステップに任意の周波数を設定出来るので、つまりテープループの延長線上で考えられていたというわけです。
そもそも、シーケンサーシーケンサーと我々はよく言うわけですが、BuchlaではSequential Voltage Sourceという名前が付いています。Voltage Sourceなんです。単に8ステップとかのメロディを鳴らすためのものではなく、かつてはテープに一回一回録音していたものを、1ステップ毎にパラメータの保存が可能になり、それを任意のタイミングで呼び出すことが出来るようになった、なんて理解をすると、モジュラーで何をするといいかのヒントになる気がします。

他にもまあ色々面白いところはありましたがこの辺で。そんな「SUBOTONICK」上映後は、我らがMizutaMaのライブでした。
お二人の演奏はさすがで、「SUBOTONICK」からの流れを意識したウエストコースト的な音に溢れたものでした。tatata5さんはMusic Easelを、師匠はユーロラックを使用。映画で見聞きしたような音を地続きで演奏でも聴くことが出来て楽しめました。
さらっと書いてますが、映画でレジェンドのドキュメンタリー観て、その音と地続きと感じられるような演奏を目の当たりにする、というのはすごいことです。お二人の実力はもちろん、けして単なる過去の音楽ではなく我々はそれに今でもアクセス出来るわけです。日頃親しんでいるモジュラーシンセサイザーは、過去との繋がりがある文化そのものである、ということが体験として感じられる、お雑煮くんの采配(なのかしら?)を賞賛したいところ。

さて、熱気冷めやらぬ中続いて「I Dream of Wires」の上映です。
モジュラーシンセサイザーの歴史を、「SUBOTONICK」とはまた違う角度から知ることの出来るドキュメンタリー。愛されて、捨てられて、新たな形で生まれ変わり広がっていく波瀾万丈のシンセサイザーストーリー。
2013年制作の映画ということもあり、熱量が現代と違うなと感じました。ユーロラックが誕生して、ある種全能感に包まれていたような時代の空気。
個人的に、ちょっと同調し切れないくらいの興奮を感じました。というのも、我々にとってはもはやモジュラーシンセサイザー、ユーロラックというのはもはや「あって当たり前」のものとなっています。
DX7を筆頭にしたデジタルシンセやソフトシンセ等に一度は駆逐されてしまったあと、求めていたものが再び現れた興奮はリアルタイムでないとなかなか分からない気がします。
制作から10年以上が経過した今、当時と何がどう変わったか、あるいは変わっていないかについて思いを巡らせる必要があるかと思います。

ぶっちゃけ個人的には「SUBOTONICK」が面白すぎたので、感想がちょっと薄いです。細かい話はともかく大筋は既知の話だったのもあり。でも観れてよかったのは間違いない。

そんな「I Dream of Wires」上映後は、ベンさんのライブです。4Uフォーマットのモジュラーと、Error Instrumentsのスタンドアローン機のセット。貫禄のノイズレイヤーと蠢くシンセフレーズはさながら電子ドラッグ(褒めてます)。
「I Dream of Wires」で観てきた、黎明期のシンセシスから爆発的な広がりを見せた多様なモジュールが作り出す、色とりどりの音世界。モジュラーシンセは今やこれだけのことが出来るようになっている。我々は望むがままに、望むだけのことが実現出来る。
MizutaMaの二人が過去との繋がりを披露してくれたのと対照的に、モジュラーシンセの多様性、可能性を体感出来る演奏でした。これまたいい順番でした。

さて、まとめます。
今回の『Modular Theater I Dream of Wires & SUBOTONICK』で、モジュラーシンセサイザー、あるいは電子音楽の過去を知り、現在を体感し、未来について考えるようになる体験をすることが出来ました。
過去については日本語での情報が少ない中、本上映の内容を多くの人が知ることが出来たのはとても良いことだと思います。歴史に根ざした共通言語が増えていくことで、モジュラーシーン全体の強度がさらに高まる気がします。
自身の関心は特に過去について知ることにあるので、「SUBOTONICK」を日本語字幕で観ることが出来て大変有意義でした。サンフランシスコテープミュージックセンターについての文献を年内にはきちんと読みたいと思っていたので、ベースの知識が身に付いたので楽しみです。

推敲一切なしの一発勝負感想文ですので、もしかしたら何か誤認があるかもしれませんのでご容赦ください。お読みいただきありがとうございました。

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